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第13話:私、脳力は平筋値でって言ったよね!

「こっちでデショーンの気配がするネ……」


エスパーンダ真美ことジェン メイは校内の廊下を歩いていた。


オカマデショーンが「浄化」された後、正体が露見したと考えた彼女は生徒寮に帰らなかったのだが、点呼時間を過ぎたころ、担任から捜索のための電話を受けた。


いわく、スマホの持ち込みや無届けで夜間外出したことに対する罰はあるものの、デショーンに関わったことについては美が人間を直接デショーンにしたという証拠はなく、特にペナルティを受けることはないということだった。それで、彼女は普通に学校に戻ったのだ。


「あっ、パンダ女!」


後ろから走り寄りながら声をかけたのは愛彩だ。美は驚いて振り返る。


「パンダ女違うネ。エス……なんでもないネ。大体、お前には正体は知られていないはずヨ?」


「でもこの間、調理室に来てた」


「分かるはずがないネ!ワタシ、仮面をしていたヨ?」


美は語るに落ちた。愛彩はそれに気付く様子もなく、追い抜きざまにどうして正体を見破ったのかを明かしていく。


「首とか手とかの形が同じ」


追うローザは感嘆の声を漏らした。


「首や手の形で人を区別できるとは、なんという観察力、形状把握……やはりあなたこそ、私のプロトジェにふさわしいわ」


美はその場で呆気にとられていたが、廊下の先を走りながら曲がろうとする愛彩に向かって、ハッとしたように叫んだ。


「廊下を走ると先生に叱られるヨ!」



愛彩を見送った美は1年生の教室に向かった。ちょうど、片付けを終えた翔星がアリと連れ立って教室に入っていく。美はそっと教室の中を覗き込んだ。


「ありがとうな、アリ。今度、他のも教えてよ」


「いいよ」


アリは自宅から持ってきたローズウォーターの瓶を手にしている。それを見た女子生徒のグループがヒソヒソと話しはじめた。


「イラン君が変なもの持ってる」

「あやしー」

「爆弾の材料とか?」

「ウケるー、でもヤバくない?」

「イラン人だもんね、テロ、テロ、テ、テ、テテテテテテテテテ」


女子生徒の一人、飯地がおかしくなった。


「ちょっと、どうしたの芽衣子?」

「ヤバくない?」

『アイツ、テロリストデショー!』

「きゃあー」


飯地の体がムクムクと大きくなり、やがてランプから生えたジンの姿に変わる。頭にターバン、青い肌……彼女の中東に対する乏しいイメージから、そんなモンスターが生まれた。


「デショーンだ!逃げろ!」


翔星はまた、そう叫ぶなり白目をむいて倒れた。


その教室にはパンダの仮面をつけた美も入室していた。騒ぎに気を取られた他の生徒たちは気付いていない。


彼女がLEDライトのような道具を向けると、デショーンはブロックノイズのように分解されてその場から消え失せた。



デショーンが転送された先は誰もいない校舎裏だった。ちょうどそこに、ローザに追われた愛彩がやってくる。


「デショーンだ……」


ウロウロと動き回るデショーンを見て、さすがに立ち止まる愛彩。ローザが追い付いてフラコンを押し付けた。


「こんなタイミングでデショーンが出るなんて……愛彩、いい加減逃げないでフラコンをつかみなさい!変身するのよ」


愛彩はしぶしぶそれを受け取った。


「こういうの嫌い」


「いいから変身コマンドを唱えなさい!マジックジーン・シーケンス・イニシャライズよ」


「嫌」


揉めていると、校舎の窓の1つが開いて加納先生が大声を出した。


「デショーンか!……そこにいるのは千道さんだな!早く逃げなさい!」


デショーンはそれを見ると、加納先生を指さして絶叫した。


「ノウキン!オマエ、テロリストデショー!」


加納先生――加納 金太郎のことを「脳筋」と陰口する生徒は多い。脳筋とテロリストがどうして結びつくのかはさっぱり分からないが、問題なのは「脳筋」が加納先生に向かって口にしてはいけない禁句ということだった。


「何だと!もう一度言ってみろ!コノヤロー!」


先生は顔を窓から身を乗り出してデショーンにどなりつけた。ところが、デショーンはそれを捕まえて窓から引きずり出す。


「うわぁ!何だおまえ!は、離せ!」


『ノウキン、テロリストデショー!』


先生は怒ってもがいているが、デショーンにしっかりと捕まえられている。


「脳筋先生……仕方ない。まじっくじーん・しーけんす・いにしゃらいず」


思わぬ事態に愛彩はしぶしぶコマンドを口にした。フラコンが真っ赤に輝くと愛彩の手から離れて宙に浮き、ローザが瓶に吸収されるように吸い込まれる。


《変身シーケンスレディ、イニシャライズ》


フラコンの表面には、X字型に並ぶ点の列が浮かび上がった。これはDNAの2重らせん構造を決定付けたX線回折写真――ローザことロザリンド・フランクリンが撮影し、その成果を盗まれた「世界一重要な写真」だ。


(……Photo 51、そういうことか)


中学1年生の愛彩だが、なぜか彼女はその写真を知っていた。それを撮影したロザリンドがどのように搾取され、生涯を終え、その上でさらに貶められたかも。


(嫌だな。こんなのに付き合うのは……)


そして、フラコンの栓がひとりでに抜けると、1滴、その中身が垂らされる。そこから真紅の光とチューベローズの香りが拡がり……次第に愛彩の体全体が包まれると、フラコンはその右手に移動してL字型に形を変える。


光が収まると、そこには血のような赤にコーディネートされた衣装に包まれた愛彩がいた。その右手には透明な刃を持つ大鎌が握られている。


《シーケンスコンプリート。ジェネティックメア、スタンディングバイ》


「やる気出ない。でも、脳筋先生は助けないと」


《……偏見に囚われた者を許してはいけないわ。その大鎌で刈り取るのよ》


愛彩の冷めた意識に語りかける声は、凍てつくような冷たさを帯びていた。

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