二代目死屍柴ヒルイの戦い8
ジョンはその様子を微笑みながら眺め、瑠衣は大丈夫だと確信した。あんなふうに泣ける心があるのなら、きっと茜ちゃんみたいになれると。
「ヒルイちゃんはさ、茜ちゃんみたに守りたいものってある?」
「お母さんみたいに……」
瑠衣は呟くとジョンの瞳を眺め考え出し、そして義姉や零、長達や護衛に視線を移した。
「お姉ちゃんにお祖父ちゃんにヒルイちゃんに仲の好い人みんな守りたい」
「アハハ。ヒルイちゃんサイコー。もう漫画の世界の主人公のような台詞で笑っちゃうけど、僕は好きだよー。ねえヒルイちゃん、君は本当に強いんだよ。初代ヒルイちゃんに比類する強さどころか、初代ヒルイちゃんを超える力を持ってるんだよ。だからこれだけは覚えていてもらえるかな、君の手は守る力があるって言う事をねー」
「守る力……」
瑠衣は姫宮に抱きしめられながらも自身の手を見つめた。
「初代ヒルイちゃんにお祖父ちゃんを助けたいなら……外に出ないといけないねー」
「うん」
答えると瑠衣はゆっくりと姫宮の手を解き、床に落いたナックルガード付のファイティングナイフを拾い立ち上がった。
「みんな大好きだから助けに行くね」
そう答えた瑠衣から殺気が消え、優しい狂気だけが溢れ出ていた。
「茜ちゃん……」
呟くと、ジョンはクスッと笑った。
瑠衣はまだ幼い容姿をしているというのに、大人びた微笑はまるで姫宮メアリー茜そっくりだった。
瑠衣におきた変化、それは自分の大事なものに気付けた事。復讐心よりも誰かを守りたい気持ちが勝っただけのことだった。ただ、それだけだと言うのに……瑠衣は茜に近づいた。
「茜ちゃんそっくりの微笑が出来るようになったねー」
懐かしむように微笑むが、ジョン・ドゥは急に顔を歪め、狂気の笑みを浮かべる。
「でもね……行かせない。逝かせないよー」
ジョンは大鎌を振りかぶり構えを取る。
瑠衣はもう復讐に囚われた人間ではなくなったが、それでも橘と戦うのはまだ早い。いくら瑠衣がヒルイの片腕を切り落とす強さがあったとしても、勝てる保障はどこにも無かった。ましてや手負いの自分にも勝てないようでは死にに行くようなものだとジョン・ドゥは考えていた。
「お姉ちゃんちょっと離れていてね」
瑠衣は姫宮に向かい言うと、ジョンに微笑を送る。
「ニノちゃん退けないと……斬るよ?」
「僕を斬ろうと思うのは構わないけど、ヒルイちゃんに出来るかなー?」
「うん」
瑠衣は答え微笑を送ると、ジョンの体に狂気が巻きついた。
「姫宮様! こちらに!」
零が大声を出すと、姫宮はどうするべきか考えた。
瑠衣の気持ちを汲んで行かしてあげるべきなのか、それとも全てが終るまでここに居るようにと指示したヒルイの言葉に従うべきか。姫宮は壁沿いに非難しながらも考え、答えを出した。
「瑠衣! 頑張って」
姫宮の言葉に瑠衣は小さくこくんと頷いた。
「ありゃりゃ? なんだか僕が悪役みたいな雰囲気だなー。美女の激励で戦うなんてほんと主人公みたいだねー。それなら僕は悪役になろうかな。さあ、ヒルイちゃん殺ろうかー。彼岸花の殺人鬼ジョン・ドゥが逝かせてア・ゲ・ル・ねー」
ジョンを見据え瑠衣がファイティングナイフを逆手に握り直し、両手をぶらりと垂らす。昨日と同様な構えにもかかわらずジョンはその姿に何かを感じたのか、ジリッと一歩下がり楽しそうにニヤッと笑った。
「いいねー。笑みが零れ落ちてしょうがないよー。僕も全力を出させてもらおうかなー」
瑠衣に向かい言うと、大鎌を片手持ちに変え、視線をチラリとジェイコブに移した。
「僕のチョッキンちゃんを取ってもらっても良いかなー?」
「分かったぜ! ついにジョンが己の封印を解いて全力で戦うときが来たって事だねっ!」
タキシードをバット広げると、裏地に縫いこまれたホルスターから、二本のナイフを無理やりくっつけたような形状をした、裁ち鋏のような武器を取り出しジョンに向かい投げた。
二十メートルほど離れた位置から、山なりにではなく、野球のバックホームのような直線的な軌道で、鋏が空気を切り裂きながらジョンに迫った。
ジョンは別段動じた様子も見せずに、グリップのリング状の穴に指を通し受け止めると、その場でくるくると回した。
「サンキューだよー」
鋏をくるくると回しながら答えると、鋏を首元に持っていき一気に引き下げ、タキシードの中に着たシャツを引き裂いた。
瑠衣はその様子が理解できないのか、小さく小首を傾げる。
「ちょっと邪魔だったから切り裂いたんだよー。服も……さらしもねー」
ジョンが答えると、胸元に巻きつけられたさらしがはらりとほどけ、床に落ちた。すると押さえられていた豊満な胸元が現れ、タキシードの胸元に凹凸を作った。
「ふー。苦しかったー。何十にもぎゅうぎゅう巻きにしていたから、苦しくて思った動きが出来なかったんだよねー」
「……動いたら出ちゃうよ?」
「うーん、いまさらおっぱいポロりで恥ずかしがるような乙女でもないけど、若い狩谷ちゃんには刺激が強いかなー」
答えると、ジョンは鎌を腕に抱え、タキシードのボタンを留めた。
「これなら良いかな?」
「ううん。出ちゃうのは内臓だよ」
瑠衣が出ちゃうと言ったのは開いた前日の傷だった。縫われた傷跡からは夥しい血が流れていた。
「こんなのかすり傷だよ」
答えると、ジョンは鋏をジェイコブに投げ返した。
ジェイコブはジョン同様軽々と鋏を受け止め、タキシードの中に収めた。
「さてと、じゃあジェイコブちゃん、今からヒルイちゃんと斬り合うから……手はずどおりお願いするよー」
「分かったぜ!」
ジェイコブは答えると、ノコギリをおろし、スーッと息を吸い込んだ。
「レディースアンドジェントルメン! 二代目死屍柴ヒルイ戴冠式のメインイベントの開催デス! 若干十五歳ながら二代目死屍柴ヒルイを襲名した、姫宮瑠衣と彼岸花会長ジョン・ドゥの世紀の一戦だ! 観覧のお客様は巻き込まれないようにご注意ください」
まるでアナウンサーのように機械音で演説すると、また息を大きく吸い込んだ。
「レッツ、ショータイム!」




