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Drused Race  作者: 鈴生
グランプリファイナル
97/100

97. ファースト・ラップ

 最初の加速は制限された。何せ目の前に別の機体(マシン)がいるのだ。こんなところで追突事故を起こして棄権だなんて、本当に笑えない。きつく握った手の中で、グローブが小さく音を立てた。

 真っ直ぐに進むだけの道で、他の機体も焦れているのがわかった。他のレーサーたちももっと加速したいと思っているのが、両耳から聞こえるエンジン音から手に取るように理解できた。観客席という高い壁がなくなったその先は、舗装もされていない狭い坂道だった。ここで追い抜こうだなんて正気の沙汰ではない。つづら折りにヘアピンカーブを繰り返す道を、ぞろぞろと列を作って色とりどりの八機の機体が降りていく。

 先頭を走るのはもちろん、イズモとスサミの操るカイン3000だ。コースを確認するために、左側のつづら折りの先に視線をやったときに、憎たらしいその機体の姿が視界に入った。渋滞の原因は、彼らにある。速度を落としているのだ。何のために。決まっている。このあと加速して他の機体を出し抜いて、優勝してその手中に王者の座を収めるためだ。

 苛立ちが、ほんの少しだけアクセルに伝わってしまった。主運転手(メイナー)との間を繋ぐダブルスチールが悲鳴のような音を立てた。副運転手(ツイン)が、主運転手のコックピットを先行することは許されない。副運転手は、主運転手の指示に従うのみだ。そう、カインに諭されたようだった。

 やっと一つ目のカーブに差し掛かる。最初は左に曲がる。主運転手のコックピットを重心にして曲がり込む。身体が右側に引っ張られる感覚を覚えた。ハンドルから手を離してはならない。右手の痛みなんて気にしていられなかった。グローブの立てる音を無視して、力一杯握り込む。あまりにもきつい重力のかかり方に、自分の表情が歪むのが分かった。ハンドルも機体も何もかも重たい。制御が効かなくなりそうだった。

 やっと一つ目を抜けてから、気が滅入りそうになる。これがファースト・ラップではあと二回、すべて合計すれば八回もあるのか。レース後に眩暈が起こりそうだと、頭の片隅で思った。


 身体には負荷を掛けながら、機体には無理をさせないようにしてつづら折りを抜けた先には、少しだけ開けた草原があった。その先には黒々とした針葉樹が生い茂る森が見える。先頭から数えて四台目の機体が、そこで追い抜きをしようとして、目の前の三台目と接触したのが見えた。

 暗い森の手前で、大きく火の手が上がる。深緑の木々が、一瞬だけどす黒い色に変わった。炎の明るすぎるオレンジと、何もかも飲み込まんとする緑が混ざって、言い表せないほど不快な色となった。しかし、それもすぐに収まる。明るさと対極にあるような、真昼間なのにどんよりとした雰囲気を醸し出すその森が、何もかもを吸い込んでしまったようだった。

 それを見ていた五台目が、少しだけ躊躇って、進路がブレた。それに惑わされたのか、六台目も同じようにブレて、縦列を組んでいたあの一直線が乱れる。私の主運転手はそれには惑わされなかったようだった。カインはスピードを落とすことなく真っ直ぐに草原を突き進んでいく。枯草ばかりで茶色みがかった枯草を、暴風とも呼ぶべき暴力的な排気がなぎ倒した。


 森の中は、ずいぶん暗かった。やはり陽があまり差してこないのだろう。頭上に茂る黒ずんだ枝葉が視界を悪くしていた。地面には松葉のような柔らかさなんて欠片もない茶色ばかりが広がっていた。岩もところどころに点在している。しかも、葉が積み重なったその下から突然出てくるのだ。心臓に悪い。先行する機体の排気で葉が取り払われて、岩が露出するのだ。木々を縫って行こうにも、これでは命の保証のないギャンブルをするのと同じだ。ここでも追い抜くことができない。奥歯を噛み締める。このままでは勝機がない。他の機体の様子なんて伺う余裕はなかった。


 森を抜けた先は、不自然な人工物が点在する砂漠地帯だった。前の機体が巻き上げる砂埃で、ここでも視界は悪かった。それでも救いなのは、先ほどの森林よりも障害物の感覚が広いという点だ。ここなら、上手く機体が操作できれば、他の機体を追い抜ける。

 古代遺跡のような、古そうな石柱が立ち並ぶ中を、七機が縦横無尽に駆け回っていく。それでも、主運転手は安易な追い抜きの決定はしなかった。ギアが上げられて、加速したのは感じ取ったが、無理に曲がり込んで行こうとする姿勢は感じ取れなかった。それでも構わない。きっと、イズモもそうする。

 なぜなら、先頭を行く彼らも、私たちのずっと先、直線状のその上を走っているのだから。

 彼らも、同じ作戦を取ったらしかった。


 先を行くカイン3000に焦点を合わせる。他の機体なんて目に入らない。コースの様子が変わったのに気付くのも遅れるほどに、私は彼らの機体を見つめていた。

 障害物がなくなっていた。だだっ広いばかりの砂漠が広がる。

 ここなら、なんでもできる。


 目を凝らした先に、レース会場のちらつきが見えた。

 ほとんど横一列になった機体が、徐々に縦一列に収束していく。恐らく順序はほとんど変わっていないだろう。


 勝負を仕掛けるとしたら、ここかもしれない。

 そう、思った。


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