↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】破滅フラグの悪役貴族、主人公ルートを先回りしたらヒロイン達が激しく執着してくるようになった  作者: むらくも航@6シリーズ商業化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/37

第6話 剣聖の業(わざ)

 「どっからでもこいよ」

 

 アスラは模擬用の木剣を片手に、不良達を挑発する。

 イラついた不良達は一斉に向かってきた。


「んじゃあお望み通り!」

「しばいてやるよ!」

「もう後悔しても遅えぞ!」


 対して、アスラは──。


「話が早くて助かる」

「「「……!?」」」


 その姿を消す。

 否、消えたと錯覚するほどの速さで動き出した。

 そこら中を移動しているのは体感できるが、不良達からは全く姿が捉(とら)えられない。


 一方、リーゼルにはギリギリ(・・・・)視認できていた。


(縮地法に高速サイドステップ、東国風の足運びまで……!)


 アスラの動きは、型の結晶。

 努力の賜物(たまもの)とも言える洗練された移動だが、それだけではない。

 数々の型を組み合わせ、織(お)り交ぜることで、オリジナルの動きへと変革させていた。


 まさに『剣聖ステップ』だ。

 リーゼルは先程のアスラの言葉を思い出す。


『型に縛られるのが良くない』


(それを体現してるのね……)

 

 不良達をボコすついでに、実戦形式で見せてくれているようだ。

 やがて十分に動きを見せると、アスラは攻撃へと移る。


「こっちだ」

「ごはッ!?」


 アスラが急に目の前に現れたかと思うと、不良の一人がぶっ飛ばされる。

 その調子で、一人また一人と次々に仲間が減っていく。

 不良達からすれば恐ろしい体験だろう。


 そんなアスラから、リーゼルは目を離せない。


(これが剣聖!! ……なの?)


 だが、見開いた目はすぐにひそめられた。

 というのも、アスラの戦い方はヤンチャ(・・・・)だったのだ。


「ほらほら、どうしたあ!」

「なんかこいつ楽しんでねえか!? ごばあッ……!」


 アスラは斬るのではなく、持ち手で相手を思いっ切りぶん殴っている。

 これでは武器差も何も関係ない。

 木剣だからこそかもしれないが、その割には手付きが慣れていた。


 その戦い方は荒くなる一方だ。


「でりゃあっ!」

「ぐがッ……!」


 もはや“鈍器”と言った方が正しいかもしれない。

 しかし、リーゼルは不思議と安心感を覚える。

 その姿からは“負け”のイメージは全く湧いてこないのだ。


(何としても勝つ、か)

 

 これがアスラの言っていたことなのかと納得する。

 もしかしたら、荒(あら)療(りょう)治(じ)であえてリーゼルとかけ離れた戦い方をしてくれているのかもしれない。

 そう思わされる程の心強さだ。


 やがて、不良達は尻もちを付いていた。

 そこでアスラはフィニッシュに入る。


「んじゃ、大サービス」

「……!」


 しっかりと剣技も見せてくれるらしい。 

 アスラは剣聖ステップで動き回ると、タンッと高く跳び上がった。

 そのあまりに速い動きを追うように、ゴオオと竜巻が巻き起こる。


「“疑似(ぎじ)聖剣”ってな」


 すると、その竜巻を剣に纏(まと)わせた。

 精密にコントロールすると、天へと伸びる竜巻の剣が完成する。


 ちなみに、相変わらず不良達は姿を捉えられていない。

 そんな彼らにアスラは最終警告を告げた。


「二度とレーニャの悪口言うんじゃねえぞ」

「「「……!?」」」

「〇ねえ!」


 アスラはそのまま木剣を振り下ろす。

 その動きと共に、一体となった竜巻が不良達に降り注ぐ。

 ガキのような放送禁止用語をかき消す勢いで。


「「「のわああああああッ!」」」


 ──ズドオオオオオオオッ!!


 訓練場がうなりを上げる。

 不良達は気が付けば迫っていた竜巻に押し潰され、一斉に気絶した。

 アスラも、本当には死なない程度には抑えているだろう。


 ちなみに、正体バレの配慮もしっかりしている。

 レーニャは微笑みながらつぶやいた。


「高度な業(わざ)は魔法と見分けがつかない。何をされたかも分からないでしょうねぇ」


 アスラと不良達に実力差がありすぎるからだ。

 動く姿もほとんど見られず、最後まで何が起きたか判別できない。

 アスラが剣聖ということを予想すらできないだろう。


「ま、これでも“ウォーミングアップ程度”の力でしょうけどね」


 レーニャの言う通り、アスラの実力は計り知れない。

 そうして事を終えると、アスラはスタっと地上に着地した。


「よし、スッキリしたね!」

「やっぱりストレス解消じゃないですかぁ」

「ち、違うって! レーニャの悪口に怒ったのはガチだから!」

「そうだと良いですけどねぇ」


 そこにはレーニャの軽口が待っていた。

 冗談を言うあたり、全く心配していなかったのだろう。

 すると、リーゼルもゆっくり近寄ってくる。


「……さすがね」


 何かを考えているようだが、ようやくまとまったように視線が合う。

 そこには晴れやかな表情が浮かんでいた。

 リーゼル自身、伸び悩んでいた自覚が消えるように。

 

