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第14話:さ さすがです……か……のうきん……たろうさん……

テロリストデショーンに捕まった加納先生は「離せコノヤロー!」と叫びながら抵抗していた。だが、デショーンの力は強く、抜け出すことはできないようだ。


デショーンがその気になれば命が失われるかもしれない、危険な状況といえるだろう。


(ローザ、わたし、何ができる?)


《ジェノム・エディター。ゲノム編集によって様々な生物の特徴を発現させる力よ。本来、ゲノム編集したからといって組織が即座に変わることはないのだけれど、魔法は特徴発現までの時間をスキップし、さらに他の組織との不連続性や不整合を解決するわ》


「ふうん……こうかな。ジェノム・エディター チーターダッシュ」


赤い液体が愛彩を覆い、そして弾ける。愛彩の頭にはチーターの耳、腰にはしっぽが生えた。


そして彼女はその場で軽く2回ほどジャンプをすると、デショーンに向けて猛烈に――クイック・リアクションを使う舞ほどではなくとも、相当な勢いでダッシュした。


そして、デショーンの懐に入り込むと大鎌を振り上げ、刃で切りつけず「柄の先」でその手首を打ち据えた。


『イタイデショーン!』


飛び退き、距離を取る愛彩。ダメージは与えたようだが、加納先生はまだ捕まったままだ。


《何をしているの!大鎌で手首を切り落とせたでしょう!》


「残酷なことをすると、この作品がアニメ化したときに園児とかに見せられなくなる」


《こんな作品がアニメ化されるかもしれないだなんて、どれだけ自惚れているのよ!?》


「自惚れているのはわたしじゃない。作者」


《いくらなんでもメタが過ぎるわ……それより、来るわよ!》


『フオオオオ……ボオッ!』


テロリストデショーンは大きく息を吸い込むと、口から火の玉を吐き出してきた。愛彩が大鎌を振るうと、火の玉はまっぷたつに割れて左右に逸れていく。


「えい、……切れ味ばつぐん。メタな話はさておき、これで斬りかかるのは、魔法少女の絵面としてアウト」


「おーい!千道さん、その発言も十分にメタだからな!それより、早く助けてくれー」


とうとう捕まっている加納先生までツッコんだ。


『デショーン!デショーン!』


デショーンは怒って連続して火の玉を吐きかける。だが、愛彩は涼しい顔でそれを叩き切ってしまった。


「埒が明かない……そうだ、こうすればいいかな?脳筋先生!今助けるね」


「あっ、お前まで脳筋って言ったな!」


加納先生が怒るのも気にせず愛彩は再びデショーンの懐にダッシュすると、ジャンプして先生の頭に大鎌の刃の先で触れた。


「ジェノム・エディター スカンク・スプレー」


加納先生もまた、赤い液体に一瞬包まれる。そして液体が飛び散ると、その体にはスカンクの遺伝情報が書き込まれていた。


愛彩はすぐさま飛び退くと、大きく距離を取り鼻を押さえる。


ボフ!


スカンクの肛門嚢を発現した加納先生がその強烈な悪臭物質を解き放った。


『デショーン!クサイ!クサイデショーン!オマエ、マジデテロリストデショーン!!』


デショーンはたまらず加納先生を手放し、顔を手で覆って苦しみだした。その体からは黒い靄が噴き出し始めている。


「おかしい。スカンクの吹き出すのはおならじゃなくて肛門嚢から放出される液体のはず……『ボフ』という音はしない」


《演出よ》


愛彩の疑問に、ローザさえもがメタな説明をした。


ちょっとした高さから落下することになった加納先生は、何とか無事に着地していた。体育教師の運動神経がなせるわざだ。


「……」


そしてデショーンを一瞥すると下唇を噛み、俯いて肩をぷるぷると震わせた。これでは、本当に毒ガステロリストのようで……教師の体面を大きく傷つけられたと感じたらしい。


「おーい!大丈夫か!?」


そこに、校舎の3階の窓が開き、友梨佳の声が響いた。校舎裏での騒ぎを聞きつけてやってきたのだ。彼女は窓からひらりと飛び出すと、空中を滑空し、らせん状の軌跡を描いて着地した。ヴォルテックユリカは背中の翼で飛行することができるのだ。


「うわ、くっさ!なんだこれ!ラピッド・ストリーム!」


四方八方に緑の矢印が広がり、その方向に沿って凶悪な臭気は押し流され散逸する。


『テロデショーン……クサイデショーン……』


だが、デショーンにとってそれは遅すぎたようだ。黒い靄の噴き出しが止まず、だんだんとしぼんでいくとその後には女生徒――翔星のクラスメート、飯地 芽衣子が倒れていた。幸い、デショーン化が解けたことで彼女には臭いは残っていないようだ。


「なんだ、終わっちまったのかよ……加納先生、何か様子が変だけど大丈夫?」


顔を真っ赤にして震えている加納先生の頭には小さな黒い獣の耳、お尻には黒白ストライプのフサフサのしっぽ。そしてパンツからなおも漂う強烈な臭気……事情を知らない友梨佳の目にも、先生がスカンク化していることは明らかだった。


友梨佳は倒れている女生徒を見て、新しい魔法少女――ジェネティックメアを見て、スカンク化した加納先生を見て……そしてポン、と手を打った。


そして、愛彩をビシリと指差す。


「デショーンは倒したのに、先生はスカンク。ということは、これは、愛彩ちゃんの仕業ってことだな!というか、ローザが今朝言っていたプロトジェの候補ってのは愛彩ちゃんだったのか!」


すると、ローザが愛彩の変身を解いた。同時に、愛彩と加納先生から獣の耳としっぽが消える。


「そうよ、友梨佳。今まで世話になったわね。助かったわ」


「いいってことよ。プロトジェが見つかって良かったぜ。これからもよろしくな!」


「そうね。ありがとう」


その時、2人から視線を逸して黙っていた愛彩の呟くような声が落ちた。


「わたし、魔法少女は続けない」


しばしの沈黙。そして、ローザの甲高い声が響いた。


「あなた!まだそんなことを!」


「落ち着けって!……愛彩ちゃん、どうしてそんなことを?」


友梨佳は慌てて仲裁に入る。


「それは……」


愛彩が口を開きかけたところ――


「倒れている人がいるんだ。その話は後にしたらどうだ?」


気を取り直した加納先生からのストップが入った。


「千道さんには形はどうあれ助けてもらった。ありがとう。だが、脳筋と言ったことは良くないから後で職員室に来なさい。


……さあ、先生は職員室に戻って報告と連絡をしてくるから、伴地さんはひとっ飛び、保健室から三宮先生を連れてきてくれないか?飯地さんは倒れたまま一人にはしておけないから千道さんが見ているんだ」


「うん、先生ごめんね」


「……わかったぜ、ちょっと行ってくる」


こうしてその場は一旦お開きとなったのだった。

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