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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 7: カンニングデショーン事件
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第52話:俺は世間様の評判欲しさに世直しやってんじゃねえからな

「こんちくしょう!大人しく靄を噴きやがれ!」


小学校の廊下を友梨佳が駆ける。4年生になった彼女の脳裏には、暴れん坊銭形のオープニングソングが流れていた。


『デモ、カンニングデショーン!』


追っているのはこの小学校に現れた、7体目のデショーンにして、3体目のカンニングデショーンだ。


◆


友梨佳が登校を再開したのは、最初にデショーンを倒してから1ヶ月ほどした頃だった。暴れん坊銭形にすっかりハマった彼女は主人公の銭形次郎長に心酔してその口調をマネた。


すると、不思議とだんだん自分の性格が次郎長のように、情に厚くて勇敢な、時には失敗しても決してめげないものになってきたような気になってくる。そして、ある話で次郎長が口にしたこんなセリフが決定打となった。


「てめえバカ野郎!俺は世間様の評判欲しさに世直しやってんじゃねえからな。俺がやりたくてやってんだ!」


(人が自分をどう思うかなんて、どうでもいいんだ!)


その日、友梨佳は父親にこう切り出した。


「なあ、親父よぉ。あたし、学校行ってみようと思うんだが、どうだい?」


「そりゃいいね!友梨佳さんよ。でも、無理だと思ったら、途中で保健室に行ったりしてもいいんだぜ」


「あたぼうよ。でも、何だかでぇじょうぶな気がする」


「そりゃ良かった。頑張んな」


◆


翌日、久々にランドセルを背負った友梨佳は玄関のドアノブに手を出そうとして、軽くめまいを覚えた。


『算数女』

『クスクス』


友梨佳をいじめたクラスメートの顔が脳裏をよぎる。


「てやんでぇ、である」


ダニーが口にした言葉に、友梨佳の中の次郎長親分が目を覚ました。


「おう、行ってくるぜ」


友梨佳は一気にドアを開けて外へと出ていった。


◇


「あっ!友梨佳ちゃんおはよう」


最初の試練は、登校班との合流だ。近所の子が、久々に姿を現した友梨佳に驚いたように挨拶した。


「おう、おはようさん!久しぶりになっちまって、なんか申し訳ないねえ」


「どうしたの友梨佳ちゃん?前と話し方が全然違うよ?」


「色々あったんでい!」


「それより友梨佳ちゃん、魔法少女になったって、本当?すごいね!」


「ありがとうよ!」


友梨佳はすっかり自信をつけ、彼女が登校したことに驚く他の児童にも次々と挨拶していった。


◇


「友梨佳ちゃん……」


昇降口で名前を口にしたきり絶句したのは、クラスメートの女子児童だった。算数の時間に、友梨佳にクスクス笑いをした一人だ。


友梨佳の脳裏に一瞬、その子が見せた意地悪な笑顔がよぎる。だが、彼女は想像の中で、その子の眉間に寛永通宝を投げつけた。


「おう、おはようさん!」


そして、彼女を無視して靴を下駄箱に入れて上履きに履き替えると、スタスタと教室に向かった。


◇


教室には、廊下を走り、勢いのままに駆け込んだ。


「やい、てめえら!今日から戻ってきたぜ!またあたしのことをいじめやがったら、ただじゃおかねえから覚悟しやがれよ!それと、おはようさん!」


クラスメートはポカンとし、教室は静まり返った。


友梨佳は教室を見回すと、須藤の顔を見つけてその机の前に立ち見下ろした。


「……なんだよ」


須藤は目を泳がせる。友梨佳は頭を下げた。


「ケガ、しなかったか?ボコボコに殴っちまって、済まなかったぜ。この通りだ、許してくれ」


「お、俺も悪口いったりしたし……ごめん。ところで伴地さん、なんか変わった?」


須藤はしどろもどろに答える。


「おうよ。あたしの心には銭形次郎長親分が住みついてんだ。それに心強い相棒もいるんだぜ、なあ、ダニー」


ダニーがくっついていたランドセルから離れて浮遊する。


「相棒ではなくメントルである。吾輩はダニー、よろしくなのである」


「なんだそいつ!」


須藤は飛び上がって驚いた。


「そいつとは失礼な子供である。吾輩は友梨佳君のメントルである。メントルとはプロトジェたる魔法少女を導く存在のことである」


「そういや伴地さん、デショーンになった俺のこと、魔法少女になって戻してくれたんだってな。ごめん。ありがとう」


「それほどでもないぜ。戻れてよかったな」


「友梨佳ちゃん、私もごめんね」

「僕も」


他の児童も次々に謝罪を口にする。そして興味津々に魔法少女のことを聞かれ……その騒ぎの最中に教室にやってきた担任は、ひどく驚き、少し涙ぐんだ。


◆


『カンニングデショーン!』


「ラピッド・ストリーム銭投げ!」


ビシィッ!


友梨佳の手を離れた寛永通宝(何と父が入手してきた本物の古銭である)がデショーンの眉間に命中する。


《質量が小さいので、やはりあまり効かないのである。銭投げが有効なのは、フィクションなのである》


「畜生め!じゃあこうしてやらあ。ラピッド・ストリーム」


オールを構えた友梨佳は自分を加速させ、デショーンに突進した。


◇


「先生ーっ、デショーンやっつけたぜ」


黒い靄を噴き出す児童の前に立った友梨佳は、振り返ると大声で呼びかけた。


「お疲れ様、じゃあ、その子を保健室に運ぶから手伝ってくれる?協会にはもう連絡しているから、すぐに救護が来ると思うけど」


「事情聴取は?」


「今日は協会から人が来るそうよ」


「ええーっ、先生のほうがいいのによ」


「仕方ないでしょ」


当時、まだ実績の少なかった魔法少女協会にとって、小学生が魔法少女になるというのは初のケースだった。友梨佳は貴重な観察対象と考えられ、町に協会の事務所が作られて特別なケアがなされるようになった。


デショーンを倒した後、報告書を提出するのではなく協会の職員または小学校の先生が事情聴取するようになっているのも、そんな特例の一つだ。小学生では報告書を書くことが難しいという事情もあるが、それ以上に協会はインタラクティブなコミュニケーションにより詳細なデータを得ることを重視したのである。


そんなわけで、友梨佳は中学校2年生となった現在、最も協会と密な関係をもつ魔法少女の1人となっていた。

【タイトルのネタ元】

ONEによる漫画「ワンパンマン」(2009〜)

サイタマのセリフ「俺はテメェらの評価が欲しくてヒーローやってんじゃねえからな 俺がやりたくてやってんだ」

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