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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 6: ザイニンデショーン事件
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第37話:ロバ娘 プリティーキャリー

『ザイニンデショーン!』


紅明を指差して叫ぶデショーン。


品治先輩を傷付けたことに苦しんでいる紅明に向けられた「罪人」のセリフ……舞は全身の血流が沸騰するような激しい焦燥感に、我を忘れた。


「こいつ、黙れええっ!」


再びデショーンの足元に駆け込んだ舞は、飛び上がりながらワンドを下から上に降り抜いてその顎をかち上げる。


『ブエショーン』


激しい衝撃にデショーンの巨大な体が少し浮き上がり、あおむけに倒れた。舞はその顔面に馬乗りになると、ワンドを何度も口に向かって振り下ろす。


「黙れ!黙れ!黙れ!」


《落ち着きたまえ、舞君。血糖値が下がり始めているぞ》


(でも、こうでもしないと紅明ちゃんが……)


横目で確認すると、友梨佳が紅明に近付いて何か言っているのが見えた。そのせいで少しだけ安心してしまったのか、一瞬の隙を突かれ、舞はデショーンにつかまれてしまう。顔から引き剥がされそうになった舞は両脚でデショーンの顔を挟んで抵抗するが……


『パンツ、イチゴデショーン』


「いやああああっ!」


夢中でデショーンの顔面に馬乗りになっていた舞は、その目の前にパンツを晒していたのだった。羞恥に悲鳴を上げた舞は、とうとう地面に放り出されてしまう。


デショーンは舞のことなど興味はないとばかりに立ち上がると、また、紅明を指差して叫んだ。


『ザイニンデショーン!』


(しまった!)


涙目でスカートを抑えながら、臍を噛む舞。視界の端では紅明が変身を解いてふらつき、友梨佳がそれを支えようとしていた。


(こいつ……!)


怒りに燃える舞。だが、次の行動を起こそうとした瞬間、その耳が凛とした声を捉えた。


「少し黙りなさい……サブレ、アタック!」


「施恩ちゃん!」


施恩が放った大きなカエル型のマスコット「サブレ」がジャンプし、ヌルりとデショーンの口に飛び込んだ。


『モモモモモョーン』


デショーンはサブレを吐き出そうともがくが、ヌルヌルしていてうまくいかないようだ。


「この無礼なデショーンは、しばらくは私が引き受けます。紅明さんの様子がおかしいですから、舞ちゃんはそちらへ」


「分かった。ありがとう施恩ちゃん!」


舞は大慌てで紅明の下へと走った。



パカッ パカッ パカッ パカッ ……


街中に響く馬の蹄の音。これは、現場へと走る愛彩の足音だ。ジェノム・エディターで馬の遺伝子情報を発現しているのだ。


「あ、赤井さんおはよう」


路地から小走りで飛び出してきた赤井の姿に、愛彩は脚を止めた。実を言えば赤井は夜光蝶の常連で、開店前から店にやってくることもしばしばなのだ。下校中に夜光蝶に立ち寄った愛彩は開店までに帰宅するのだが、そのときによく会うのでこの2人は顔見知りなのである。


「うお、何じゃお前!?……って、愛彩ちゃんかよ。デカい注射器持って馬の脚を生やした赤いナース服って、お化けかと思ったじゃねえか」


「そっか、驚かしてごめん」


愛彩は一旦、ジェノム・エディターを解除した。


「で、その恰好は何なんだ?愛彩ちゃん中学生だろ?それ系の店で働くには早いはずだろう」


「それ系の店?」


愛彩が小首を傾げたので赤井は困った。女子中学生に夜の店の種類の話をするのは……どう考えても良くないことだ。


「赤井さん、さっきから百面相」


愛彩は微笑んだ。普段無表情な彼女の自然な笑みに、赤井の心臓が撥ねた。


(お、俺は何を……相手は中学生だぞ。ションベン臭いガキ相手に……)


「変な赤井さんだなあ。わたし、魔法少女の仕事なんだ。急いでいるから行くね」


愛彩が立ち去ろうとすると、赤井は慌てて口を開いた。


「魔法少女!?愛彩ちゃん、その恰好は魔法少女だったのか。俺はさっきデショーンに襲われて逃げてきてよ。ピンクと緑の魔法少女が、現場で戦ってるはずだぜ」


「そうなんだ?どっち?」


「こっちだ」


赤井は路地に駆け戻る。するとその後ろから愛彩の声が追ってきた。


「ジェノム・エディター ドンキー・キャリー」


パカッ パカッ パカッ パカッ


赤井が振り返ると、下半身を馬ではなくロバに変え、ケンタウロスのような姿になった愛彩が迫っていた。


「うわ、何を!?」


愛彩は赤井に追いつくと、無理やり捕まえて、おんぶするようにロバの背に乗せる。


「案内して」


「何だこれ」


「ロバ。馬だと高すぎて落ちたら危ない。少し遅くなるけど、迷うよりまし」


「そ……そうか、いや、よく分からんが。とりあえず、この道はしばらくまっすぐだ」


「わかった」


そう言って駆け出す愛彩。


「おわ、危ねえ!」


鞍も何もない裸馬、いや、裸ロバなので踏ん張りがきかず、思わず愛彩の背中にしがみつく赤井。密着した彼女から漂うチューベローズの香りに、頭がクラクラした。



「そんなに急いでどこへ行こうというのかな、お嬢ちゃん?」


ロバ化した愛彩が赤井を乗せて3、4分ほど駆け、現場まであと少しの距離まで来た頃、聞き覚えのある声が彼女を呼び止めた。


「あ、えーと……ジュゼッペだっけ?」


アンチ・メントルのジョセフ・マッカーシーは青筋を立てた。


「ワザとやってるだろう、お嬢ちゃん?相変わらず口の減らないメスガキめ……ああ、イヤだ、イヤだ、今日もそんな真っ赤な恰好をしおってからに。他の女の子たちはもう戦っているというのに、お前さんだけ遅れて何をしているのかな?」


「何だこいつは?」


愛彩の後ろから赤井が顔を出した。


「えーと、昔、アメリカで大勢の人に迷惑をかけたり、最近、人間をデショーンにしたりしているヤバいやつ」


「そりゃとんでもねえな。魔法少女の敵じゃねえか」


「そうだね。赤井さん、降りて」


そう答えた愛彩は巨大な注射器を持ち直した。


赤井は愛彩の背から飛び降りると、心得たもので、物陰へとダッシュして身を隠した。


「赤井?恰好も赤ければ、乗せている男も赤か。やっぱりお前さんのようなやつはさっさと追放しなければいけないようだ。なあ、スハルトよぉ?」


「ええ、そうですとも。ですが、追放などとは生ぬるい。アカはこの世から退場してもらいませんと、フォッ、フォッ、フォ」


スハルト――インドネシア共和国第2代大統領にして、この国の急激な経済成長を成し遂げながらも、一方では共産主義者や独立運動への虐殺を行い、政治の徹底的な腐敗を引き起こした元·独裁者が、アンチ・メントルとしてそこにいた。

【タイトルのネタ元】

Cygamesのゲーム ウマ娘 プリティーダービー(2021年~)

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