第37話 平穏に過ごしたいのに
「なーんて良い昼寝日和だ」
とある日、学園の広場。
真昼間から、アスラは木陰で寝転がっていた。
すると、通りかかった者達からは冷ややかな目で見られる。
「またあのクズかよ」
「最近まであんなことがあったのに」
「危機感無い奴っていいよな」
いつも通りの嘲笑だ。
それを横耳に聞きながらも、アスラは反応しない。
むしろ、陰口が聞こえるぐらいがちょうど良いと感じた。
(すっかり日常に戻ったな)
王都襲撃事件から、一週間。
このエストレア学園にも、日常が戻ってきていた。
アスラは周囲の気配が無くなったことを感知すると、最近のことを振り返る。
「復興も順調そうで何よりだし」
ケインの襲撃により、建物が壊れた地点はある。
だが、死人は一人も出なかった。
アスラは王都民を守り切ったのだ。
その功績は広く称えられ、『役職の奇跡』なんて呼ばれている。
すると、ふとアスラの上から声がかかった。
「壊れた建物も、不幸中の幸いというやつですねぇ」
「まあ、そうとも言えるな」
声をかけてきたのは、レーニャ。
襲撃があった辺りは、再開発計画がされていた地区だ。
建築が一世代前のもので、耐久性の問題などが度々話題に上がっていた。
ただ、金もかかるため、住民はすぐに建て替えなど出来ない。
「国王が条件を飲んでくれて助かった」
しかし、襲撃によって破壊されたことで、国が無償で全て建て替えることにしたのだ。
アスラがお願いし、国王も了承。
少し時間はかかるが、すぐに人々が戻れるようになるだろう。
そんな話の中、レーニャはケインに触れる。
「でも、元凶の彼は出てくることは無いでしょうねぇ」
「ああ」
アスラも最終決戦の後を思い返す。
「奴には一生をかけて後悔してもらう」
────
一週間前、上空。
「任務完了」
アスラは最終奥義──【三役職・全天の罰】を発動した。
三役職の業の結晶は、ケインを焼き払う。
まるで天から下った罰のように。
「が、あぁ……」
ケインは身を焦がれ、空から堕ちていく。
アスラは彼を掴み、そのまま地面に置いた。
すると、よろよろと動くケインに、ハッキリ伝える。
「お前の魔力回路、闘気回路、筋力。全てを断ち切った」
「……!」
「お前はもう、歩くことも、話すこともままならない」
「んだと……っ!」
最後の宣告だ。
アスラの最終奥義は、ケインを再起不能にした。
要件のみを告げると、アスラはケインの下に魔方陣を浮かばせる。
「その先は決して出られない牢獄。一生かけて後悔するんだな」
「ク、クソがああああ──」
ケインの叫び声は、途中でぷつんと切れる。
魔法陣に呑み込まれていったのだ。
それを見送り、アスラは息をついた。
「……ふぅ」
いくらアスラでも、ここまでの長期戦は初めてだ。
魔力は回復させていたとはいえ、体の疲労は蓄積している。
それに抗うことをやめたように、大の字に寝転がった。
「やり切ったな」
王都から聞こえてくる、大歓声を耳にしながら──。
────
今一度思い出すと、アスラは安心したように笑う。
「俺の平穏は誰にも乱させねえよ」
あの規模の襲撃ですら、アスラの平穏は壊せなかった。
その事実に、レーニャも笑みを浮かべる。
「乱せる人なんて、いるんですかぁ?」
「いやー、いないいない」
アスラは手を振りながら、特訓の期間に思いを馳せる。
「なんの為に正体を隠して役職に就いたと思ってんの」
アスラが努力したのは、今この瞬間のため。
破滅を回避し、何でもない日々を送るためだ。
これからも、平穏に過ごす為には力を尽くすことだろう。
「てことで、俺は昼寝をするぜ」
アスラは薄くまぶたを閉じていく。
ぽかぽかした天気が眠気を誘ったようだ。
この穏やかな日常を堪能するように、重くなるまぶたには素直に従う。
──とそんな時。
「あーっ!」
「!?」
遠くから高い声が聞こえた。
アスラが警戒を解いた最中に、少女が近づいてきていたのだ。
声の正体は、ヒマナ。
「こんなことにいたんだね!」
「なっ!?」
ヒマナはアスラを見つけ次第、ずんずんと接近してくる。
すると、他の方面からも一斉に気配を感知した。
「アスラ、見つけた」
「リーゼル!」
「よーやく発見したわよ」
「セレス!?」
「師匠、探しました!」
「ノアルまで!?」
アスラが指導している者達だ。
原作『エストレア・アカデミー』のメインキャラが勢ぞろいである。
彼女達はじりじりと寄ってくると、やがて一斉に言葉にした。
「剣、教えて」
「魔法教えなさいよ」
「武術の特訓!」
「師匠の言う事なら何でも!」
いつも通りの光景だ。
だが、今から昼寝をしようとするアスラには、間が悪かった。
「うぐっ……」
すると、バッと横に走り出す。
「執着してくんじゃねえ!」
「「「あー!」」」
アスラは逃げ出したのだ。
対して、メインキャラ達はみんなして追いかける。
そんな中、残ったレーニャの傍に、がさっと少女が現れた。
「アスラ様は本日もご多忙のようで」
賢者使者のコノメだ。
セレス達のように追いかけたりはしないが、彼女は常にアスラを見張っている。
いつどんな時でも、賢者を支えられるように。
「私も近くで見なければ」
そう言い残すと、コノメもアスラに近づくよう飛び立った。
胸元には双眼鏡を手にしながら。
その最中にも、アスラは追いかけ回されている。
「「「待てー!」」」
「うわー!」
そんな光景を見ながら、レーニャはくすっと微笑んだ。
「平穏を乱せる存在、いましたねぇ」
今の賑やかな様子を楽しむように。
一方で、アスラは走りながらに思う。
(なんでこうなった!?)
最初にバレたのは、うっかりだった。
しかし、それが段々と広がり、今ではメインキャラ達に正体が知られている。
その結果が、今の平穏とは程遠い光景だ。
(ちくしょう、必ず取り戻してやる!)
すると、アスラは密かに決意する。
(平穏な日々をな!)
だが、アスラはこれからも執着されて過ごしていくことだろう──。
ご愛読ありがとうございました!
これにて、本作は一区切りとさせていただきます。
最後までお読み下さり、大変感謝します!
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ぜひ、下の方のページよりチェックしてみてください!
では、改めてありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう。




