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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 0: デブブタデショーン事件
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第33話:銀香 ―流れ星 ボビー―

『デブノブタデショーン!』


糖尿病患者への「太っている」という偏見が形を変えたそのデショーンは強かった。


友梨佳は一撃でバリアを破られ、そのまま突進を受けてダウン、紅明のフォトニック・レイは分厚い脂肪に阻まれ効果が薄い。この頃の施恩はブルーアローもスレイブも持たず、攻撃手段がほとんどなかった。


「ロケット・ブースター!」


品治先輩――魔法少女プロパルションミクルが左右の手に持った2本のロケットに点火し、デショーンに体当たりを試みる。


だが直線的な動きは不規則に暴れ回るデショーンをなかなか捉えられず、品治先輩は何度も突撃を繰り返していた。


「紅明さん、ようやくデショーンの動きが解析できました。照準を――アタック・ナビゲーション」


「分かったわ」


施恩の魔法が紅明の目の前に投影した立体映像が、カウントダウンの数字を示す。右腕をデショーンの方向に向ければ、自然に一点を指し示して固定され……そしてカウントが0になる。


「フォトニック・インパルス」


一瞬、フォトニック・レイよりも強い光が放たれ、デショーンの前脚に突き刺さった。


『デショーン!』


そのまま前のめりにグラウンドに倒れ伏すデショーン。品治先輩はその隙を見逃さなかった。


「リフト・オフ!」


ロケットを噴出させて上昇すると、反転降下して真上から突進する。


「はあああ!コメットォ・シュータァァァ!!」


魔法少女になって以来、一度も成功したことがなかったその技が始めてデショーンに突き刺さった。そして先輩はロケットの噴射を継続し、巨大な太った豚を地面に縫い留める。


『デショーン!ハナセ、デショーン!デショーン!』


「フォトニック・ストーム」


悲鳴を上げるデショーンに紅明が光線の乱舞を放つ……だが、この切り札を切ってもなお、デショーンは健在だった。


(アル、これ以上の攻撃力を望むなら、あれをつかうしかないのね?)


《その理解で間違いないよ。紅明の魔力量から計算すると、このグラウンドを丸ごと蒸発させることだってできるはず》


紅明は右手を下ろし、しばし考えた。威力を絞れば使えないことはないだろうが、この力はあまりに危険すぎる。


「何してるの紅明!今のうちにもっと攻撃して!」


先輩が叫ぶ。いつまでもデショーンを押さえ続けられることは難しいだろう。時間がない。


「フォトン・トーペード」


《アンロッキング・フォビドゥン・マジック……コンプリート。パーミッション・アンリミテッド》


意を決した紅明が告げると、足元に複雑な文様の魔法陣が拡がった。右ひじから先を覆う装具が変形して放射状に展開し、リング状の魔法陣がその前方に並んで『砲身』を形成する。掌には魔力光が収束し、小さな光球となっていった。


(なるべく弱く、小さく……ダメ……そんなに膨れ上がっては……)


暴力的な力の高まりを、紅明は必死に押さえ付ける。そして──


……ピィン


その力が放たれたことを感じた紅明は、ほとんど悲鳴のように叫んだ。


「先輩逃げて!」


ドオォン!!!


轟音とともに、皆の視界が真っ白に染まった。



フォトン・トーペードの閃光が収まると、デブブタデショーンは黒い靄を吹き上げて動きを止めていた。その傍らにはどういうわけか、へしゃげた金属のフレームと大量の紙束が残され、一部から火の手が上がっている。


「「品治先輩!」」


傷つき動けない友梨佳が叫び、施恩が泣きながら必死に車椅子で近付く。


「……いたたた、どうなったの?」


そのとき、紙束の中から品治先輩が起き上がった。


変身は、解けていた。


先輩の前にはボビーが浮かんでいる。だが、その姿は半透明に透けていた。


「みくる、これまで私は散々君に憎まれ口を叩いてきたが、今回は認めよう、君はなかなか頑張った。思わず、君を守りたくて、私は自分の一番大切なものを差し出してしまったよ……君は私のことが嫌いかもしれないから、迷惑でなければ良いのだが」


「ボビー?何を言っているの?どうしてそんなに透明に……」


「私の研究した液体燃料ロケット、そして論文。知の壁が、君を守ることができて良かった。私はもう眠い……みくる、君は、どうか……」


ボビーの体がどんどん透明度を増していく。品治先輩は事態を把握して真っ青になった。


「いや、消えないで!あなたのこと、私、全然嫌ってなんてなかった!ボビー!」


完全にボビーが消えると、先輩は白銀のフラコンを握り締めてさめざめと涙を流した。


「こんなことになるなんて、酷い……」


フラコンには大きなヒビが入り、零れたパルファムが論文を汚していく。


紅明は立ち尽くし、カタカタと震えながら自分をかき抱くしかなかった。


その変身が解け、アルが紅明に寄り添う。


「心配ないよ、ボビーは眠りについただけだから……もう、みくるのメントルを続けることはできないけれども。結果は残念だけど、あのデショーンを倒すのにフォトン・トーペードを使うのは合理的な判断だったんだ。紅明は悪くないよ。


……とはいえ、最小限に絞り込んでもあの威力だからね、引き続き、使用には慎重になり過ぎるくらいが良いだろうね」


紅明は何も答えず、その場にしゃがみこんだ。地面に、彼女の涙が点々と染みを作った。



(品治先輩……ボビー……私に力があれば……)


施恩は車椅子を止め、ぼたぼたと涙を落とす。そんな彼女にエディが囁いた。


《そう思うなら、あれをご覧なさい。あなた、あの力を自分の物にできましてよ?それが、ボビーの献身への報いにもなりますわ》


「……そんな。このどさくさに紛れて?」


《みすみす機会を逃しても、誰も報われませんわ。さあ、時間がありませんことよ》


施恩は涙で滲む黒い靄に目を向けた。


「エターナル・エンプロイメント」


彼女の青いバイザーが取り込んだスレイブの姿は、丸々太った姿のデショーンとは異なり、2足歩行で緑のパンツをはいた子豚だった。


「命名、ブーヤン……」


その名、その姿は品治先輩、そしてボビーと無理やり一緒に遊んだレトロゲームのキャラクターだ。その時のボビーの感想を、彼女はよく覚えていた。


『ふん、下らんゲームだ。だが次は私が勝つ』


(次の対戦なんて、来なかったですね……本当は優しいくせに、不器用なボビー……)


施恩は、初めて得たスレイブを抱きしめて泣き崩れた。


「チクショー!!」


グラウンドに友梨佳の叫びがこだました。


その後にはただ、3人の少女の嗚咽だけが残った。

ボビーはロバートの愛称。彼はロケットの父と呼ばれる発明家・研究者のロバート・ゴダードです。

【タイトルのネタ元】

高橋よしひろの漫画「銀牙 ―流れ星 銀―」(1983~1987年)

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