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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 8: ツキアッテルンデショーン事件
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第63話:ア〇ランスの花園さん

「えぐっ、えぐっ、えぐっ……」


花園君に振られた愛彩は、グズグズと泣きながら自分のクラスに戻ってきた。


「ちょ、どうしたの愛彩ちゃん!」


「舞ちゃん……うえーーん」


どうしたもこうしたもない。彼女は花園君に告白して交際を申し込むと言って教室を出たのだ。何らかのことがあって断られてしまったことは誰の目にも明らかだった。


舞が近付いて抱きしめる。身長差があるので子供が母親に抱き着いているように見えるが、それは些細な問題だ。クラスの他の女子生徒も集まってきて、慰めの声をかけたり背中をさすったりと世話を焼く。


「女子が出入口ふさいでんじゃねーよ、邪魔だな」


と心無い声をかけた男子生徒は他の女子に罵声を浴びせられ、蹴られた。


ひとしきり泣いた愛彩が、少しずつ何があったかを口にする。


「わたし、割と勇気出したのに」

「好きって言おうとしたんだけど」

「花園先輩」

「わたしの方が背が高いからって」


「「「はあ〜〜っ!!??」」」


愛彩がそこまで説明すると、彼女の周りに集まった女子生徒は一斉に呆れた声を上げ、口々に花園君を罵った。


「最っ低!」

「意気地なし!」

「小さい!身長じゃなくて人間として小さい!」

「爽やかクソ野郎!」

「そんなハゲと付き合わなくて正解だよ!」


「……ありがとう、でも先輩、ハゲではないよ……」


ハゲまされた愛彩は泣き笑いし、舞をはじめもらい泣きしていた女子生徒たちも一緒に笑った。


放課後には舞のほか仲の良い数名でカラオケに繰り出して「ハゲます会」が行われ、愛彩の気分も少しは晴れたようである。


◆


翌日。


登校した舞は朝から担任の鬼塚先生に呼び出された。


(なんだろう?)


緊張気味に生徒指導室に入った舞に、先生は一通の手紙を差し出した。


「深井君からの手紙です。まず、座ってこれを読みなさい」


舞は戸惑いながらも手紙を開く。


大奈さんへ。

僕はいつも元気で魔法少女までやっている大奈さんのことが気になっていました。大奈さんが渋谷君と仲良くしているのを見ると、気持ちがおかしくなって自分でもどうしたらいいのか分からなくなりました。僕は大奈さんとほとんど話をしたことがないのに、大奈さんは渋谷君と仲がいいので、どうせ僕が話しかけたりしても相手にされないだろうと思いました。

最近、どこからか大奈さんが渋谷君と付き合っているとか、大奈さんが渋谷君のことを好きだという声が聞こえるようになって、僕はおかしくなったのだと思います。

これから病院で検査をすることになったのでいつ学校に戻れるか分かりませんが、僕はデショーンになってしまって迷惑をかけたので、学校に戻っても、大奈さんや渋谷君とは関わらないようにしようと思います。

ごめんなさい。

深井修斗


(深井君、そんなふうに思ってたんだ……)


舞は何とも言えない気分になった。自分と翔星が仲良くしていることが、誰かに嫌な思いをさせているなどと想像もしていなかったのだ。


「先生、読みました。深井君は学校に戻って来られないんですか?」


「はい、その通りです。手紙に書いてあったように、誰もいないはずのところから声が聞こえたということなので、病気ではないかという検査をすることになったと聞いています。このことは、先生と魔法少女以外の人には秘密ですよ。魔法少女としての守秘義務です。分かりますね?」


「はい、先生。渋谷君がデショーンになったとき、アンチ・メントルがいました。私は詳しくないんですけど、アンチ・メントルは人がデショーンになるようにそそのかすことがあるって……愛彩ちゃんが何か、その変な声のことを知っているかもしれないです」


「そうですか。では後で千道さんにも聞いてみましょう」


「それと先生、深井君が学校に戻ってきたら、別にお話しても大丈夫です。もう関わらないなんてかわいそう」


舞がそう申し出ると、鬼塚先生はしばらく考え込んだ。


「渋谷君にも確認して、問題なければ深井君から接触することは構わない、と本人に伝えましょう。でも、大奈さんや渋谷君から先に声をかけてはいけませんよ」


「なぜですか?」


舞が不思議そうに尋ねると、鬼塚先生は渋面を作った。


「いいですか、大奈さん。深井君は隠していたあなたへの好意を、本人の意志と関係ないところであなたに知られてしまったのですよ?恥ずかしくて、関わりたくないと思ったとしても仕方がありません。それに、あなたは深井君に改めて好きだと言われたらどうする気ですか?困るのではないかと思いますが」


「深井君が私のことを好きって言ったら……深井君のことをよく知らないから困るって言うと思います」


鬼塚先生は天を仰ぎ、しばらくして答えた。


「ある意味、そう答えるのが一番いいのかもしれませんね……大奈さん、あなた大物ですよ」


「先生?」


「まあ良いです。話は以上ですから教室に戻っていいですよ」


(よく分からないなあ。深井君、私のことが好きならそう言えばいいのに。手紙にも気になった、とかおかしくなった、とか書くだけでちゃんと好きって書かないし、本当は別にそこまで好きじゃないんじゃないかな)


残酷なようだが、まだ恋というものが実感できていない彼女の素直すぎる感想である。


◆


深井が学校に復帰したのは翌々日のことだった。愛彩が病院に行って彼と話をしたところ、やはり幻聴と思われた声はジョセフ・マッカーシーの仕業らしいということになり、病院からは即開放となったのだ。


それから数日たっても、深井は舞には話しかけてくることはなかった。


しかし舞は、深井が翔星とは楽しそうに話をするようになったことに気付いた。それを見た彼女は安堵とともに、胸の奥になぜかチクりとした感情を覚えた。

【タイトルのネタ元】

ゆでたまごによる漫画「キン肉マン」(1979年~)の登場人物、中野和雄の通称「アデランスの中野さん」

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