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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 8: ツキアッテルンデショーン事件
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第62話:銅40グラム、亜鉛25グラム、ニッケル15グラム、照れ隠し5グラムに正直97キロで、その暴言は錬成されている

『シブタニト、ツキアッテルンデショーン!』


再びデショーンが雄叫びを上げる。舞は警戒し、ジャンプして距離を取った。


「翔ちゃんとは、付き合ってないよ!」


『ウソツキデショーン!』


デショーンが大きく息を吸い込んだ。


「また砂を吐き出す気!?クイック・リアクション!」


ドスン! ブハァ!


ダッシュした舞はデショーンの懐に入り込み、パンパンに膨らんだ体に体当たりしてカチ上げる。デショーンはたまらず、あらぬ方向へと砂を吐き出した。


「追討ちです!ブーヤン、アタック!」


ドオン!


そこに駆け込んでいた施恩が真上からブーヤンを突進させ、デショーンを地面に叩きつけた。


「えっ、施恩ちゃん速い!」


クイック・リアクションでの加速に肉薄する施恩の動きに驚く舞。施恩は巧みにモタルドスティードのスティックを操作して舞の隣に並んだ。


「変身すれば新型魔導機関のパワーは従来型の3倍です。ちょっと、スピードに自信がつきましたよ?」


(車椅子モードでも無理すればここまでできましたが、合体モードなら更に凄いものが見せられたのに……)


施恩はドヤ顔しながらも内心では少し悔しい思いを噛み締めた。


「ちょっとどころじゃないよ!」


「本当は舞ちゃんほど速いわけではないのですが……そこは先読みです」


「余計に凄い……」


素直な舞の賞賛に、施恩は顔を赤らめ照れ隠しするように言った。


「ゲーマーですから」


一方、デショーンはといえば地面に横たわったまま、声を上げて泣いていた。


『ウエエエン、ウエエエン、イヤデショーン、デモ、ツキアッテルンデショーン……』


「わたし、何だかこのデショーンに攻撃する気になれない」


いつの間にか舞の隣にやってきた愛彩がつぶやく。


舞は気まずそうに泣き続けるデショーンを見た。


「深井君、私のことが好きで、私が翔ちゃんと仲がいいのに嫉妬してデショーンになっちゃったんだよね……でも困る……」


「舞ちゃん、ちゃんと分かってたんだ」


愛彩は少し驚いた表情を見せる。


「さすがに分かるよ。でも、深井君のことよく知らないから好きって言われても……あれ、そういえば好きとは言われてない」


舞は少しムッとした表情だったが次第に悲しそうな顔に変わっていった。


そこへ、戸惑いの表情で会話を聞いていた施恩が確認するように発言する。


「ええと……このデショーンが抱えている偏見は、舞ちゃんと渋谷君が付き合っているに違いない、というものだったのですね。偏見というより思い込みですが、こんなこともあるとは」


「さっきまでジョセフ・マッカーシーがいた。あいつが焚き付けたのだと思う」


愛彩は、実はアンチ・メントルの名前を正確に言うことができた。


「焚き付けられたにせよ、デショーンにならないと聞きたいことも聞けないというのは……その、何といいますか……」


『デショーン!?』


施恩の感想に、デショーンがビクンと痙攣した。さらに、舞がこんなふうに続ける。


「しかも、自分の気持ちを言うより先に、私と翔ちゃんが付き合ってるだろうって怒るの、変じゃないかな?情けなくない?」


『ナ、ナサ、ナサケナイデショオオン!?』


デショーンは再びビクンと痙攣すると、そのハート型の体が真っ二つに割れて黒い靄をボン、と一気に噴き出し、あっと言う間に姿を失った。


「えっ、何で!?」


「驚きましたね、スキャンする間もなく……」


驚く2人に、愛彩が胡乱げな表情を向ける。


「舞ちゃん、言葉の刃が鋭すぎだよ。堂峰先輩も相当なものだったけど。本当のことだからって、直接本人に聞かせたらかわいそうなことだってある」


デショーンが消えた後にその場に残されていた深井が、愛彩の声に反応してビクンと痙攣する。そして、白目を剥き、ヨダレをたらして失神した。


デショーン化した人間はその間の記憶が残らないとされているのだが──全く、奇妙な現象である。


◇


「マスチェン、あれ、私が仕立てようとしたデショーンのイメージ、そのまんまなんだけど?一体どうなってるのよ?」


昇降口での騒ぎを物陰から観察していた紅明が苛立ちの声を上げる。


『アンチ・メントル、ジョセフ・マッカーシーの仕業だ。私には関係ないわ』


朧気な黒装束のアンチ・メントルが答えると、紅明はむず、とその体をつかんだ。


「なにそいつ。聞いてないんだけど?」


「今言いましたが何か?」


「ムカつく」


紅明がそれを床に叩きつけると、ブロックノイズとなって四散する。ネットの悪意の煮凝りであるこのアンチ・メントルは、このようなことをしても、いつの間にか紅明の傍らに何事もなかったように現れるのだ。


「ムカつく」


紅明はもう一度悪態をつくと踵を返した。


◆


翌日。


ガラガラ ピシャーン!


2年3組の引き戸が乱暴に引き開けられる。


「花園先輩、いますか」


愛彩の声とほぼ同時に誰かがつぶやいた。


「また来た!」


教室中の視線が花園君に集中する。花園君は気まずそうに立ち上がり、愛彩の前までやってきた。


「お……おはよう。どうしたの?」


「花園先輩……その……」


愛彩は顔を赤らめて視線を外す。


その様子に、教室の誰もが固唾を飲んだ。


「わたし、よく分からないのだけど……どうも、花園先輩のことが」


カシャーン!


間の悪い生徒が金属製のペンケースを机から落とした音が響き、教室はシン……と静まった。


愛彩の目が激しく不審な動きをし、顎の先から汗の雫が一滴垂れ落ちる。


「あ、えーと、千道さんって、背が高いんだね……はは……」


沈黙に耐えかねた花園君はそんなことを口にした。確かに、花園君の身長は愛彩の鼻くらいの高さなのだ。


愛彩は一歩、後ずさった。


「先輩、自分より背が高い女とは……付き合えませんか?」


また、長い沈黙。いや、その場の誰もがそう感じただけで、実際にはほんの数秒のことだ。


「……ちょっと、自信ない……かも?」


ダッ!


愛彩は両手で顔を覆って走り去った。


「最低!」

「チキン!」

「小せえ!身長じゃなくて人間として小せえ!」

「クソ男!」

「ハゲ!」


教室のあちらこちらから一斉に非難の声が上がる。


「あ、え……」


顔を青くして狼狽える花園君。


「うわあ何だ!廊下を走……どうして泣いとる?」


廊下の突き当りから、走る愛彩にぶつかられた加納先生の大きな声が響く。


「あー、これはもうダメね」


教室の隅では、紅明の諦めの呟き。もう、花園君と「ツキアッテルンデショーン」を仕立て上げることは無理だろう。


なぜならその日、「スモール花園」の女子からの人気は地に堕ちたのだから。

【タイトルのネタ元】

西尾維新の小説「化物語」(2006年)

第一話 ひたぎクラブでの戦場ヶ原ひたぎのセリフ「銅40グラム、亜鉛25グラム、ニッケル15グラム、照れ隠し5グラムに悪意97キロで、私の暴言は錬成されているわ」

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