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【書籍化】破滅フラグの悪役貴族、主人公ルートを先回りしたらヒロイン達が激しく執着してくるようになった  作者: むらくも航@6シリーズ商業化


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第7話 賢者を志す少女

 とある日、学園の屋外にて。


「【火(か)炎(えん)球(きゅう)】!」  


 高い声と共に、灼(しゃく)熱(ねつ)の塊(かたまり)が放たれた。

 ドゴオッと音が響いた巨大な壁には、焦げ跡が刻まれる。

 その威力に、周りの生徒はわっと沸いた。


「「「おおっ……!」」」


 この壁は“魔(ま)法(ほう)壁(へき)”。

 ただ分厚いだけでなく、魔法の威力を測るため、並の攻撃では傷一つ付かない強固な壁だ。

 そこへ、くっきりと分かるほどの痕跡(こんせき)を残したのだ。


 盛り上がった生徒たちは、一人の少女を囲む。


「さすがセレスさん!」

「入学前から噂になってましたもんね!」

「やっぱりエーデルン家はすごいなあ……」


 称賛の中心にいたのは──セレス・エーデルン。

 

 低めの身長によく似合う、金髪ボブ。

 強気な視線は、整った顔をより際立たせている。

 彼女は『エストレア・アカデミー』における、賢者ルートのヒロインだ。


 セレスはその艶(つや)やかな金髪を払うと、少し口元を上げる。


「当然よ。私はエーデルン家の次女なんだから!」


 エーデルン家。

 四世代前には賢者も輩出した、魔法界屈指の名門家系である。

 セレスはその直系なのだ。


 今行われている、魔法の選択授業を受ける生徒にとっては、まさに憧れの的だった。


「「「おおおー!」」」


 その実力の伴った言葉には、生徒たちの歓声が一段と大きくなる。

 だが、その輪から離れた場所では、あくびをしている者が一人。


「ふわ~あ……」


 体育座りをしたアスラである。

 否、一人ではなく二人だ。

 その隣には、当然のようにレーニャもいた。


「課題だけこなして日陰に直行とは。さすがです、怠惰(たいだ)の王」

「いや君も座ってるじゃん。てかその失礼な二つ名なに?」


 二人とも出された課題はとっくに終えている。

 教師からしても、周りの邪魔はしていないので注意をしにくい。

 やる気は感じられないが、文句を言える隙もなかった。


 アスラを嫌う者にとっては目障(ざわ)りらしいが。


「なんだよあいつ、休みやがって」

「課題もズルでもしたんじゃねえの」

「セレスさんも懲(こ)らしめてくださいよ」


 陰口を言うしかない者は、セレスを頼る始末だ。

 しかし、セレスはそちらへ視線すら向けなかった。


「別にどうでもいいわ」


 不真面目な者に興味は無いと言わんばかりに。

 というのも、セレスには“想い”があった。


(わたしには、そんな奴に構ってる暇なんて無い)


 入学初日から一貫した態度だ。

 “現賢者を超えるために入学した”、そう言っていたように。

 そんなセレスの視線は、遠く上に向けられる。


(わたしは、あれぐらい強くならなくちゃいけないの)


 視線の先には、ケタ違いに大きな魔法の跡が残っていた。

 前々代の賢者であり、セレスの“ひいひいおばあちゃん”にあたる人物が、学園生時代に刻んだ魔法の跡だ。

 彼女が卒業後に賢者になったことから、伝説として残されている。


 魔法の跡の大きさは、そのまま威力の証明になる。

 今のセレスには、到底届かない大きさだった。

 その差を実感しながら、セレスの耳の奥には聞き慣れた声が蘇(よみがえ)る。


『セレスならもっとやれるはずだ!』

『あなたは賢者にならなければいけないの』

『四世代ぶりの機会を逃すつもりか?』


「……っ」


 セレスはズキっとした頭を抑える。

 その重圧を払うように、首を横に振った。


(大丈夫、わたしならやれる……)


 セレスにも事情があるようだ。

 しかし、今この場においては一つ確信を持てる。


(少なくとも、この中にわたしより上はいないでしょうね)


 その確信は、名家の傲慢(ごうまん)ではない。

 実際に努力を積み上げ、結果も出してきたからこその自己評価だ。

 セレスは落ち着きを取り戻すと、訓練に戻ろうとする。


 ──と、その一方で。


「クズさんよ、邪魔だから消えてくんね?」

「ん?」


 後方では、アスラが大男に絡まれていた。

 アスラは細めた目で相手を見上げる。


「邪魔はしてねーよ。それとも何だ? 目立つ場を奪われてイラついてんのか?」

「な、なわけねえだろ!」


 図星らしく、大男の顔はみるみる赤くなる。

 アスラはゲーム知識で知っているが、大男もそれなりの家系出身だ。

 もっと目立てると思ったはずが、セレスに全部もっていかれ、その腹いせをアスラにぶつけたのだ。


 すると、気が立った大男は最悪の一言を口にした。


「ま、お前には授業も関係ねえか。隣にそんな女飼ってりゃ退屈しな──」

「おい」

「……!?」


 その瞬間、アスラは炎の球をぶっ放す。


 ──ボガアアアアッ!!


 アスラの魔法はヒュッと大男の顔スレスレを通り過ぎ、壁に激突した。

 “レーニャの悪口”という禁(きん)忌(き)を犯したからだ。

 立ち上がったアスラは、大男に指を向ける。


「次言ったら当てる。去れ」

「お、覚えてやがれ!」


 アスラに怯えて大男は去って行く。

 たまに見るほんの一幕だ。

 しかし、問題はそこじゃない。


 一連のやり取りを横目で見ていたセレスは、目を疑っていた。


(……は? なによ、あの威力!)


