↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】破滅フラグの悪役貴族、主人公ルートを先回りしたらヒロイン達が激しく執着してくるようになった  作者: むらくも航@6シリーズ商業化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/37

第32話 共鳴する力

 「この辺りかな」


 王都の東地点で、ヒマナは足を止めた。

 避難の流れとは逆行したため、周囲に一般人はいない。

 刺客たちは地面に転がっているが。


「これが、アスラ君の力……」


 今なお王都を覆(おお)うアスラの奥義により、この地点の敵も制圧したようだ。

 おかげで王都民の避難は済んでいる。

 そうして周囲を確認しながら、ヒマナはふと後方を振り返った。


「みんなは大丈夫かな」


 リーゼル、セレス、ヒマナ。

 学園から飛び出した三人だが、途中で道を分かれていた。

 それぞれが強い気配のする方へ向かったのだ。


 中でも、少し気になったのはセレス。


『この気配、まさか……』


 道を分かれる直前、セレスはそう言い残していた。

 何か心当たりがあるような、並々ならぬ表情で。


 だが、ヒマナも足を止めるわけにはいかず。

 一刻も早く騒動を解決するため、ここに向かった。


 ──と、そんな時。


「……!」


 不意に正面から“大きな風圧”が押し寄せる。

 ヒマナはすぐに腕を前方に押し出した。


「はッ!」


 闘気を発し、風圧を打ち消したのだ。

 その勢いで砂ぼこりは一気に晴れる。

 

 すると、向こうには一人の老人が立っていた。


「中々やりおるのう」

「……!」


 第一印象は、“仙人”。

 髪もヒゲも白く染まり、どこかふらふらと歩いている。

 腰に吊るしたひょうたんからは、酒の匂いが漂ってきそうだ。


 ただ、ヒマナはこの老人を知っている。

 というより、武術を学ぶ者なら誰もが見たことがある者だ。


「“前代武神”──ゲンブ?」


 老人の正体は、前代武神ゲンブ。

 徒(と)手空拳(しゅくうけん)で数多の敵から国を守ったという、武の達人だ。


 だが、その存在には違和感がある。

 気配が濃い割に、生きた人間の温度が感じられない。


 その答えは、別の声が教えてくれた。


「あれはおそらく“幻影”ですよぉ」

「……! レーニャさん!」


 スタッと近くへ降り立ったのは、レーニャだ。

 レーニャはヒマナの横に並ぶと、ちらりと彼女を見る。


「その様子だと、ご主人様が奮闘しているのは分かってますね?」

「う、うん」

「なら話は早いです。ご主人様は奥義で“雑魚”を処理していますが、いくつか倒し切れない敵がいるようです」


 アスラの【三役職の全天(トゥリア・ユニバース)】は、規模に特化した業(わざ)。

 多対一専用の魔法のため、一対一には向かない。

 アスラが危惧(きぐ)していたのは、この業で処理しきれない敵への対応だ。


 そのため、アスラはレーニャにお使いを頼んだ。


「私はそんな“強敵”の偵察(ていさつ)です。その内の一つが、あの者」

「!」


 レーニャは目の前の老人を見据(みす)えた。


「ご主人様の推測は当たっていたようです。やはり本物ではなく幻影ですね」

「幻影……?」

「本物に近い(・・)強さを持った影です。“魔法で再現された存在”とでも言いましょうか」

「そんなことが!?」


 ヒマナは思わず息を呑む。

 そこまで高度な魔法は聞いたことがない。

 

 すると、レーニャはあっさり答える。


「向こうのボスが本物の前代賢者ですから。それぐらいは可能でしょうねぇ」

「……!」

「それでも、事細かく前代武神と接触して、ようやく完成させたものだとは思いますが」


 レーニャは刺客のラスボスを共有した。

 自らの意思でここに来たヒマナを尊重したのだろう。

 その答えならば、ヒマナも納得できる。


 そして、レーニャは最後に確認した。


「覚悟は出来ていますか?」

「!」

「幻影とはいえ前代武神です。そこらの連中よりは数段強いですよ」


 これはレーニャなりの優しさだ。


「逃げるなら今の内ですが」

「私は……」


 しかし、答えはとうに決まっていた。


「私はアスラ君と同じ場所で戦いたい!」

「そうですか」


 真っすぐな答えに、レーニャも口角を上げる。

 これで態勢は整った。

 