「あなたの言っていた事、少しは分かった気がする」

「お、そっか。あいつらも少しは役に立ったな」

「……」


 それにはノーコメントだが、アスラの次の言葉には賛同できた。


「型に頼り過ぎない柔軟さと、なんとしても勝つ貪欲(どんよく)さ。それがあれば君はもっと強くなる」

「ええ、ありがとう」


 わざわざ実践形式で示してくれたおかげで、リーゼルは成長のイメージを明確に掴むことができたようだ。

 リーゼルはふっと微笑む。


(なんだかんだで面倒見が良いじゃない)


 クズ、自(じ)堕(だ)落(らく)、なまけ者。

 そう見えていたアスラの姿は、少しずつ剣聖と重なって見え始める。

 高鳴る胸の鼓動と共に。


 すると、アスラはくるりと背を向ける。


「てことで俺はこれで」

「……!」


 対して、リーゼルは思わず手を動かした。

 去ろうとしたアスラの袖(そで)をつまんだのだ。


「ん?」

「……あ、えと」


 だが、リーゼルは無意識だったらしい。

 それでも、心に素直になれば、自分の行動の意味が分かった。


「……もっと、教えて?」

「え?」

「あ、あなたが今言ったんじゃない! 貪欲になれって!」

「言ったけど、それとこれとは……」


 アスラはちらりとリーゼルを視線を合わせる。

 恥ずかしがりながらも勇気を出した表情だった。

 その端麗な顔でお願いされては、正直ずるい。


「しょうがない。もうちょっとだけだぞ」

「本当!?」

「ああ。けど、その代わり──」


 ぱっと明るくなったリーゼルに、アスラはつい口が滑る。


「俺の言う事を何でも一つ聞いてくれたらな!」

「……!」

「──あ」


 勢いのまま、レーニャと同じノリで軽口を叩いてしまった。

 

(やべ、また嫌われる!)


 自然と友達になった気でいたのかもしれない。

 アスラは慌てて訂正しようとするが──。

 

「……のよ」

「え?」

「な、何をしたら教えてくれるのよ!」

「!?」


 リーゼルは本気だった。

 何を想像したのか、耳まで赤く染め、上半身はよじるように抑えている。

 それでも剣聖に教わりたいという気持ちで言いきったのだ。

 

 対して、アスラは余計に血の気が引く。


(この子、思ったより危うい……!)


 原作主人公はこういう軽口を言うタイプではない。

 ゆえに、リーゼルのこんなセリフは初めて聞いた。

 真面目な彼女は、変な方向にも素直だと実感する。


 アスラは申し訳なさそうに、下から下から声をかけた。


「あ、あの、すみません。今のは冗談で……」

「……は?」


 リーゼルの目がパチっと開く。

 そのままゆっくりとアスラを向くと、みるみるうちに怒りを募らせた。

 顔を着実に赤くさせながら。


「~~~~っ! あなたねえ……!」

「すみませんでしたあーっ!!」


 その後、リーゼルはアスラをしばらく追いかけ回した。

 なんとそこで報酬が一つ。

 剣聖のアスラを追いかける内に、ステップのコツを掴んだという。


 一方、冷静に光景を眺めていたレーニャは、やれやれと肩をすくめていた。


(また“正体を広めるぞ”って脅(おど)せばいいだけなのに。真面目ちゃんですねぇ)


 こうして、アスラはたまにリーゼルの剣を見てあげることになった。

 少し面倒ではあるが、リーゼル相手なら悪くないとも思える。

 ちなみに、有能メイドのレーニャは後片付けまで完遂(かんすい)していた。


 後日、教師に呼ばれた不良達は告げられる。


「はい、訓練場の修理代8000万コルね」

「「「はあああああああ!?」」」


 悪口の腹いせに、ちゃっかり不良達に責任を押し付けたという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作の書籍版が9/25発売です!
ぜひ下記の青文字からチェックしてください!
書籍紹介ページはこちら
i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。