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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 7: カンニングデショーン事件
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第53話:マジ ぎゅんぎゅんぎゅん 甘すぎて滅!

紅明がバイアースの幹部に堕ちた事件に、最も深く傷ついたのは舞だった。彼女は協会からの事情聴取を拒否し、塞ぎ込んで3日も登校できなかったのだ。


ピンポーン


その3日目の夕方、ドアホンが鳴り、舞の母、美久が対応する。


「あら、翔ちゃん久しぶりね?どうしたの?」


「舞さん、欠席が続いてるって……凄くショックなことがあったせいだって聞いたから心配で」


「そうなのよ。せっかく来てもらったけど、あの子、ほとんど部屋から出てこなくて」


「これ、ハルワっていうお菓子です。ちょっとでも元気出してくれたらと思って」


「悪いわねぇ。どうもありがとう。ちょっと出てこられないか、舞に聞いてみるわね」


そういうと美久は翔星の「あ、大丈夫ですから」という声も聞かず二階へと上がって行った。


「舞、舞!翔ちゃんがお菓子持ってきてくれたわよ。出てきてちょっと顔くらい見せたら?」


「……翔ちゃん?どうして?」


「心配して来てくれたのよ」


「でも」


「いつまでも部屋に引きこもっていてはいけないわ。それともこの部屋に翔ちゃん連れてこようか?」


「それは……いや」


「じゃあ降りてらっしゃい。服は着替えるのよ」


「……うん」


そして、階段を降りると翔星にこう言った。


「折角だから翔ちゃんをダシにして部屋から誘い出すことにしてみたわ。上がって頂戴、お茶を淹れるから」


◇


「ケーキとも少し違うわね。和菓子が大きくなった感じ?」


「和菓子の方がよく分からないから何とも……これ、イランのお菓子なんです。ほら、テヘランっていうお菓子屋さん知りません?あそこに同級生がいて、教えてもらいました」


「あー、そんなお店あるわね。おいしいって聞いたけれど、行ったことないのよ」


「一度行ってみてください。ちなみにハルワは注文販売だそうです。糖質たっぷりで容赦なく甘いんで受け付けない人も多いと思いますけど、舞さんの糖質補給にはピッタリだと思います」


カタリ


美久は席を立って後ろを向いた。


「どうしたんです?」


「何でもないのよ」


そのままリビングから出て行くと、入れ替わりに暗い顔をした舞が入って来た。


「お待たせ」


「こっちもいきなり押し掛けてごめんね。これ、持って来たんだ」


翔星はローテーブルに広げられたハルワを見せた。美久が用意した小皿とスプーン、ティーカップもある。


「ごめんね、食欲ないんだ」


「そう言わず、一口でも。甘い物食べたらきっと元気が出るよ」


舞は座りもせず、美しい幾何学模様に整えられた黄色い菓子をしばらくじっと見て、そして目を逸した。翔星はハルワにスプーンを入れると、小皿に取り分けて立ち上がった。


「いらない」


「自信作なんだ。一口だけでも」


「いらないってば!」


ガシャン


差し出された皿を舞が押し戻し、床に落ちて割れた。


舞は怯えたような顔で後ずさった。


「……帰って」


「ごめん」


翔星は逃げるようにしてリビングを出て行った。そしてパタパタと足音が遠ざかり、玄関から出て行くガチャンという音が響いた。


トントントン


「翔ちゃんに悶えているうちに、事態が動いたようね」


ただならない様子に美久が二階から降りて来た。


そして、リビングで立ち尽くす舞と、床に落ちた割れた皿と菓子を見た。


「まあ」


美久はそれだけ口にするとキッチンへ向かい、ポリ袋とキッチンペーパーを持って戻って来た。そして、無言で床に落ちたものを片付けようとする。


「待って」


舞はしゃがみこむとフローリングにへばり着いた黄色い残骸を剥がし、口に運んだ。


「甘いよぉ……うえぇぇぇん」


美久は立って、ローテーブルに翔星が残していった水筒からティーカップに紅茶を注ぎ、舞に差し出した。


「これが合うそうよ」


舞は汚れたままの手でカップを受け取り、少しだけそれを口にした。


「ひっく、これも、甘いよ……」


そしてカップを母に返すと、両手で顔を覆い大声で泣いた。


美久は声をかけることなく割れた皿と潰れたハルワを片付け、床をきれいに拭き上げる。そして泣き伏す舞を置いて部屋を出た。


「舞君の心が成長する音が聞こえるようだ」


リビングの外から様子を伺っていたワーヌが声をかけると、美久は両手で口を覆った。


「ねえ見た、さっきの?あれが青春よ!キュンキュンしちゃうわあ」


「その反応は少々変態じみてはいないだろうか?」


「ぐへへ、変態で〜す!さ、語り合うわよ。いらっしゃい!」


「は、放したまえ!」


美久はワーヌをむんずとつかむと玄関に向かった。


「舞、ちょっと出掛けてくるわね!」


◆


近所の喫茶店でワーヌ相手に散々愛娘の可愛さを語り尽くした美久が帰宅すると、リビングにあったハルワはきれいに完食されて、キッチンで自動食洗機が唸り声を上げていた。


翌朝、舞は登校して翔星に水筒を返した。


「昨日はあんなことしてごめんね」


「こっちも、押し付けてごめん」


「これまで食べたお菓子で一番おいしかった。また作ってね」


そう言って廊下に駆け出して行く舞を見送ると、翔星は教室にいたアリに駆け寄り、抱き着いた。


「やったぞアリ!アリありがとうアリーベデルチ!」

【タイトルのネタ元】

男性アイドルグループMiLKの楽曲「好きすぎて滅!」(2026年)の歌詞

マジ ぎゅんぎゅんぎゅん 好きすぎて滅!


翔星のハルワ修行については32話、35話あたり

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