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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 6: ザイニンデショーン事件
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第39話:脱獄 ― Prisoners of Nous

女の子がかなり痛がるシーンがあるのでご注意ください。

空中でオキシジェン・ブラストを放ち不規則な軌道で飛び始めた舞に、友梨佳は付いて行くことができなかった。


半ば呆気にとられてそれを見ていた彼女は、細長く伸びたワンドにしがみつきながらデショーンに向けて加速する舞に、品治先輩――プロパルションミクルの姿を幻視した。


「コメットォォォ・シュータアァァァッ!」


舞の絶叫は、正しく友梨佳、紅明、施恩が揃って憧れた「強くて格好いい先輩」が最後に一度だけ成功させた大技の名だった。


ドガアアアン!


逃げる背中に舞が一直線に突っ込み、デショーンは前のめりに倒れ、地面に激しくめり込む。


『デモ、ザイニンデショーン……』


デショーンは黒い靄を吹き出しながら弱々しく首を持ち上げ、最後に一言吠えた。


「黙りなさい!スキャン・スレイブ、命名【バード】、エターナルエンプロイメント!」


施恩のバイザーから光がグリッド状に放たれ、白黒の囚人服を着たデショーンを走査する。デショーンはすぐに消え、後には気絶した現場監督が残された。施恩の眼前には粒子が集まるようにして、両腕と胸元が露出した青い服を着て、額にバンダナを巻いた逞しい男性【バード】――ゲームに登場した姿とは頭身が変わっていて多少可愛らしいデザインになっている――が顕現した。


「罪人罪人と、最後までしつこいのですよ!……それにしても、先程の舞ちゃんのコメット・シューター、あんなものを見せられたら紅明さんは……」



一方で舞はデショーンごと地面に突っ込み、跳ね飛ばされていた。


足場の一部を破壊しながら建設途中の鉄骨に叩きつけられた彼女は、友梨佳による強化のためダメージは受けず、鉄骨もまた、その衝撃を無事に受け止めた。


地面に落ちた彼女は魔力を使い切って変身を解いたが……


「あいたぁ!」


壊れた足場から、置き忘れられていた小さなスパナが落下して脳天を直撃した。工事現場でヘルメットをしないのは、とても危険なことなのである。



「ジェノム・エディター、キャット・アジリティ」


「アハハハハ、無駄ネ!」


ビシィッ!


愛彩はその鞭の一撃を辛うじて回避した。


猫の耳としっぽを生やした愛彩が発現しているのは、猫の反射神経と敏捷性だ。ジェンメイがテレポーテーションを繰り返して鞭を振るってくるので、愛彩は劣勢に追い込まれていた。


相手の動きを先読みすることを諦めた彼女は猫の反射神経をもって、鞭が振るわれるのを見てから避ける作戦をとったのだが……


「アハハハ、避けるだけでハ、勝てないヨ?」


《その通りだわ。このままではジリ貧よ》


(困った。勝てない。逃げないと)


ビシィッ!


鞭を回避した愛彩は空中で体をひねってビルの壁を蹴ると、距離を取るべく複雑な軌道で跳ね回った。そして路地を曲がり逃走しようとしたが……その猫の耳が赤井の声を捉える。


「うわ、いきなり何だ!やめろ!」


(赤井さん!)


愛彩が振り返ると、赤井が鞭に巻かれて隠れていた物陰から引き出されていた。


「逃げルなら、逃げれバいいネ。この男ハ、デショーンの材料にでもするネ。アハハハハハ……」


いつもどこか醒めている愛彩の心が、怒り一色に染まった。



「あいつ!あいつ!赤井さんを!」


一面に炎が燃え盛る、不思議な空間で愛彩とローザは向き合っていた。


「いいじゃない、いいじゃない?あなた、ようやくようやくこちら側に来たのよ」


「うるさい。あいつを叩きのめす。ここはどこ?早く行かせて」


「ここは私の世界。恨みと怒りに染まりきった、汚れた場所よ」


「それがどうかした?なぜわたしはここにいる?」


「感情に身を任せてしまったあなたは、私の力をより引き出せるわ。理性からの脱獄、ジェノム・エディター2……同時に2つの外部遺伝情報を発現可能よ」


「猫の素早さに……熊のパワーがあれば……」


「決まりね。ジェノム・エディター2、グリズリー・キャットよ」



「おおおおお!」


気付くと、愛彩は凄まじい勢いでジェンメイに向かって突進していた。猫の耳、猫の尻尾、そして、手足はグリズリーの姿だ。


戻って来た愛彩を見て、ジェンメイは唇の端を歪ませる。


赤井は捕まっていることよりも、鬼気迫る愛彩の様子に恐怖を覚えたらしい。


「お、おい愛彩ちゃん!落ち着け!」


「ガアアッ!」


跳躍してジェンメイに襲いかかる愛彩。そのグリズリーの手がジェンメイを捉えようとした瞬間、


「馬鹿ネ?」


ジェンメイはテレポーテーションで赤井と自分の位置を入れ替えた。


赤井の目が見開かれるのを、愛彩はスローモーションのように観察することができた。その手を振り下ろさないように無理やり空中で体をひねる。


グキィ


「アアアッ!」


肩が激しい音を立て、愛彩の悲鳴が響いた。


「怒りは人ヲ馬鹿に変えるネ。自滅するとハいい気味ヨ。さテ、オマエを痛めつけてフラコンを砕くト……あ、あレ、どうしテ……?」


ジェンメイはたたらを踏んで尻もちをついた。変身が解かれ、パンダの仮面を手にしたスハルトが離れていく。


「やっぱりダメでしたねえ。もう限界が来てしまった。まあ、魔法少女を1人戦闘不能にできたのですから、劣等人種にしては上出来でしょう」


地面に倒れたジェンメイは白目をむき、口の端からは涎が伝っていた。スハルトはそんな姿を一瞥すると、肩を押さえて苦悶の声を上げる愛彩の方を向いた。


「フォッ、フォッ、フォ、これだけのダメージを受けて変身解除しないとは、大した根性ですねえ。ですが、それも時間の問題でしょう。変身が解けたら、ゆっくりフラコンを奪わせていただきますよ」


「おい、クソ野郎。俺を忘れるなよ」


赤井が愛彩の前に立ちはだかる。そして、出所してから一度たりとも人に向けたことのなかったその拳をしっかりと固めた。



一方でマッカーシーは電柱の影で青い顔をし、その様子をあまり見ないようにしていた。


「……ああいうのは勘弁して欲しいですなあ。くわばらくわばら……」


人の心を痛めつけることに躊躇のない彼ではあるが、身体的な痛みのことは、他人のことすら想像するのも苦手なのだった。

【タイトルのネタ元】

SNKのアーケードゲーム 脱獄 ― Prisoners of War(1988)

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