第32話:僕が……一番……お菓子をうまく……焼けるんだ……
禁忌魔法の「取り調べ」の翌日。
「おはよう、愛彩ちゃん。かす巻きおいしかったよ。ありがとう」
「お、おはよう、舞ちゃん。あんなので許してもらえるか分からないけど……本当にごめんね」
「ううん、私もいつまでも引きずってごめんね。週末に施恩ちゃんの水泳の応援に行って、施恩ちゃんとお友達になれたんだ。今度試合があるときは愛彩ちゃんも誘うね」
「うん、ありがとう。施恩先輩と仲良くなったんだね。良かった」
愛彩が少し困ったように眉を下げたので、舞は慌てた。
「べ、別に、愛彩ちゃんから施恩ちゃんに友達を変えたわけじゃないよ?施恩ちゃん、お友達が欲しいって言ってたから、愛彩ちゃんも、どうかな?堂峰パパも歓迎してくれるはずだし」
「堂峰パパ?」
「うん。悪魔みたいな見た目してるけど、すごくいい人」
「あはは、どこかの政治にのめり込んで子供を無視する親とは大違いなのかも」
今日の愛彩は少し拗ねているようだ。
「どうしたの愛彩ちゃん?何か今日はちょっと変だよ」
「……だって、自分が悪いと分かっているけど、舞ちゃんが1週間も口きいてくれなくて寂しかったんだもん……」
それを聞いた舞は愛彩に抱き着いた。身長差があるので、愛彩にぶら下がっているように見える。そして、小声で打ち明けた。
「しょうがないでしょ?だって、あの時ずっと置き去りにされて、私すこしお漏らししちゃったんだもん」
「そうだったんだ。本当にごめん。そりゃ仕方なかった。うん、本当の本当にごめん」
「もういいって」
「良くない。もう一生舞ちゃんのためにかす巻き作る」
「ええー、それじゃプロポーズみたいだよ」
「いいね、結婚しよう」
「もう愛彩ちゃんたら……」
この1週間、舞が無視するので愛彩は目に見えて落ち込んでいた。それを心配していたクラスメートたちは美しい和解の光景に安堵したのだが……教室の外から、ものすごい目つきでそれを見ている者がいた。
翔星である。
(かす巻きだって?バクラヴァの方が……僕が……一番……お菓子をうまく……焼けるんだ……一番うまく焼けるんだ!)
彼が放つどす黒いオーラに廊下を行き交う生徒たちは皆ビビってしまったが……舞も愛彩も、ちっとも気付いていなかったのは幸いなことだった。
◆
「ごめん、舞ちゃん!本っ当に悪いことしたわ。あたしが調子に乗って投げたりしたからあんなことになっちまって……」
昼休み、今度は友梨佳が謝罪にやってきた。この1週間、彼女は毎日舞の教室にやって来たのだが、舞はそれを見るたびに教室から出て行ってしまい、話すらしなかったのだ。おかげで舞は「怖そうな先輩を毎日振り続けるヤバい1年生」と認識され始めていた。
友梨佳は舞と一緒にいる愛彩をチラリと見た。すっかり仲直りした様子の二人を見て、少し安心しているのだ。
「ううん、私もずっと友梨佳ちゃんのこと避けててごめんね。もう大丈夫だし、事故に気を付ければあの連携はアリだと思う」
「呼んだ?」
ちょうど教室の前を通り過ぎようとしていたアリが顔をのぞかせる。
「アリ君のことじゃないよ。ごめんね」
舞が言うと、廊下の向こうから翔星の大声が聞こえた。
「おーい!アリ!ちょっと付き合えよ!」
アリはその声の方へ走って行ってしまった。
「あの連携って、あたしが舞ちゃんを空中から投下するやつ?」
「うん。空飛ぶのちょっと怖かったけど楽しかったし、うまく使えばいい攻撃になるってワーヌが。持ちやすいように背中に取っ手もつけることにしたんだよ」
「取っ手?コスチュームをそういうふうに変えられるって……聞いてねえぞ?どうなってんだダニー?」
「衣装の変化は可能である。安定して具現化するには多少の訓練が必要であるがな」
「わたしのコスチュームなんて、全部変わった。知ってるはず」
ダニーと愛彩が答えると友梨佳はニヤニヤしはじめた。
「するってえと、あたしの翼も違うデザインに変えられるわけだ……これはいいことを聞いたぜ……」
後日、友梨佳は一番好きな飛行機――グラマンXー29の前進翼を装備したのだが……コンピュータ制御が前提の不安定な翼を扱い切ることができず、激しく墜落することになる。だが、これは別の話……
友梨佳はここで咳ばらいをし、急に顔つきを真剣なものに変えた。
「ところで舞ちゃん、紅明からフォトン・トーペードのことを少し聞いたんだろ?この際、ちゃんとこの話をしておかなきゃと思ってよ」
「……うん、気になってはいたけど……紅明ちゃん、思い出すのが辛いって言っていたし聞かない方がいいかと思ってた」
「いや、その紅明が言い出したんだ。今日の放課後、時間あるか?」
「うん、大丈夫だけど……」
「ついでと言っちゃなんだが、愛彩ちゃんもいっしょに聞いてくれよ。割と大事な話だからよ」
「分かった」
「そういえば、私まだ愛彩ちゃんが変身したの見てないよ」
「そうだね。でも、デショーンが出ていないときに変身するなら、申請が必要」
愛彩が言うとおり、魔法少女は遊びで変身することを禁止されている。訓練などの名目がある場合は簡単な申請書を出さなければならないのだ。
「あれ面倒くさいよね。早くデショーンが出ればいいのに」
「舞ちゃんのその考えはヤバい」
友梨佳はそんな2人のやり取りを黙って見ていた。
◆
放課後、魔法少女たちはレトロゲーム研究会の部室に集まった。
「舞ちゃん、週末はどうもありがとうございました。昨日はその報告で相当大変だったそうですね?大丈夫ですか?」
施恩に声をかけられた舞は、心配をかけまいと少し強がりを言った。
「全然大丈夫だったよ。愛彩ちゃんがかす巻きくれたから、それ食べてバッチリ元気出たし」
「ふふふ、舞ちゃん、柚木さんに4時間も詰められて大丈夫なはずがありませんよ?うちから苦情を入れましたから、次からは途中に休憩を挟んだり、2日に分けて聞き取りをしたりといった配慮がされるはずです」
「うちに来た時の取り調べも長かった。あれ、改善されるんだ」
愛彩はその時のことを思い出してゲンナリした表情を作った。
「さて、では本題に移りましょうか。紅明さん、友梨佳さん、よろしいですね?」
「いいぜ」
友梨佳が答え、紅明は無言で頷いた。
「私たちが1年生だった去年、品治みくるさんという3年生の先輩がいらっしゃって、魔法少女として活動されていました。魔法少女名はプロパルションミクルと仰って……」
語られたのは、衝撃的で、切なくて、悲しい物語だった。
【タイトルのネタ元】
日本サンライズ制作のアニメ「機動戦士ガンダム」(1978〜1980年)
独房に閉じ込められたアムロのセリフ「僕が……一番……ガンダムをうまく……使えるんだ……一番うまく使えるんだ!」




