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Drused Race  作者: 鈴生
グランプリファイナル
99/100

99. ファイナル・ラップ

 ファイナル・ラップが始まる頃には、かなり気持ちは落ち着いていた。あれだけ過酷なコースを、この不安定な状態で走り切ったという達成感に基づいているのかもしれない。まだレースは終わっていないのに。

 私たちの様子を伺うようにして、五台目のノアは速度を抑えながら走行を続けていた。二つ並ぶコックピットが乱れる様子はない。息を合わせながらも、リエラの操る紫のノアは、ずっと私たちのカインの前を走り続けていた。


 イヤホンがないという状況にも、やっと慣れ始めていた。普段と同じように、機体(マシン)から何もかも読み取れるという私の強みを、存分に発揮すればいいだけの話だったのに。どうして父の幻影に、私はあれほど囚われていたのだろう。

 リュカも、落ち着きを取り戻したようだった。ガタついていた運転が、前のレースと同じように滑らかなものになっていた。彼女もきっと、イズモという枠に収まろうとして上手くいっていなかったのだろう。

 私たちは何なのかを、今一度、思い返さなければいけないときだった。

「ふふ」

 問い直すだけ、時間の無駄だ。こんなことを考えるなら、もっとレースに集中したい。あのイズモと、スサミを打倒するのだ。彼らを王者の座から引きずり下ろすのだ。私たちの、この手で。

 ハンドルを握りしめる手は、もう痛くなかった。


 つづら折りに差し掛かったところで、今度こそ崖を降りるショートカットに挑戦することにした。会話がなくてもそのくらい感じ取れる。リュカのハンドルの手捌きすら目に見えそうなほどに、私の感覚は研ぎ澄まされていた。

 一つ目のカーブをギリギリのところで曲がって、二つ目のカーブを大きく回り込む。速度を落として、先行する紫のノアから距離を離していく。段差の下には、ちょうど一機くらいなら割り込めそうな間隔が開いているのが見えていた。上手くいけば、三台は抜けるだろう。

 視線を真っ直ぐに戻すと、未だに火の手を上げ続ける青いイヴが視界に入った。運転に支障が出ないくらいの短い時間だけ、目を瞑る。きっと、無事ではすまなかろう。それでも、彼らの安全を祈りたかった。

 レース以外のことを考えたのも、ほんの一瞬のことだった。頭をすぐに切り替えて、リュカの動向を伺う。彼女の動きだけが、今は頼るべきものだ。

 彼女が速度を急激に落とすのを感じ取る。慎重にアクセルを踏み込みながら、段差のところで回り込む。

 そのまま、私たちは垂直方向に落下した。


 脳裏に、赤いノアが過った。第一回戦とよく似た構図だった。

 地面が眼前に迫ってくるところで、ギアレバーに手をかける。あとはリュカの浮力装置の操縦に賭けるしかない。

 不思議と、恐怖は感じなかった。

 合図もされていないのに、左手に力が籠る。

 今だ。

 一気にハンドルを上げてアクセルを踏み込む。ギアを上げて、最高速度まで上げる。身体がシートに押し付けられる。それでも、笑みが零れてしまう。

 この感覚を、待っていた。


 目の前を走るのは、先頭のイズモたちと、特に見覚えのない残り二機だ。突然降って来た私たちに対して、四台目を走っていた機体がどうにも踏み止まったらしい。想定していたよりも広い間隔が空いていて、場違いにも幸運だと思った。

 目指すは、先頭のあのカイン3000だ。残りの二機はどう追い抜こうか。


 森に入ってから、リュカが奇妙な運転をし始めた。ずいぶんと上空を飛行しようとしている。上から他の機体を追い抜くのだろうか。こんなところでやらなくてもいいだろう。枝葉が邪魔になってわかりにくくなるだけだろうに。

 ふと、そこで思考が空転する。視線を上にやってから、私の考えが彼女の計画に及んでいなかったことを知る。

 枝葉は、私たちの存在を隠してくれるだろう。死角から突然現れる私たち(スズメバチ)は、さぞ恐ろしかろう。

「へえ。」

 独り言ちて、彼女の運転に従う。高度は容赦なく上がっていって、顔に葉が当たりそうになった。前方防御壁(フロントシールド)があって助かった。一息つくが、休んでいる暇はない。足も手も止まることなく動かし続ける。私は、リュカの副運転手なのだから。彼女の指示に、完璧に応えて見せなければ。

 森の終わりが見えてきたところで、急激に高度を落としていく。急降下する直線を描いて、落下速度に自らの加速も追加して、出口のところで一機追い抜くことに成功した。

 やはり急に現れる機体というものは、ずいぶん他のレーサーの寿命を縮める行為らしい。追い抜いた三台目も、急なブレーキを掛けていた。


 石柱が立ち並ぶ砂漠で、少し先を行く一機に焦点を合わせる。大回りしていくのも手だが、それでは時間がかかってしまう。

 リュカは、どれを選ぶだろう。

 ハンドルから彼女の動向を伺っていると、喉がいがらっぽくなってき始めた。目の前のあの機体のエンジンから、細く黒煙が上がっていた。

 機体異常(マシントラブル)機体異常(マシントラブル)だ。

 目の前の機体は、見る見るうちに速度を落としていった。


 それを避けるようにして、最大出力で先頭を行くカイン3000を追いかける。

 先行しているのは、その一機だけだった。


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