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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 6: ザイニンデショーン事件
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第36話:くお〜‼ぶつける〜‼ここでエンジン全開、インド人を放す!

ジジ……ジジ……


空間が揺らぐ。そこに存在するような、そうでないような小さな人影。


『外国人が、日本の文化を破壊しようとしている』

『物流が滞っているのは、首相1人の責任だ』

『LGBTQの権利を叫ぶ人は、気持ち悪い』

『障害者は、私たちの税金を食いつぶしている』

『ベビーカーを畳まず電車に乗るのは、子持ち様だ』


誰でもない人々の、雑な意見。AIとSNSによって増幅され、のたうつ巨大な悪意。


アンチ・メントル「アノニマス・エコーチェンバー」。実体の不確かなそれは、どこにもいないようで、どこにでもいる。



白黒ボーダー柄の囚人服を着たデショーンが絶叫する。


『ザイニンデショーン!』


「クソ!なんなんだあいつ!」


土曜日の午前、赤井康生はデショーンから逃げ回っていた。ここは、とある建設現場。彼はそこの作業員だ。赤井以外の作業員は、皆――デショーンになってしまった現場監督を除いて――既に逃げ出している。


赤井は3年前まで受刑者だった。仲間とともに電線窃盗に手を染めてしまったのだ。


彼は出所後、元受刑者の社会復帰に理解のある、建設会社の社長に拾われた。刑務所で規則正しい生活を叩きこまれた彼は、建設現場の仕事なんて余裕だろうと高をくくっていたが、現実は甘くなかった。それでも何とかへこたれずに今日まで勤め、ようやく自分で少しは様になってきたような気持ちになっていたのだが……


先月新しく上長になった現場監督は、元受刑者の赤井に対し、あからさまに辛く当たった。


赤井はムカついたが、彼は、自分が反抗的な態度をとればますます相手の態度が悪くなると知っていた。それで、気持ちを押し殺し、キツい物言いにもひたすら我慢していたのだが……残念ながらこの上長にはそれがかえってカンに触ったらしい。日頃から嫌味と嫌がらせが繰り返され、赤井はいい加減に辟易としていた。それにしても、


「俺は騙されねえからな!てめえみたいな野郎はどこまでいっても罪、ザイ、ザイ、ザイザイザイザイザイザイ……ザイニンデショーン!』


と、デショーン化して襲って来るとは予想外だ。


アノニマス・エコーチェンバーが、この頑迷な上長にこっそりと黒い雫を垂らしたのである。


赤井は現場を逃げ回っていたが、体力お化けの彼とて疲れはするわけで……少々諦めかけていた。


「わっ、ちょ、外れ!イヤーっ!!」


ガシャーン!


積まれていた資材に何かが突入して大きな音が響いたのはそんな時だった。



学校外でデショーンが現れた場合、関係機関から友梨佳に連絡が入り、さらにフラコンを通して魔法少女たちに召集がかかることになっている。外出していてたまたま現場の近くにいた舞は、友梨佳と現場近くで落ち合った。


「お、舞ちゃん早いな!」


「うん、たまたま近所にいたんだ。他のみんなは?」


「紅明はもうすぐ着く。施恩も車でこっちに向かってる。愛彩ちゃんはちょっと時間がかかるってよ!」


「じゃあ、まず私たちだけで頑張ろう。友梨佳ちゃん、これ、取っ手!」


舞が友梨佳に背中を向ける。確かに放熱翼の基部からハンドルが2本突き出ていた。友梨佳がつかんで飛行するために新たに設けられたものだ。


「よし、さっそく試してみるか!」


友梨佳はエンジンを吹かして浮き上がると、舞の後ろに回り込んで取っ手を握った。そしてそのまま上昇する。


『ザイニンデショーン!』


ドタドタと建設現場を走り回るデショーンが1人の男を追いかけているのが見えた。


「あの人、追いかけられてる!早く何とかしないと!」


舞が叫ぶと、友梨佳が応えた。


「行くぜ舞ちゃん、歯ぁ食いしばれよ!」


『バーニングマイの耐衝撃化および空気抵抗の無効化……コンプリート。無誘導等速直線運動で投下するのである』


ダニーのナビゲートで投下された舞は高速でデショーンに迫ったが……逃げる赤井が急にその方向を変えたのに合わせてデショーンもその向きを変えてしまう。


「わっ、ちょ、外れ!イヤーっ!!」


ガシャーン!


資材の山に突っ込む舞。


「あちゃー。大丈夫かーっ!」


「いててて、だーいじょーぶー!」


友梨佳が大声で呼びかけると、返事が返る。


「現場ぁ!荒らすなぁっ!」


追われていた男――赤井は息を切らしながら、それでも舞に向かって怒鳴った。


「ごめんなさい!」


(そっか、あの人のお仕事の場所なんだ。それじゃあ……クイック・リアクション!)


舞の放熱翼が熱を発して周囲が陽炎に揺らぐ。そして舞は素早くデショーンの足元にもぐり込むと、脚を持ちあげてひっくり返した。


ズシン!


『デショーン!』


「おっらああ!ラピッド・ストリーム!!」


『デショオオオン!』


友梨佳が自分自身を加速してデショーンの腹に突貫し、追い討ちをかける。


「た、たすかったぜ……ありがとうよ、魔法少女!」


赤井は礼を言うと、転げるように現場から出て行った。


『デショーン!ザイニン、ドコデショーン!』


怒ったデショーンが跳ね起きるが……赤井の逃げ足が速く、見失ってしまったらしい。キョロキョロと当たりを見渡し……そして1点に視線を定めると叫んだ。


『オマエ、ザイニンデショーン!』


……その視線の先にいたのは、到着した紅明だった。


(最悪!何とか黙らせないと……)


舞は急激に湧き上がる焦燥感で自分がおかしくなるのではないかと感じた。

【タイトルのネタ元】

雑誌「ゲーメスト」1997年4月30日号の伝説の誤植「くお〜!! ぶつかる〜!! ここでアクセル全開、インド人を右に!」

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