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Drused Race  作者: 鈴生
グランプリファイナル
98/100

98. セカンド・ラップ

 先ほどと同じつづら折りでも、ラップの終盤にあれだけ開けた場所があると思うとずいぶん気が楽だった。最初に経験した強烈な重力感も、まだ肌感覚として残っていた。ここは、少しだけアクセルを踏み込んでしまった方がいいだろう。その方が回り込みやすい。

 二つ目のつづら折りに差し掛かったところで、主運転手(メイナー)が私の意識を引くように大きくカーブを回ろうとしているのを感じ取った。ギアを操作して、少し速度を落とす。意図が読み取れない。イヤホンがないのが、今だけは憎らしかった。彼女は、何が目的でこんなことをしているのだろう。

 つづら折りを曲がって、真っ直ぐな道に差し掛かったところで、坂道の崖側に機体(マシン)を寄せるように誘導される。そちらに何かがあるのだろう。視線をやると、最後のつづら折りの手前辺りにショートカットができそうな段差があった。彼女はそこを降りようとしているのだ。やっと意図が汲み取れた。私はこれを見落としていたのか。どれだけイズモたちにご執心だったのか。

 距離と速度を見計らいつつ、そこを降りようとタイミングを図っていたところで、五台目がわざとらしく速度を落とした。六台目が急ブレーキを踏んで、それにつられるようにして私たちも速度をぐっと落とす。ここでいっそ徐行程のスピードになってしまえば好都合だ。

 そう思ったのは、六台目も同じのようだった。私たちと同じように、近づいてくるあの段差を降りようと試みていたのだろう。きっと、ファースト・ラップで気付いて、セカンド・ラップで挑戦しようと考えたのだろう。

 崖の方に近寄りながら、徐々に段差に近づいていく六台目の機体は、鮮やかな青いイヴだった。搭乗者は、スミスとアンナだ。そこに、白地に紫のラインが美しい五台目のノアが異様にスピードを落としながら、急接近していく。あのままでは横並びになるだけだ。どうするつもりだ。

 追突しないようにしながらも、速度を調整していく。ここで止まるだなんて許されない。一度停止してしまったらまた発進するのに時間がかかる。それで出遅れるわけにはいかない。もう先頭のあのカイン3000の姿は見えなくなっていた。


 いよいよイヴが段差に向かおうとしたその瞬間に、ノアが真横に並んだ。その様子から目が離せなかった。

 スローモーションのように、ノアの小さな体躯が、右側からイヴに衝突した。大きく火花が散って、黒煙が上がる。バランスを崩したイヴが、段差のすぐ目の前にあった小岩にエンジン部分を打ち付けた。

 そのまま、私たちの目の前で、青い機体が火を噴いた。


 五台目の搭乗者の、あのリエラが、ここで仕掛けてくるだなんて、思ってもいなかった。

 それでも、私は、主運転手が判断に迷うだなんて、考えもしなかった。

 ハンドルを切ってアクセルを踏み抜いたそのとき、手の奥で何かが噛み合わなくなった感覚を嫌というほど感じ取った。


 主運転手は、リュカは、彼女は、眼前で起こった派手なクラッシュに動揺したのだ。速度が急に落ちて、彼女のコックピットが後行することとなってしまっていた。

 即座にブレーキレバーに手をかけるが、速度を出していた私のコックピットは、その動きについて来れなかった。右手だけではハンドルを操作しきれない。身体に強くかかる重力が、操作を妨げていた。なんとか掴んで正面に戻ろうとするのに、機体が言うことを聞かない。こめかみに汗が伝う。彼女が加速する様子は感じ取れない。私が速度を落とさなければ。なのに、どうして、操作が上手くできないのだろう。

 息が止まる。


 耳を劈くような音を立てて、ダブルスチールが一本、見事にへし折れた。


「何してんだ!!!!!!」

 右耳に手をやって、本気で怒鳴りつけてから、イヤホンがなかったことを思い出す。

「っ、くそが!!!!!」

 そのままの勢いで悪態を吐いて、なんとか機体のバランスを取り戻す。五台目のあのノアは、ほぼパニックに陥る私たちを悠々と先行して行った。なんとか崖から離れて、最後のつづら折りを曲がり切る。もうここまで来たら意地と根性と感覚だけが頼みの綱だ。あと一本が折れたら、もう走行なんてできやしない。最初よりもひどくなった振動を感じ取りながら、草原に出る。


 リュカの顔を一度だけ見やる。

 彼女と視線は合わなかった。その代わりに、その唇が痛そうなほど噛み締められているのがなぜかよく見えた。


 その先は散々だった。ただひたすら、バランスを取りながら運転することしか頭になかった。他の機体も、レースの勝敗も、何も考えられなかった。今はただ、主運転手の意図と運転の姿勢を読み取ることだけが必要だった。


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