初めてのギルド
大通りを真っ直ぐ進んでいく事少し。
ご婦人方が言っていた通り、一際大きな建物が見えてきた。
出入りは自由なようで、傭兵だけでなく老人や子供なども出入りしているそこは、周りに比べてとても賑やかだ。
見渡しても他にデカい建物なんて無いし、微かに魔物の魔力も漂ってくるし、あそこがギルドとやらで間違いなさそうだな。
無事に着けた事に内心ホッとしていると、建物を見上げていたステラがオレへと視線を移した。
「それで、どうするの?」
「まずは中に入って登録だな。で、ちょいと依頼とやらを受けてみようぜ」
あまりの人の多さにか、戸惑っているらしいステラの手をトントンと撫でてやる。
今まで乳母が一緒にいたり、城に出入りした事があるとはいえ、あんな広い屋敷に一人隔離されていたんだ。
見知らぬ誰かが大勢いる空間も、人混みの中を歩くという経験も、何もかも初めてなら戸惑うのも当然か。
さっき自分から道を聞いてたから話す事に関しては心配要らなそうだが、対人関係に関してはちょいと気にした方が良さそうかもなぁ。
活気ある人々の様子に少し足踏みしていたステラだが、オレに促され建物の中へと入っていく。
人だけでなく、道中見かけた種族もギルドに出入りしているようで、入ってすぐに設けられている広場には多種多様な種族が自由に行き交っていた。
こりゃあ登録するのも一苦労かもなぁ。どっかに受付とかありそうだが……お、あそこか?
通行人にぶつからないようにするのに手一杯なステラに代わり、軽く周囲を見渡してみれば、カウンターに立つ制服を着た女性と、肌を鱗が覆っている青年が話しているのが視界に入る。
流石に種族の名前までは知らないが、海っぽい魔力を感じるから恐らく海の種族だろうか。
丁度話が終わりそうな雰囲気がするので、試しにそちらへ近寄ってもらえば、オレ達は運が良かったらしい。
カウンターの人間に向けて軽く片手を振った青年は、近くに居たオレ達に気付いたかと思うと「どうぞ」とばかりに軽く会釈をして去っていった。
「ステラ、行けるか?」
「う、うん」
ぬいぐるみを抱えている子供だから、カウンターの姉ちゃんもこちらに気遣ってくれているらしい。
行って良いのか躊躇っているステラに対し、姉ちゃんは優しそうな笑顔で待ってくれている。
ちょいと手間を掛けさせてるかもしれないが、そういう対応してもらえるのって助かるんだよなー。
現にステラも近付きやすく感じたようで、そろそろとカウンターに向かっていった。
「あの……」
「はい、どうかなさいましたか?」
「登録? をしたいのですが、ここでできますか……?」
「えぇ、できますよ。少々お待ちくださいね」
どうやらここで手続きができるらしい。
言われた通り待っていると、一枚の書類が差し出され、記入するよう求められた。
ステラが高めに抱えてくれていたおかげでオレにも読めたが、同意書のようだ。
登録上の注意事項がいくつか書かれた最後に、名前を書く欄が設けられている。
御者が魔物専門の傭兵組織みたいな物だとか言ってたしなぁ。
ギルドからすりゃあ、もし何かあっても「命の危険があるってわかった上で登録したよな?」って言えるようにしておきたいわな。
変な契約を結んでしまわないよう念のため端から端まで目を通してみるが、とにかく依頼によっては命の危険がある事と、もし怪我をしたり命を落としても責任は負えないといった事しか書かれていない。
これなら名前を書いても大丈夫だろうと、姉ちゃんに気付かれないよう小さく頷けば、ステラは黙ってペンを動かす。
そして父親に似た、機械のような文字で『ステラ』とだけ書いた書類を姉ちゃんへ返した。
「ステラ様、ですね……念のため年齢を窺ってもよろしいでしょうか?」
「……確か、今年で十三になりました」
「十三、ですか」
ステラって十三歳だったんだなーとかぼんやり考えていたのだが、まさか登録できない年齢だったのか。
さっきステラより小さい子供が出入りしてたから、大丈夫だろって高を括ってたんだが、もしかしなくともピンチだったりする?
