第56話:電脳戦機ガッチャロン
「呼び出してしまって申し訳ありません」
レトロゲーム研究会の部室に施恩、舞、愛彩が集まっていた。
「今、この中学校には私、舞ちゃん、千道さんの3人の魔法少女がいる状況です。この間のカンニングデショーンは簡単に撃退できたということでしたが、紅明さんが校内にいる以上、強敵に備えておく必要がありますね」
舞は反応に困った。
施恩は両手で2本のスティックを激しく操作し続け、その目は舞と愛彩をチラと見たきり巨大ロボット同士が戦っているモニターに向けられっ放しだったからだ。
「施恩、必死なのは分かりますが、いくら何でも失礼でしてよ?」
「失礼は承知ですが、このままお話させてください。私はガッチャステイックを自分の一部のように使えるようになるまで鍛え上げる必要があるのです」
施恩がプレイしているゲームは3D描画されていてレトロゲームというほど古くは見えなかったが、それでもポリゴンの粗さや平面的なエフェクトは世代の旧さを漂わせていた。
舞と愛彩が顔を見合わせると、エディがため息をつく。
「どうぞお気になさらないで下さいまし。それより今の状況を整理いたしますわ。ミス・伴地は軽度の内臓損傷で、経過は順調とのことですがしばらくは激しい運動は禁止、施恩はブルーアローを失って今は機動力に大きな制限がございますわ」
「友梨佳ちゃん、結構酷いケガなんだ……」
「わたしもそう聞いてる。心配だね」
愛彩と舞が心配する。ゲームプレイ中の施恩が続けた。
「いずれにせよ、少なくとも2週間は友梨佳さん抜きで戦うしかありません。その間、強いデショーンは出ないだろうというのは──期待しすぎでしょうね」
舞はゴクリと唾液を飲み込んだ。
「心細い……」
思わず吐いた弱音を、愛彩が拾った。
「わたしのジェノム・エディターは舞ちゃんの力と相性がいいと思う。先輩にももしかしたら、その──脚が速い動物のゲノムを書き込めば、走れたりするかも?」
──ドンドンドン
ほぼノーダメージでゲームを進めていた施恩が連続して被弾する。
「それは……うまく行くか疑問ですね。私が下半身不随になったのは幼い頃のことで、私にはもう、歩いたり走ったりする感覚というのが分からないのです」
「そっか。ごめんね、先輩」
愛彩が言うと、施恩は安心したように深いため息をついた。
「構いませんよ。それより、舞ちゃんとあなたの力のシナジーは興味深いですね。この後、訓練申請を出して試してみたらどうですか?私は理由があってこのガッチャロンを続けなければならないので、後で結果を──いえ、フラコンを通してその場で教えていただければ」
そう言う施恩の表情は真剣そのもので、どうしてそこまでゲームを続ける必要があるのか、舞も愛彩も聞くことができなかった。だが、どうしても気になることがあり、舞はようやく口を開く。
「……ところで施恩ちゃん、なんでそんなに傷だらけなの?」
施恩は頬に大きなガーゼを当て、片肘にはサポーターを装着し、反対側の掌には包帯が巻かれていた。満身創痍だ。
「ひ、秘密です──あっ!」
集中が断たれ、施恩が操作する巨大ロボットがボスから放たれた極太のビームに吹き飛ばされる。
「ご、ごめんね!行こう、愛彩ちゃん」
「う、うん」
慌てた舞は、愛彩を引きずるように部室を飛び出した。
(なんであんなにゲームしてるのか分からないけど、施恩ちゃんのことだから何かワケがあるんだよね?)
◇
「へえ、ジェノム・エディターって他の人にも使えるんだ。私、何の動物がいいだろう?」
「言ってくれたら、わたしが知ってる動物なら何でもできる。余裕なかったら、勝手に動物を選んで使ってもいい?」
「私が知っていて愛彩ちゃんが知らない動物なんていないよ。あと、勝手にやってもいいけど、ヘビは気持ち悪いからやめてね」
「ええー、ヘビ、格好良いのに」
職員室に訓練申請の書類を出した2人は昇降口に向けて廊下を歩いていた。
「とにかくヘビは嫌なの!ところで愛彩ちゃん、他にはどんなことができるの?」
「クイック・リジェネレイション。ケガとかが早く治るけど、大ケガに使うと逆に入院する」
「なにそれ」
「舞ちゃんが入院して透析した時と同じ。ケガを治すだけのクイック・リアクション、といえば分かる?」
「あー、治すときに筋肉とかのゴミが血の中にあふれちゃうってやつ、説明してもらった!じゃあ、施恩ちゃんや友梨佳ちゃんのケガ、すぐに治せるんじゃない?」
「伴地先輩のは、内臓は何が起きるか分からないからダメって言われた。堂峰先輩のケガはいいと思う」
そう言うと、愛彩はフラコンを取り出した。
「マジックジーン・シーケンス・イニシャライズ」
《変身シーケンスレディ、イニシャライズ……コンプリート。ジェネティックメアVer.1.1、スタンディングバイ》
変身するや廊下を駆け出す赤いナース服を、舞は慌てて追いかけた。
「愛彩ちゃん!廊下を走ると叱られるよ!」
◇
ガラガラ ピシャーン
レトロゲーム研究会の引き戸が派手な音を立てて開かれる。
「なんですか!」
驚いた施恩がキッと入り口を睨み付ける。ゲームを咄嗟にポーズしたのは流石だ。
「はあはあ」
「千道さんでしたか。びっくりさせないでください。慌てた様子でどうされたのですか?」
「先輩のそのケガ、治しに来た。酷いケガだと逆に危ないけど、どう?」
「どうって、ケガの程度ですか?打撲と擦りむいただけですが」
それを聞いた愛彩は巨大な注射器を施恩に向けた。
「クイック・リジェネレイション」
「えええっ!」
驚く施恩が一瞬、真紅の魔法光に包まれる。
「できた」
「千道さん、いきなりは驚きますよ……あ、痛みが消えていますね!」
施恩は肘のサポーターや包帯を外し、手や肘を入念に確かめた。
「治っています。ありがとうございました……ところでその力、ジェンメイさんに使ってみる気はありませんか。あの日以来、彼女は目を覚ましていないということでしたよね?」
成り行き上、魔法少女の中では愛彩が一番ジェンメイのことを知らされている。愛彩は少し考え込んだ。
「難しいと思うけど、助けたい気持ちはある……今日はとりあえず、舞ちゃんと修行する」
そう言うと踵を返して退室した。
「ジェンメイさん……」
施恩は少し物思いに沈んだが、すぐモニターに向き合った。
「ケガも治してもらいましたから、あとは私自身の問題です!」
「その通りですわ。早く、あの欠陥品をあなたの支配下に入れておしまいなさい」
カチャカチャ……カチャ……
『ちょっと、走っちゃだめだよ愛彩ちゃん……』
『窓から出よう』
『あっ待って!マジカルバーン・シーケンス・イニシャライズ……』
激しくスティックを操作し始めた施恩の耳には、廊下から響く愛彩と舞の声は全く聞こえていなかった。
【タイトルのネタ元】
セガによるゲーム「電脳戦機バーチャロン」(アーケード版1995年)




