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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 8: ツキアッテルンデショーン事件
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第61話:思考力が なんらかの理由に拠って失われたとすれば……人は『欲望』のみに拠って動く獣……すなわちデショーンになるという事です

「舞ちゃんおはよう」


「お、おはよう、愛彩ちゃん。何だか物凄かったよ?」


騒ぎが一段落したところで、愛彩は何事もなかったかのように舞に挨拶した。舞はまだ、目を白黒させていた。


「かおるさんが言うんだ、その人のことがいつも気になってるのは恋か憎悪のせいだって。少なくとも花園先輩のことを憎んではいないから、恋に違いない」


「ふうん、あのかおるさんが言うならそうなのかも?凄いなあ愛彩ちゃん、恋したんだ」


「どうだ。えっへん」


「で、先に告白されちゃっていいの?」


「何か問題が?」


「だって花園先輩、取られちゃうかもしれないよ?」


「それと、わたしの気持ちは関係ない」


「えー!?花園先輩と付き合いたいとか、取られたくないとか、ないの?」


「うーん、花園先輩がわたしと付き合いたいって言うなら別にいいけど……ところで付き合うって何をするの?」


ガタガタッ


舞と愛彩の会話は教室中の注目を浴びていたのだが──ここで数名がずっこけた。


「え……知らないけど……でも愛彩ちゃん、それ、本当に恋?」


「分からない。とりあえず恋らしいということにしてるけど」


「そんなんでさっき、告白に行かせて良かったのかな?」


そんな会話をしていると脇から割り込むように声がかかった。


「大奈さん」


舞は声の主に向けて振り返った。


「深井君?どうしたの?」


舞と目が合うと、深井は息を飲んで目を見開き、慌てて目を逸した。


「ごごご、ごめん。何でもない」


不審な態度に、舞は怪訝そうに深井の様子を見た。傍らの愛彩は、居心地悪そうにもじもじしている。


教室に漂う妙に気まずい沈黙──そんなとき、パーンと出入口の扉が開いた。


「舞ちゃーん!新しいお菓子!」


翔星だ。手にしているのは、ずんだ餅である。枝豆をつぶし、砂糖を混ぜた餡で白玉餅を包んだ品だ。


普通は学校でのお菓子のやり取りは認められていないのだが、舞に限っては変身に備えて糖質を必要とする特性から「合理的配慮」として菓子類を与えることが認められていた。


舞は椅子をガタガタ言わせながら立ち上がると翔星に駆け寄った。


「おはよう翔ちゃん。また新しいお菓子作ってくれたの?ありがとう」


「ずんだ餅っていうんだ。緑色なのは枝豆使ってるからなんだ。高たんぱくで糖質たっぷり。特大サイズだよ!」


「おおー」


「はい、黒文字つけといたから手づかみで食べちゃだめだよ」


「えへへ、ありがとう」


「じゃあね」


「うん。また放課後ね」


皿を持って席に戻る舞。舞の席の近くに立っていた深井は、また舞と目が合うと踵を返し、翔星が去ったのとは反対の出入口から廊下へと駆け出して行った。遠くから、廊下を走るなと注意する加納先生の声が聞こえる。


「変な深井君。どうしたんだろう?」


「わたし、ちょっと様子見てくる」


愛彩が深井を追って出て行くと、教室のあちらこちらにざわめきが戻ってきた。


「うーん、上品な甘み……翔ちゃん天才」


やがて、舞が大きなずんだ餅をもぐもぐしていると窓の外から絶叫が響く。


『ツキアッテルンデショーン!』


《舞ちゃん!深井君、昇降口でデショーンになった》


「舞君、栄養補給は中止だ。すぐに向かいたまえ」


すぐに愛彩からの連絡が入る。ワーヌに促された舞は半分ほど残ったずんだ餅を置いて席を立った。そして、残った餅を名残惜しそうに一瞥すると窓の方へと視線を移す。


「マジカルバーン・シーケンス・イニシャライズ」


変身した舞はそのまま教室の窓を開け、振り返ることなく外へと飛び出した。


◆


『ドーセ、ツキアッテルンデショーン……』


舞が昇降口に着くと、横倒しになってヒビが入ったハートに筋肉質の脚が生えた姿のデショーンが暴れることなく泣いていた。


(どうなってるの?)


困惑した舞が見回すと、変身した愛彩がいた。空中の小さな何か──ジョセフ・マッカーシーが喚き散らしている。


「ヨーゼフ、ジュゼッペ、今度はヨシフですかぁ……絶対ワザとやっているだろうこのバカ娘がぁ!大人をからかうと痛い目を見るぞ!!」


「いちいち覚えてるんだ。執念深いね」


「口の減らないガキめぇっ!おい、ツキアッテルンデショーン!いつまでも泣いていないでこいつを叩きのめしなさい!」


『ドーセ、ツキアッテルンデショーン……』


「まだ泣いてる……変なデショーンだな。これでもわたし、割と自分のことでいっぱいいっぱいなのに、面倒くさいなあ。えい、ワクチン・インジェクション」


愛彩は隙を見て、マッカーシーの尻に注射針を突き立てた。


「ギャー!また毒を……た、助けてくれぇ」


叫びながらマッカーシーはどこかへと飛んで行く。珍妙なやり取りにどうしていいのか分からずにいた舞は、我に返って愛彩を呼んだ。


「愛彩ちゃーん!今のがマッカーシーっていうアンチ・メントル?」


「そうだよ」


『シブタニト、ツキアッテルンデショーン?』


愛彩が答えたのとデショーンが舞を見たのは同時だった。デショーンは泣き止むと、舞の方を向いた。


『ウラギリモノデショーン!』


デショーンがハートに入った亀裂から息を吸い込むと、その体がパンパンに膨れ上がる。そして、そこから一気に空気を吹き出した。


「きゃあ!いたたた!」


その激しい吐息には砂が混じっていたのだ。舞はそれをまともに浴びてしまった。


『ツキアッテルンデショーン!』


ドンドンドン


デショーンは甲高く叫び、地団駄を踏んだ。


「舞ちゃん大丈夫!?」


「ぺっ、ぺっ……もー、砂だらけ……最悪」


驚いた愛彩が声をかけると、舞は半泣きで答える。


「舞ちゃん、千道さん、待たせましたね!」


その時、昇降口から施恩──高機動車椅子モタルドスティードに座った魔法少女テイミングシオンが姿を見せた。


「モタルドスティードのデビュー戦です。張り切っていきますよ!」


恋に揺れる愛彩、困惑の舞、やる気十分の施恩……魔法少女たちは三者三様に、大概チグハグなのであった。

【タイトルのネタ元】

赤坂アカの漫画「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜」(2015〜2022年)

早坂愛のセリフ「ですが『理性(エゴ)』の源である思考力が 何らかの理由に拠って失われたとすれば……人は『欲望(イド)』に拠って動く獣……すなわちアホになるという事です」


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