第34話:この世界線は書かなかったことにしよう
過去が語り終えられたとき、部室内で涙を流さない者はいなかった。
「……みんな、辛かったんだね……禁忌魔法がそんなに危ないものだったなんて……」
やっとのことで舞が口を開くと、愛彩も続いた。
「メントルも、不死身じゃないんだ……ローザとお別れするのは、辛いかも……」
愛彩と心を通わせられていない自覚があるローザは、決まり悪そうに目を逸らした。
「し、心配しなくても、私は自分の存在を切り捨ててまであなたを守ったりしないわよ」
「ローザ君!それを口にしてはいかん!」
ワーヌが聞きとがめると、賢い施恩はその意味を完全に理解した。
「存在を切り捨てる……ボビーは眠りについたと言ったそうですが、アル、それは本当のことではないのですね?」
アルは後ろを向いて黙ってしまったが、やがて、絞り出すように言った。
「本当のことなんて、言えるはずがないじゃないか。人の心の機微に疎いと言われる僕だけど、そのくらいのことは分かるよ……」
それを聞いた紅明は、フラフラと立ち上がりかけると、ぺたりと床に座り込んだ。
「いや……いや……いや……」
その顔面は蒼白で、目は虚ろである。その様子に慌てた友梨佳が駆け寄り、膝をついてその体を抱きかかえた。
「おい、施恩!不用意じゃねえか!」
「ご、ごめんなさい!つい、興奮してしまって……」
オロオロする施恩。舞もまた、紅明に寄り添って心配そうに声をかける。
「紅明ちゃん……かわいそう……」
そんな部室に、凛とした声が響いた。
「説明不足。言葉足らず。浅慮。まったく、見ていて呆れますわ」
エディである。彼女は紅明の前に飛んでいくと、少し下からその顔を見上げた。
「確かに私たちには自分の実在性と引き換えにあなた方を守ることができる、そういう能力がありますわ。しかし、その力を行使するということがどういうことか、その説明が忘れられていましてよ。そもそも私たちは死を迎えた科学者の抱えていた未練が形を成したもの。それが自らの存在性を差し出せるということは、未練が克服されたことを意味しますわ。ボビーにそれができたことは、彼にとっては救済そのものだったのです」
紅明の目に弱弱しく光が戻る。
「……ボビーは、幸せだったというの?」
「ええ。断言できますわ」
「は……はは……だから良かったって言うの?良いわけないじゃない。品地先輩が傷ついたことは変わりないのよ?」
そう呟いた紅明は立ち上がった。
「気持ちの整理ができないわ。今日は、帰る」
そう言って出ていくのを、アルが黙って追っていく。誰も、何も口にすることができずにいた。
◇
「ありゃ、しばらく立ち直れそうにないな。無理ねえけど」
しばしの沈黙を破ったのは友梨佳だった。エディがそれに続く。
「結局は、自分で乗り越えるほかありませんわね」
「そんな……何か、できることがあるといいのだけど……」
舞が言うと、愛彩が答えた。
「甘いものでも差し入れるとか?」
「うーん、かす巻きは、紅明ちゃんには甘すぎたみたいだよ」
そんなやり取りに友梨佳が割って入った。
「いやそんなことしないでしばらく放っておくしかないだろ。あいつマドレーヌが好物だから、落ち着いたころに持って行けばいいと思うぜ?それはそうと、みくる先輩の件って結局は禁忌魔法が危ねえって話なんだろうけど、そもそも禁忌魔法って何なんだ?」
「それは吾輩が説明しよう」
ダニーがどこからか小さな黒板を取り出し、それに「禁忌魔法:終焉型、暴走型、不能型」と書きつけた。
「禁忌魔法とは、魔法少女1人ごとに割り当てられた、使ってはならない魔法のことである。とはいえ、強力なデショーンを倒すためには、時にこの禁忌の力が必要となるので、その場合は限定的にその力を解き放つことが可能なのだ。この禁忌魔法には終焉型、暴走型、不能型の3種類があり、紅明君のフォトン・トーペードは暴走型、舞君のカロリックは終焉型に分類される」
「いちいち物騒な名前だな。フォトン・トーペードは暴走型だからあんなことになったっていうことか?」
友梨佳が疑問を口にすると、ダニーは首を横に振った。
「いや、本質的には暴走型は終焉型より安全な魔法である。ただし、暴走型禁忌魔法は魔法にかかる制限の種類が終焉型とは異なるのだ。具体的には、フォトン・トーペードの場合、対消滅にともない放出される大量の強力なガンマ線を防ぐという形で制限が行われている。威力の制限はないから、あのような暴走的な事故が起きるのだ」
「ガンマ線って何?」
舞の疑問には、愛彩が答えた。
「体に悪い電波。浴びると病気になったりする」
「愛彩ちゃん詳しいねえ。ありがとう」
「端的で良い説明ですわね」
「えへへ」
エディに褒められた愛彩は照れた。さらに、ワーヌがダニーの説明を引き継ぐ。
「舞君のカロリックは、カロリック元素の寿命に制限がかかっている。カロリック元素は本来存在しない物質で、これを放置すると宇宙が熱的に死んでしまうというとんでもない危険物だからね」
「あれって、そんなに危ないものだったんだ……もう使わない方がいいのかな?」
舞が少し怯えたような声を出した。
「言った通り、制限のお陰で実際に宇宙の死に繋がることはないからそこは安心し給え。とはいえ、威力が高い攻撃なので、使用には十分な注意が必要だ」
「そっかあ。確かにあれは危ないもんね。最後の不能型って言うのはどんな魔法なの?」
舞が問うと、ダニーはこう答えた。
「使用すること自体ができない魔法である」
「何じゃそりゃ?意味ねえじゃん」
友梨佳の疑問は当然だ。そして、ローザが驚きの事実を口にする。
「愛彩、あなたの禁忌魔法、不能型よ。その名も『シンセティック・ライフ』。試しに使ってみる?使えないから」
「ええー、使えない魔法だなんて、残念だなあ。試してみていいの?」
「良いに決まってるじゃない。どうせ使えないんだから」
愛彩はフラコンを取り出した。
「よーし、マジックジーン・シーケンス・イニシャライズ」
《変身シーケンスレディ、イニシャライズ……シーケンスコンプリート。ジェネティックメアVer.1.1、スタンディングバイ》
「おおー、愛彩ちゃんの変身、初めて見た。感動!」
「見よこの深紅のナース服。格好良かろう?」
「うんうん!すごい!」
はしゃぐ舞と愛彩だったが、施恩から冷静な指摘が入った。
「デショーンが出たのでもないのに無届けで変身すると、協会から叱られますよ」
「……そうだった。でももう変身しちゃったから、試しにやってみる。シンセティック・ライフ」
愛彩の足元に複雑な文様の魔法陣が展開される。そして、手にしている巨大な注射器が光に包まれ、気付くとその姿は試験管に変わっていた。
《アンロッキング・フォビドゥン・マジック……コンプリート。パーミッション・アンリミテッド》
「いっくよー、えい!」
愛彩が気合を入れると、ポン、と試験管の中に6本の脚を持つハムスターのような生き物が創造
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あー、どうも、神です。
愛彩ちゃん、ごめんだけど、それは禁忌ってやつなんだわ。神様のお仕事、取っちゃダメダメ。このお話はなかったことにしようね。
【タイトルのネタ元】
5pb.のゲームSTEINS;GATE(2010年/PC版)関連のネットミーム「この世界線はなかったことにしよう」
※連載終了ではありません。ちゃんと続き?ます