 たった今、壁にできた魔法の跡。

 アスラが一瞬イラっとして残した跡が、先程のセレスの跡より大きかったのだ。


 こんなことはありえてはならない。

 本気で賢者を志す者として、たかが授業で他人に劣っていて良いはずがない。


(なんなのよ、あいつ……!)


 プライドを傷つけられたセレス。

 彼女の足は自然と、いよいよ寝そべろうとしているアスラに向かっていた。


「あんた、アスラだったかしら?」

「え? あ、はい」

「今すぐわたしと勝負しなさい! どっちが大きな跡を付けられるか!」

「なんで!?」


 アスラは大きく口を開けた。

 当然、メインヒロインであるセレスのことは認知している。

 その上で、アスラは今まであえて避けてきたのだ。


(なんで俺に絡んでくるんだ!?)


 原作のセレスは、性格ゆえにアスラとは中盤まで関わらない。

 そのはずが、この序盤でセレスの方から声をかけてきた。

 アスラは訳が分からないながらも、たった今思わず付けた魔法の跡を指す。


「じゃあ俺、あれで提出で」

「はあ!? わたしをナメてるわけ!?」

「ち、違うって! これは面倒──じゃなくて、あなたに勝てるわけないなって!」

「絶対ナメてる! 今に見てなさい!」


 セレスは地(じ)団(だん)駄(だ)を踏むと、アスラの魔法の跡の前に立つ。

 己の集中させ、練り上げた魔力を渾身の力で放った。


「【原初の炎】!!」


 ──ドゴオオオオッ!!

 先程以上の轟音(ごうおん)と共に、真っ赤な炎の塊が壁へ激突する。

 辺りには熱気が押し寄せ、大きく砂ぼこりが舞った。


「どうよ、見たかしら!」

 

 セレスは胸を張る──が、その表情はすぐ固まった。


「か、勝ってない……?」


 砂ぼこりが晴れ、新しい跡を確認する。

 確かに大きい跡が付いていたが、アスラの一撃には届いていなかった。

 

「そんな、わたしの本気の魔法が……?」

「あ、おい! そんなこと言ったら──!」


 すると、アスラは目を見開く。

 周りの生徒たちがざわつき始めたのだ。


「セレスさんの跡より大きいだと?」

「あいつ、一体何したんだ?」

「いやいや、そんなわけ……」


 これにはアスラの顔色が一気に悪くなる。


(バカバカ、何してくれとんじゃー!)


 油断していたら、急に正体バレの危機が訪れた。

 慌てたアスラは、勢い任せでそれっぽい事を大声で叫ぶ。


「あ、あー! あそこ、みんなの魔法が重なって脆(もろ)くなってたのかもなー! いやー、偶然ってあるんだなー、あはははー!」


 そのアピールは意外にも効果的らしく。


「なんだ、そういうことかよ」

「あのクズが出来るわけねえもんな」

「目立とうとするんじゃねえよ」


 よほどアスラの評価が低いらしい。

 これで納得されるのも中々に悲しいが、今は良しとする。

 しかし、セレスだけは引っ掛からなかった。


(そんなわけない。こいつは……何か隠してる!)


 むしろ、今の言い訳で確信が深まっていた。

 セレスは腰に両手を当ててアスラに迫る。


「あんたねえ──」


 だが、問い詰めようとした時。

 キンコンカンコーン。

 授業終了のチャイムが鳴り、教師が全体に呼びかける。


「本日の選択授業はここまでです。皆さん、校舎に戻るように」

「イエス!」


 その瞬間、アスラはくるりと背を向けた。


「じゃ!」

「あ、ちょっと待ちな──消えた!?」


 そして、瞬(またた)きの間に消えている。

 まさかの“剣聖ステップ”だ。

 史上最悪の使い方だが、今は彼が剣聖なのでどう使おうと自由だ。


 しかも、気づけば隣のレーニャもこっそり消えていた。

 セレスはぷるぷると拳を震わせる。


(な、なんなのよ、あいつ~~~~!)


 天才と、もてはやされてきたセレス。

 ここまでコケにされた経験は初めてだ。

 この屈(くつ)辱(じょく)が彼女に強烈な火を点けた。


(しかも、あの魔法は本気じゃなかった。その化けの皮、ぜーーっっったいに剝(は)がしてやるんだから!)


 そして、セレスはくるりと振り返る。

 正体を暴く決意はしたものの、負けず嫌いな彼女には“まずやるべきこと”があった。

 たとえ教師に止められようとも。


「さあ、セレスさんも校舎に──」

「いえ、やるべきことがありますので」

「ですが次の授業が――」

「やるべきことがありますので!!」

「ひっ」


 教師をあしらうと、セレスは魔法壁へと向かう。

 狙うのはアスラの残したあの跡だ。


「まずはこれを超えてからよ! ──【原初の炎】!!」


 その日、魔法壁には絶え間なくドゴオッと音が響いたという。


 やがて夕方。

 制服の袖(そで)を黒ずみだらけにし、セレスはようやくアスラの跡を上回る。

 彼女は大の字に寝転ぶと、改めて決意を固めた。


「アスラ・ヴァルティオ……見破ってやるわよ、その正体!」


 そして、次の日からアスラのストーカーが現れた。

※ツンデレです。

その内デレ回あります。

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