第18話:あなたはもう……何も言わないで
状況を整理しよう。
1.愛彩の母、塔子はデショーン化して逃走中
2.ローザは闇落ち寸前、愛彩の心も真っ黒に塗りつぶしたい
3.ローザを止めるために出撃した友梨佳、舞にうっかりブレーキをかけ忘れて「投下」
4.友梨佳に愛彩の家を教えるため連れ出された舞、ミサイルになってデショーンに命中
「よく分かんないけど、とりあえず、忙しいから黙ってて」
まず、愛彩はローザを指差して宣言した。虚を突かれたローザは一瞬たじろいだが、反駁した。
「でも私は」
「いいから。で、伴地先輩、どうしてここに?さっきデショーンに向かって飛んで行ったのは、舞ちゃん?」
「ちょっと!」
無視されたローザが割り込もうとするが、友梨佳がローザをむんずとつかんだ。
「ややこしいから本当に少し黙ってろよ。で、愛彩ちゃん、あたしはこいつが愛彩ちゃんの心を真っ黒に染め上げるだとか何とかわめいて家を飛び出したから、追ってきたんだ。そうしたらデショーンが現れてびっくりしてよ、舞ちゃんを連れて飛んできたんだけど、ちょっと降ろすのに失敗して、ああなった」
「むごむご」
ローザは友梨佳の手の中で暴れるが、口を塞がれて声が出せない。
「大体分かった。そのデショーンなんだけど……うちのお母さんなんだ」
「ええっ、マジかよ?って、舞ちゃん危ねえ!ストリーム・バリア!」
『イタイデショーン!』
倒れたデショーンがふらつきながら立ち上がる。まだ目を回しているらしい舞を、友梨佳がバリアで守った。
ドン!ドン!
デショーンは舞をつぶそうとパンチを繰り出したが、バリアが軋みながらもそれを受け止める。そして、諦めたのか方向転換し、移動し始めた。
『イラン人、テロリストデショーン!』
「あっ、待て!愛彩ちゃん、止めるの手伝って……って、そうか、魔法少女はしねえって言ってたよな。しゃあない、紅明呼びながら時間稼ぐから、舞ちゃん起こしてくれ。あとこれ」
そう言うと握っていたローザを愛彩に押し付ける。
「話つけておきな」
「う、うん」
愛彩がローザを受け取ると、友梨佳は翼のエンジンを点火し、再び舞い上がっていった。
◇
「大丈夫?飛べる?離すよ?」
受け取ったローザは、弱っているように愛彩には見えた。
「……大丈夫よ」
ローザは愛彩から離れると下を向いた。
「もう、何もかも馬鹿馬鹿しくなったわ。復讐しようにも、モーリスのクソ野郎も、ハゲのフランシスも、丸ハゲのジェームズも、もういない。見つけたと思ったプロトジェは役立たず。私の心はどす黒いまま……」
そして空中に手をかざすと、赤いフラコンが現れた。
「ねえ、あなたの意思で、これを砕いて。そうすれば、私は眠りにつくわ。もう、ここに存在していたくないの」
愛彩はそれを受け取ると、制服のポケットにしまった。
「今は、舞ちゃんが先」
◇
ボコボコボコボコ……
近付いてみると、舞は意外な状況になっていた。夕方に降った雨で増水した側溝に頭がはまり込み、激しく泡立っている。舞は何とか頭を抜こうともがいているようだった。
「ええと、舞ちゃん、どうなってる?」
ボコボコボコ……
「おーい!舞ちゃん!聞こえる?」
《愛彩ちゃん?助けて!頭が抜けないの!》
大声で呼びかけると、頭の中に突然舞の声が響いた。
「うわあ、なにこれ?頭に直接……」
《愛彩君か。これはフラコンを通じた精神感応だ。フラコンに触れながら、舞君の顔を思い浮かべて話しかけてみたまえ。スムーズに話ができるようになるはずだ》
今度はワーヌの声が頭の中に響く。愛彩は言われた通りにポケットからフラコンを出した。
「で、どうなってる?頭を引っ張ればいい?」
《魔法で酸素を発生させて窒息しないようにしているところなのだが、そのせいでクイック・リアクションが使えないのだ。できるなら、引張ってくれたまえ》
愛彩は側溝に手を突っ込み、舞の頭を抱え上げようとした。しかし……
《痛い、痛い、ちょっと待って……》
「うーん、ちょっと難しい。舞ちゃん、もう少し頑張れる?」
《しばらくは大丈夫》
「都合のいいときだけ、フラコンを使うのね」
下を向いて黙っていたローザが口を開く。
「その話、ちょっと後」
愛彩はローザに断ると、フラコンを入れていたのとは別のポケットからスマートフォンを取り出した。
愛彩は、スマートフォンを夜光蝶に預けている。朝、店のドアにある新聞受けにそれを入れておくと、かおるが充電しておいてくれるのだ。それが役立つことになった。
『119番、消防署です。火事ですか。救急ですか』
『水難。友達の頭が、増水した側溝にはまって抜けない』
『増水した側溝……お友達は大丈夫ですか』
『魔法少女だから、息はできてる。救急車は要らないと思うけど、レスキューは必要』
『魔法少女ですか。それならレスキューだけでいいかもしれませんが、念のために救急車も向かいます。あなたのお名前を言ってください。その場所の住所は分かりますか』
『千道愛彩。住所は東町のはずだけど、細かくは知らない。電柱に、ヒガシコウエン シ 右3 8って書いてある』
『センドウメアさんですね。電柱番号、ありがとうございます……場所特定できました。今お使いの電話番号を言ってください』
『070-✕✕✕✕ー✕✕✕✕』
『すぐ向かいます。危ないので、水には入らないでください』
『今、デショーンが河原町の方に移動している。気を付けて』
『情報ありがとうございます。すぐに向かいます』
実に模範的な通報である。そして、電話を切った愛彩はローザに向き合った。
「わたし、これは砕かないよ」
ローザはキッと睨みつけた。
「同情でもしたの?要らないお世話よ。さあ、さっさとそれを砕きなさい」
「いや」
そんな押し問答する2人に、ねっとりとした中年男の声がかかった。
「いやいやお嬢ちゃん、それは、砕いた方がいい」
いつの間にかそこにいたのはアンチ・メントル、ジョセフだった。