そんな不安が伝わったのか、受付の姉ちゃんはハッとした後、慌てた様子で笑顔を取り繕った。
「十三歳であれば登録可能ですよ。ただ、その、失礼かと思いますが、時折年齢を詐称して登録される方がいるもので……」
なるほどなぁ、そういったのを弾くのも受付の仕事ってやつか。
後で自分が対応したやつが詐称してたってなると、この姉ちゃんにも責任が問われかねないもんな。仕事って大変だ。
確かに、ステラの顔立ちって一目で美少女ってなるぐらい整ってるのに、感情があんまり出てないせいか、どっか人形っぽく見えるからなぁ。
オレというプリティなぬいぐるみも抱えてるわけだし、年齢より幼く見えても仕方ないか。
となると、アレを出しちまった方が良さそうだ。
よっこらせとステラの腕を降り、ステラに持ってもらっていた鞄からマルス国王の手紙を取り出す。
気前が良いのか、ギルドにステラを王女として扱わせるためか知らないが、なんか頼んでもないのに紹介状が添えられてたんだよなー。
軽く中身を見せてもらったが、しっかりマルス国王の署名が書いてあったし、ギルドに対する身分証明としちゃあ十分過ぎるぐらいだろ。
なので封筒から紹介状を取り出し、そのまま受付に差し出せば、姉ちゃんは目をまん丸くさせてオレを凝視していた。あのー、オレじゃなくて紹介状見てくんね?
「ぬいぐるみが、動いて……?」
「おう、オレはロアってんだ。よろしく」
「しゃ、喋っ……!?」
さっき他種族であろうとも普通に対応していた姉ちゃんだが、めちゃくちゃ驚いてる辺り、やっぱぬいぐるみが動くのって珍しいみたいだな。
軽く手を振って挨拶したが、更に固まってしまった姉ちゃんにどうしたもんかと首を傾げる。
そんなオレに、ステラが不思議そうに首を傾げた。どした?
「隠すんじゃなかったの?」
「最初はそのつもりだったけどさ、これからのことを考えたらこの方が良いと思ってなぁ。
ステラもオレをずっと抱えて、オレの代わりに色んな人と話してって大変だろ?」
「……抱えるのは何ともないよ?」
やっぱり人と喋るのは疲れるらしい。
これからはオレも対応してくれるとなって、どこかホッとした様子のステラに苦笑いが零れる。
別に、経験を積むためってことで全部ステラに任せても良かったんだけどな。
これから出入りすることが増えるかもしれないってなると、正直周りがオレに慣れてもらった方が早そうなんだよなぁ。
それに、ずっとぬいぐるみのフリしてるのも正直嫌だし。身動ぎ一つ気楽にできないってなると流石のオレでも疲れるんだわ。
「で、この紹介状なんだが、これがありゃ身元の保証にはなるんじゃねぇか?」
「え、そ、そうですね……? でも、これ……しょ、少々お待ちください!?」
そろそろ戻って来てもらいたくて、改めて声を掛ければやっと紹介状に意識が向いたんだろう。
紹介状の中身を確認したかと思うと、姉ちゃんはそう言って奥へ駆けていく。
国王が用意したもんだから問題はないと思うんだが、なんかあったのかねぇ?
先程の騒ぎでオレのことに気付いたらしい視線が若干うっとおしいが、大人しくステラと待っていれば、姉ちゃんが爺さんを連れて戻ってきた。
「えー……お二人がステラ様とロア様でしょうか?」
頼り無さそうな爺さんだが、姉ちゃんがわざわざ連れてきたってことは上司か何かだろうか。
こちらの様子を窺いながら尋ねられ、ステラと二人頷き返す。
爺さんは紹介状を受付に置き、そっと手を翳して魔力を流し始めた。
「……確かに、認証はいたしました。お二人とも、申し訳ありませんがこちらへ来ていただけますか?」
「おう?」
あれか? 国王からの紹介だから別口で対応するって感じか?
こっちは登録できて依頼を受けれりゃそれで良いんだけどなー。ギルドからすれば王女が相手なわけだし、そうは行かないか。
ちょいとばかし面倒臭さも感じなくはないが、こればかりは仕方ない。
そう爺さんに案内されるがまま、オレ達はギルドの奥へと向かったのだった。




