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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 6: ザイニンデショーン事件
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第45話:ふたば中の騎士テッカメンユリカ

この世界には速度の上限がある。それが真空中の光の速度cだ。


速度と似た概念に、回転の速さを表す「角速度」がある。例えば1秒間に1回転という回転を考えるとき、中心から50cm離れた点は1秒間にπm、中心から1m離れた点は1秒間に2πm移動する。つまり、回転体上のある場所の速度は、回転中心からの距離に比例する。


では、大きさが0のものを回転させたとき、その角速度には限りがあるといえるだろうか?


「ヴォルテッカ!」


友梨佳の叫びに応え、その背後に複雑な文様の魔法陣が展開される。ヴォルテックユリカの両肩の装甲が展開し、それぞれに4つのグリーンの宝珠が露出した。それが回転を始めると、ダニーが禁忌魔法を解放する。


《アンロッキング・フォビドゥン・マジック……コンプリート。パーミッション・パーシャル》


宝珠の回転は、やがて目に見えない速度にまで加速していく。そして──


ぶUンPAちン◉▶


──奇妙な音がして、世界の色が変わった。


◇


たとえ原子1つの大きさであろうと、それに「サイズ」があるのであれば、角速度と「サイズ」との掛け算が光速度cと一致するとき、それが角速度の限界だ。だが、大きさが0であれば、その角速度は無限大にすることができるのではないか。それが禁忌魔法、ヴォルテッカの仕組みである。


回転という概念を現実から切り離すことは可能だが、現実問題として大きさを持たないものに回転は定義できない。そこに魔法を割り込ませ、大きさゼロの点に無限角速度という概念を書き込んだとすれば……?そしてそれを、極めて短時間だけ現実世界に顕現させるとすれば……?……それにより時空の座標系が局所的に定義不能な「世界の穴」が作り出される。極めて不安定になった座標系では、向きも速度も時間も、何もかもがメチャクチャになってしまうだろう。


(どうなったんだこりゃ)


その効果には、術者である友梨佳自身が困惑した。紅明に向けてまっすぐ飛行していたつもりなのに、主観的には進んでいるにもかかわらず、いくら進んでも目標に近付けなくなってしまったのだ。そのような戸惑いは、紅明も同じように感じているらしい。


『なにYoこれハ!?』


音波が正常に伝わらず、紅明の声が奇妙な響きになる。彼女は、どういうわけかその場で縦にクルクルと回転し始めた。


(くそっ!)


友梨佳は前に進むのを諦めて降下しようとしたが、今度は真後ろに急加速した。


(おい、ダニー!これは、どうしようもないじゃねえか!どうなってんだよ!)


《言ったはずである。物理法則が不安定になると。魔法で移動すれば多少は良くなるはずである》


「畜生め。ラピッド・ストリーム!」


魔法で下方向への流れを作り出せば、ゆらゆらと不安定な軌道で降下し始めた。ままならない動きにイライラしながら紅明を見れば、ますますその回転は勢いを増して、やがてその場から姿が消えた。


「あいつ、消えたぞ!やりすぎたんじゃねえのか!?」


慌てる友梨佳。だが、ダニーの反応は落ち着いたものだった。


《おそらく魔法を使って影響が及ばない距離まで転移したのである》


「なんでそんなこと分かんだよ?」


《いくら禁忌魔法とはいえ、相手を存在ごと消失させるような「チート」は作者が許さないのである》


「作者って誰だよ」


《何のことだか分からないのである》


「お前、意味わかんねえぞ?これも物理法則の乱れってやつかよ?」


《何のことだか分からないのである》


「畜生め」


友梨佳は問答を諦めた。


「何だよ本当に!ど畜生この野郎!!」


苦労しながらも何とか地上に降りた友梨佳は、地上を歩こうとしてまっすぐ進めないことに気付いてまたも毒づいた。見れば、施恩を抱えて脱出しようとしていた渋井の足が地表から離れ、空中でジタバタともがいている。友梨佳はラピッド・ストリームを連発して何とか渋井と施恩をヴォルテッカの影響範囲外へ押し出し、動けなくなっていた赤井と愛彩、ついでにジェンメイもその場から助け出した。


そして、渋井と赤井から居場所を聞いた友梨佳は、建築現場に入り込んで舞を連れ出そうとしたが――


「なんじゃこりゃ!?」


建物の中では、崩れた資材がピンボールのように跳ね回っていた。


「えっ、ま、舞ちゃん!?」


しばらく呆気にとられてそれを見ていた友梨佳は、飛び回る資材の中に舞の姿を見つける。このままではいつ資材と衝突してもおかしくない危険な状況だ。


「友梨佳君!ここは危険だ、来てはいけない……ぐはあっ」


ワーヌが友梨佳に警告し、舞に衝突しようとする資材を体を張って食い止めた。見ればその姿はボロボロで、既に何度もそうして舞を守ってきたことは明らかだった。


「待ってろワーヌ、今、何とかしてやる。フロー・スタグネイション!」


舞の周囲に流れを阻害するバリアを展開すれば、資材の衝突は難なく食い止められる。だが、不規則に飛び回る資材をかいくぐって彼女を助け出すのは難しそうだ。


(さて、どうしたもんかな……)


友梨佳が考え込むと、ダニーからの警告。


《間もなく物理法則の不安定性は解消しそうである。普通の現象が普通に起きるようになるので注意するのである》


「何だよ、普通のことが普通に起きるなら、いいことじゃ」


ガシャガシャガシャーン!


友梨佳が言い終わらないうちに、飛び回っていた資材は一斉に重力に引かれて落下し、彼女を生き埋めにした。フロー・スタグネイションに守られた舞はそのガラクタの山の上にゆっくりと降下して横たわる。友梨佳はとっさにジェットエンジンを全開にして瓦礫の下から抜け出したが、そこで力尽き、変身が解けた。


身も心も、まさに限界を超えていた。

【タイトルのネタ元】

タツノコプロ制作のテレビアニメ「宇宙の騎士テッカマンブレード」(1992~1993年)

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