第38話:激情型バイアスモンスター ジェンメイの逆襲
「ええ、そうですとも。ですが、追放などとは生ぬるい。アカはこの世から退場してもらいませんと、フォッ、フォッ、フォ」
新たなアンチ・メントル、スハルトの登場に愛彩は首を傾げた。
「誰?」
「わたくしの名前はスハルトですよ。インドネシアをアカから取り返した、このわたくしの名前を知らないとは日本の学生は勉強が足りないようですなあ」
スハルトは肩をすくめてみせた。
「そうなんだ、すごいね。でも、アンチ・メントルだし……とりあえず、注射しよっか」
愛彩が注射針を向けると、マッカーシーが自分の尻を押さえて怒鳴った。
「気を付けろ、あれは毒だ!さっさとあの出来損ないを出して片付けさせろ!」
「そうですねえ、わたくしは期待していませんが……来なさい、ジェンメイ」
「ジェンメイ?」
スハルトが声をかけた方を見た愛彩は、建物の壁際にずっと突っ立っていたジェンメイに気付いた。彼女は最初からそこにいたのだが、存在感が薄すぎて認識できなかったのだ。
「はい」
彼女はゆらりと歩き出し、スハルトに近付いていく。その目は虚ろで、愛彩のことは視界に入っていないようだ。
《様子が変だわ。気を付けなさい》
ローザが警告を発する。愛彩はジェンメイに声をかけた。
「ええと、どうしたの?おーい」
ジェンメイは一旦は愛彩の方にぼんやりと顔を向けたが、すぐにスハルトの方に向き直るとヨロヨロと近付いた。スハルトはいつの間にか手にしていた、禍々しいオーラを放つパンダの仮面を見せつけながら愛彩に宣言した。
「フォッ、フォッ、フォ、この娘は魔法少女の適合者だったのを、わたくしたちバイアースが先んじて組織に取り込んだのですよ。サイキックなどというワケの分からない力があるせいか中途半端な力しか出せずにいましたが、あなた方の戦力が増強されてきたので非常手段を取ることになりまして……少し強い洗脳をいたしました。さあ、ジェンメイ、これを」
差し出されたパンダの仮面を受け取ったジェンメイはそれを頭上に掲げた。
「メタモルフォーシス・イン・メラノレウカム・マリグナム」
仮面はジェンメイの手を離れると、くるくると回りながら上昇する。
「ああ、嫌だ嫌だ。薄汚い華僑には、過ぎた祝福ですよ」
スハルトはそう言いながら仮面へと飛び込み融合する。そして、仮面からは黒い雫が撒き散らされ、ジェンメイに降り注いで全身を黒く染めていった。さらに足元から黄色い光線が彼女の体をスキャンしながら上昇していき、体を白と黒に塗り分ける。仮面は紐のように引き伸ばされ、くるくると巻かれた鞭となって彼女の右手に収まった。
そして、ジェンメイは白黒に塗り分けられたエナメル質のボディスーツに鞭、左目の周りに黒い星が3つ描かれた姿となった。
『アハハハハハ、見テ!こレがバイアースの幹部、エスパーンダ真美ノ本当の姿ヨ!』
その口元は嘲るような弧を描いていたが、細められた目はどんよりと淀んでいた。
◆
「紅明ちゃん!紅明ちゃん!しっかりして!」
舞が声をかけるが、紅明は真っ青な顔でブツブツと何かを呟いている。目の焦点が合っていない。
「クソ、あのデショーン、最悪だ……」
友梨佳が悪態をつく。その視線の先ではザイニンデショーンが口からカエル型のスレイブ、サブレを吐き出そうと、もがいている。
その周囲では小猿型のスレイブ、エテクーンが跳ね回り、嫌がらせを繰り返して行動を制限していた。
「とにかくあいつをさっさと倒しちまおう。行けるか、フレイム・カーテン?」
舞は友梨佳の問いに頭を振った。
「だめだよ、友梨佳ちゃん。ここ、襲われていたおじちゃんの大事なお仕事の場所なんだから」
赤井は20代後半の若者なのだが、舞にかかればおじちゃん扱いだった。
「じゃあ、とりあえず紅明をあいつから引き離そう。あたしが家まで連れ帰るから、舞ちゃんは施恩と一緒にあいつをやっつけてくれ!」
そう言うと友梨佳は紅明を抱えようとしたが、紅明は激しく身をよじった。
「嫌、触らないで!」
「……!」
友梨佳は愕然として2、3歩後ずさった。
(紅明ちゃん……)
舞もまた、強いショックを受けた。
「……紅明ちゃん、あのデショーンは……ええと、相性が悪いよ。ここから離れよう?」
舞が声をかけると、紅明は下を向き蚊の鳴くような声で答えた。
「……放っておいて。お願い」
「でも……」
《やめたまえ、舞君。今、何を言ってもムダだろう。それよりデショーンを早く排除した方がいい》
ワーヌの助言を受けて、舞は友梨佳に背を向けた。
「友梨佳ちゃん、早くあいつを倒そう。もう一度、空から突っ込んでみる。オキシジェン・ブラストを組み合わせれば、一撃で倒せるかも」
「よし、やってみるか!……紅明、あのクソデショーン、ぶっ飛ばしてくるから待ってろよ!」
舞をつかんで飛び上がる友梨佳を、紅明はぼんやりと見ていた。
◇
「よし、準備完了だ!いくぜ舞ちゃん!」
「うん、いいよ!」
十分スピードが乗った状態で友梨佳が声をかけると、舞はいつでもオキシジェン・ブラストを使えるようにワンドを構えて集中した。
(施恩ちゃん、危ないから離れて!)
(分かりました。任せましたよ、舞ちゃん)
投下された舞は一直線にデショーンに突っ込んでいく。だが、デショーンは恐るべきカンをはたらかせ、素早くその軌道から外れようとした。
「オキシジェン・ブラストォ!」
とっさに舞は、空中で魔法を放った。ワンドの先端から酸素……それだけでは燃焼反応は起きないので、ワーヌのアシストで適量の水素が放たれ、激しく燃焼する。
「うわ、これ、ちょっ!」
魔法により加速された反応は、凄まじいジェットとなって放たれ、想定外の勢いで舞をあらぬ方向へ加速させた。
(落ち着きたまえ、舞君。この推進力をうまく利用するのだ。ワンドを伸ばすから、体を支えるのに役立てるといい)
「ぐぎぎぎ……」
舞は歯を食いしばり、必死にワンドにしがみついた。オキシジェン・ブラストを使っているので体内の反応加速は同時には使えず、頼りは素の体力だ。舞は何とかワンドの柄の先端をつかみ、脚で柄を挟み込んだ。不格好だが、箒に乗って空を飛ぶ魔女の体である。
舞は腐っても魔法少女なので、魔法の箒とあらば本能的に操ることができるのだ。空中で反転すると、幸い、そこは現場からそう離れてはおらず、デショーンの巨体が見える。
舞はオキシジェン・ブラストに込める魔力を振り絞った。そして、逃げようとするデショーンに突貫するとき、その口は無意識にこう叫んでいた。
「コメットォォォ・シュータアァァァッ!」
【タイトルのネタ元】
東宝の映画、劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲(1998年)




