第47話:おまえの態度は正しい……だが、気に食わない
いじめを含む描写があります
苦手な方はご注意ください
「伴地友梨佳さんですね?私、魔法少女協会調査員の柚木佳那です。昨日の事件の聴取に参りました」
昼下がり、友梨佳が入院している病室を訪ねてきたのは調査員の柚木だった。
友梨佳は資材に生き埋めにされたときに辛くもジェット噴射で脱出したが、変身が解けた後で別の落下物に当たりケガをしたのだった。
落下物を防ごうとしたダニーは大きなダメージを受け、今はフラコンの中で休んでいる。
「ああ、あんたが柚木さんか。こんにちは。色々評判悪いみたいだが、新人さんなんだろ?苦労してんじゃねえのか?」
友梨佳の反応が意外だったようで、柚木は数瞬、目を見開いて立ち尽くした。そして、視線を下に落とした。
「私の聴取態度と、それに対して堂峰家から抗議があったことを知っているのですね。上からも指導がありましたから、態度の改善に努めているところです。その、心配いただいたことはありがたいのですが……中学2年生というあなたの年齢を思うと、正直複雑です」
「そりゃあ、しょうがねえよ。あたし、魔法少女6年目だからな。新人のあんたとは、年期が違うんだ」
「……」
柚木は目線を泳がせ、どうしたらいいか分からないという態度を隠そうともしなかった。そして、やっとのことでこう言った。
「本日は、私の担当内で入院していない魔法少女である大奈 舞は聴取を拒否、堂峰 施恩は堂峰家からの要請を受けて別の担当者が聴取予定です。……本来は避けるべき入院患者からの聴取ですが、協会から許可が出ました。ですが……千道 愛彩からの聴取では、重要な情報こそありましたが、協会が最重要視している丹生 紅明の変容についてはほとんど情報はなかったのです。本件に関してはあなたの提供する情報が最も頼りになると考えます。伴地さん、聴取に協力いただけますか?」
「舞ちゃんは、まあ、紅明に憧れていたみたいだから話したくなくても無理はねえだろ。愛彩ちゃんも、後から来たんだからよく分からなくて当たり前だ。いいぜ、話してやる」
柚木は安心したのか、緊張気味だった表情を少し緩めた。だが、それを見た友梨佳は不快そうに眉をひそめる。
「あたしがこの件で話をしようってのは、別に何も思ってないからってわけじゃねえんだ。そこは勘違いするなよ。物凄く腹を立てているし、悲しくて失望してんだ。あたしがちゃんと話をしねえと、あんたや協会がどんなに困るか知ってるから、無理しようってんだぜ」
柚木はそれを聞くと、病室の入り口で立ったまま目を横にそらし、スーツの裾を右手で摘んでぐじぐじとこね回した。
「……魔法少女歴が長いことを差し置いても、あなたは随分達観しているのですね。一体どうしてそんな心持ちになれたのか、聞かせてもらえませんか?」
今度は、友梨佳が驚き目を見開いた。
「詰まんなくて、長い話だぞ?」
「しかし、私にはそれを知る必要があるように思うのです。もちろん、入院中という状況を考えれば、無理にお話しいただく必要はありませんが」
「無理も何も、こんなケガで入院なんて最初から大袈裟なんだよ」
友梨佳は腕組みしてみせる。実を言えば昨日、巨大スプーンをつかんだせいで感覚を失った左手は、多少良くなってはいるものの、ほとんど力が入らないのだが。
「ありがとうございます。では、まずは医師からの許可が出ている範囲として昨日の件から伺って、その先は少しずつ聞いていくことにしましょう」
「いいぜ。まあ、突っ立ってないで座んなよ。そこに椅子があるだろ」
柚木はいつものように、何度も事実確認しながら聴取をした。特に、友梨佳が使用した禁忌魔法、ヴォルテッカと、紅明の行動については細かな確認を執拗に行った。
聴取は休憩時間を入れながら3時間におよび……結局、患者に長時間の尋問紛いの聴取をすることに対してキレたナースに追い出されるようにして、柚木は帰った。
友梨佳の過去については、翌日以降、少しずつ語られることになったのだった。
◆◆◆
意外に思われるかもしれないが、伴地 友梨佳は本来は内気な少女である。
小学校低学年のころ、彼女は自他ともに認める大人しい児童であった。その特徴といえば――算数が大好きで、かつ、得意だったことである。
算数好きの彼女を見た彼女の両親は、娘を天才なのではないかと思い、次々と算数の本やドリルを買い与えた。おかげで、小学校2年生の頃には高学年向けの算数をほぼ、理解していたのだ。
「わたし、算数大好き!」
そう言って笑う彼女を見て、周囲の大人も笑った。優秀な彼女には明るい将来が約束されていると信じていた。
◇
転機は小学校3年生のときだった。
同じクラスに、中学校受験に向けて毎日学習時間を管理され、週に7日塾通いをしている男子児童がいた。
友梨佳の算数のテストはいつも100点。彼もまた、いつも100点。公立小学校の算数のテストで2人の力の差を測ることなど、できはしなかった。
だが、内容の理解の深さというものは、授業中には残酷なほど、透けて見えてしまうものだ。
授業内容は全て理解していて、しかも授業の進行の邪魔にならないよう、決して出しゃばらない友梨佳。
自分の力を誇示したくて、「授業が簡単すぎる」と文句を言い、それでいて時々痛い間違いをする彼。
受験勉強のストレスに晒された彼にとって、友梨佳の示す「静かな正解」は、自分への脅威と映った。
◇
ある日のこと。友梨佳はいつものように100点の算数の答案を受け取った。だが――
ドン!
休み時間、急にその男子児童に突き飛ばされる。強い痛みに、急に視界に入ってきた教室の机や椅子の脚が涙で滲む。
「おまえ、女のくせに算数が好きなんて、変なんだよ!キモいんだよ!」
内気な友梨佳は、何も言い返せずにただ、泣いた。
友梨佳をかばう女子児童が声を上げたのでその場は収まったが……内気な友梨佳とは違って、彼は声が大きくクラスの人気者だったのがいけなかった。
「算数女」
「算数オタク」
「算数バカ」
――いじめが始まったのだ。
【タイトルのネタ元】
東映制作の特撮テレビドラマ「仮面ライダーカブト」(2006〜2007年)
第12話「化粧千人斬」での仮面ライダードレイクのセリフ
「お前の言っていることは正しい……だが、気に食わない!」




