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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 8: ツキアッテルンデショーン事件
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第59話:It is the green-eyed monster which doth metamorphose

「この間は久々にカンニングデショーンを出しましたが、やっぱりあれは弱すぎていけませんねえ」


ふたば中学校の廊下をアンチ・メントル、ジョセフ・マッカーシーはフラフラと飛んでいた。白昼堂々の行動だが、廊下には誰もいない。


「んー、ここがバーニングマイとジェネティックメアの拠点になっている料理同好会とやらですか……おや、誰か先客ですねぇ?」


調理室の入り口に張り付き中を窺っている男子生徒が一人。周囲を気にしつつ、中を覗き込んだり首を引っ込めたりと、完全に不審者である。


◇


ジョセフはフッと姿を消して彼に近付き観察を始めた。


(室内にはバーニングマイとジェネティックメア、あとはオタク臭い眼鏡のガキと……ああ、あの娘はオカマデショーンの素体か。げぇ、ブロッコリーなんぞミキサーにかけてどうする気なんだ?)


室内にいたのは舞、愛彩、翔星の1年生3人と副部長の来栖先輩だ。


翔星が舞に話しかける。


「舞ちゃん、たまにはこんなのもいいかなって作ったんだ」


「黄色いね。なんて言うお菓子?」


「カスドース。多分、日本一甘いお菓子。あげる」


「いいの?いつもありがとう翔ちゃん」


カスドース、それは雑に説明すればカステラで作ったフレンチトーストだ。舞は楊枝の刺さったそれを一切れパクりと口に入れる。


「もぐもぐ……あっまあい!力が湧くよー!ありがとう翔ちゃん!」


「へへへ、千道さんも少し食べる?」


「ありがとう。でもそれ、わたしも作ろうと思ったのに先を越された。今度作るから勝負しよう」


「ふっふーん!」


変なポーズをとる翔星。彼は愛彩がかす巻きを作って舞に渡したことを知って、きっとカスドースも作ろうとしているに違いないと踏み──出し抜くことに成功した。


「何か腹立つ……でもおいしい。勝てるかなこれに?」


「愛彩ちゃんが作ったら絶対おいしいよ!」


舞が励ますと、翔星は少し拗ねた。


「僕が作ったのと食べ比べてね。まあ、負ける気はしないけど」


「負けない」


「もー、2人ともケンカしないの!」


「ケンカじゃない。ライバル。強敵と書いて『とも』って読むやつ。ライバルだから翔君って呼ぶことにする」


愛彩がそんなことを言うと翔星はキョトンとした。


「ラ、ライバルか!じゃあ、千道さんのことはメア公と呼んでやる」


「おうよ、翔スケ」


「翔スケ……」


翔星は絶句した。「翔君」はたった5秒で「翔スケ」に格下げ(?)である。


◇


「くっそー、大奈さんとイチャつきやがって、あのオタクメガネ!」


廊下から窺っていた、舞と愛彩のクラスメート、深井修斗(ふかいしゅうと)は廊下に他の生徒の気配を感じ、調理室の入り口から離れて歩き出した。


そのそばにはマッカーシーが付いて来ている。


(なぁるほど、嫉妬ですかぁ)


アンチ・メントルは姿を消したまま話しかけた。


「あの2人、付き合ってますよぉ。知りませんでしたかぁ?」


深井は驚いて立ち止まり、キョロキョロとあたりを見回した。


「……気のせい?」


「もう、付き合ってますよぉ」


不思議がる深井に、マッカーシーはもう一度耳打ちする。


そして、ケラケラと笑いながらその場を飛び去った。


「嫉妬と思い込み……これは良いデショーンが期待できそうですねぇ。ヒャハハハ!」


◆


翌日から、深井は舞のことを監視し始めた。


「昨日言えなかったけど、新しい車椅子格好いいね!」


「性能が素晴らしいのですよ。ほら、こんなこともできます」


パァ、と顔を輝かせた施恩がスティックを操作すると、2輪のみでバランスを取りながらモタルドスティードが「背伸び」をした。


「伸びた!変身していない施恩ちゃんと顔の高さが揃うのって新鮮」


「そうでしょう、そうでしょう!高い所の物も自分で取れますし、立っている方ともお話ししやすくて」


そんな会話を盗み見する。


「愛彩ちゃん、数学の課題、難しくなかった?」


「課題、忘れてた」


「今からやったら?愛彩ちゃんなら間に合うから」


「頑張る」


そんな様子も見逃さない。なお、深井自身は舞のことで頭がいっぱいで、その課題は手に着いていない。


「大奈さん、カンニングデショーンの報告書はまだですか?」


「鬼塚先生、あんなのでも報告書書かないとダメですか」


「だめです」


「えー……じゃあ書きます」


担任の鬼塚先生に舞が注意されているのを見た深井は憤慨した。


『先生、それはおかしいです!カンニングデショーンって、メチャクチャ弱かったって話じゃないですか。書くことなんてありませんよ』


『深井君、確かに君の言う通りだ。先生が間違っていた。すまない』


『深井君ありがとう……好き』


「あっ、翔のスケ!」


深井の妄想は愛彩の素っ頓狂な声に中断される。


「翔スケから少し進化してる!……ところで舞ちゃんいる?」


深井はハッと我に返って教室の出入り口を見ると、そこに翔星の姿を認めて目つきを険しくした。


「どしたの、翔ちゃん?」


鬼塚先生から離れた舞が翔星に接近するのを睨みつけていた深井は、視界の隅に入った愛彩がじっと自分を見ていることに気が付き慌ててそっぽを向いた。


◆


そんなこんなで……


「深井君って絶対に舞ちゃんのこと好きだよね」


「ずっと見てるもんね。でも舞ちゃん、渋谷君と仲いいよ」


「でもでも、渋谷君、最近、千道さんとよく絡んでるよ」


「あれ、千道さんって花園先輩とはどうなったんだろう?」


そんな混沌とした噂話が流れ、深井の心中はマッカーシーの思い通り、順調に乱れていった。

【タイトルのネタ元】

ウィリアム・シェイクスピアの悲劇「オセロー」(1602年)

第3幕の一節“O, beware, my lord, of jealousy;

It is the green-eyed monster which doth mock.

The meat it feeds on; that cuckold lives in bliss.”

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