 ──が、相手も悠(ゆう)長(ちょう)ではない。


「いつまでしゃべっておる」

「「……!」」


 先ほどと同じ“風圧”がヒマナ達に迫る。

 ゲンブの拳圧(けんあつ)で起こしていたようだ。

 

 対する二人は、バッと左右に分かれる。

 それぞれ回避をすると、レーニャが大きな声で伝えた。


「あれに近づくのは危険です。私がやり合いますので、あなたはチャンスを見計らって攻撃を」

「了解!」


 賢明な策だ。

 その作戦通り、まずはレーニャが接近する。


「今回はナメプ無しです」


 そのまま宙に躍(おど)り出ると、ゲンブの上から高速にムチを振るった。

 無数の蜂(はち)が一斉に襲いかかってくるかのように。


「【雀蜂の捕食《ホーネット・プレデター》】」

「ぬぅおっ!?」


 ドガガガガガガアッ!

 ムチは地面を抉(えぐ)り、宙を舞い、轟音(ごうおん)を立ててゲンブに迫る。

 ゲンブも闘気で身体を強化しているが、手数の多さに反撃の隙をもらえない。


 結果、レーニャが押していた。


「まだまだいきますよ」

「ぐぬぅ……!」


 幻影とはいえ、相手は前代武神を模した存在。

 近くで構えるヒマナは、その光景に目を見開いていた。


(レーニャさんって、一体どこまで……!)


 レーニャの底知れぬ実力に感服(かんぷく)しているのだ。

 そう攻防が繰り返される内に、チャンスは訪れる。


(……! ここ!)


 ゲンブが瓦礫(がれき)に追い詰められていたのだ。

 好機を見出したヒマナは、一気に飛び出す。

 溜めていた闘気を右腕に纏(まと)って。


「やああああ!」


 それに合わせて、レーニャも技の締めに入った。

 ヒマナとレーニャの同時攻撃だ。


「【破(は)拳(けん)衝(しょう)】……!」

「フィニッシュです」


 ──ドゴオオオオッ!!

 二人の技が重なり、鈍い音が響き渡る。

 しかし、二人はすぐに目を見開いた。


「「……!」」

「ほっほ」


 二人の攻撃が受け止められていたのだ。

 ゲンブの闘気を纏った強(きょう)靭(じん)な体によって。

 

「そろそろわしの番かの?」

「「……っ!」」


 ぞわりと背筋を凍らせたレーニャとヒマナは、すぐに数歩下がる。

 態勢の立て直しだ。


「なんじゃつまらん」


 すると、ゲンブは手を引っ込める。

 執拗(しつよう)に反撃する気は無いらしい。

 今の行動も含め、レーニャは静かに口を開いた。


「本目的は“時間稼ぎ”ですねぇ」

「……! そういうことか!」


 ヒマナも納得したようにうなずく。


 前代武神ゲンブ。

 役職時代の彼は、圧倒的な闘気量によって“無敵の防御力”を誇ったという。

 その特性を生かし、刺客側はここでアスラ側の駒(こま)を足止めするつもりだ。

 

 現に、レーニャという強力な駒をここに割いている。

 状況を整理すると、レーニャは息をついた。


「……やはり一撃に欠けますねぇ」


 レーニャは押していたように見えたが、手数で圧倒するタイプだ。

 また、ヒマナの本気の攻撃も受けられてしまった。

 つまり、“決定打”がない。


 二人は行き詰まる──かと思われた時。

 ゲンブに向かって、空から“巨大な球”が降ってくる。 


「ぬおっ!?」


 ドゴオッ!

 ゲンブは回避するが、レーニャ達との距離が空く。

 すると、すぐさま彼女達に声が届いた。


『聞こえるか』

「ご主人様!」

「アスラ君!」


 アスラの風魔法の声だ。

 彼は慌(あわ)ただしく続ける。


『二人共、助力を感謝する。俺が手を離せないばかりに』

「いえ。それよりご主人様、ご用件は?」

『今、少し手が空いた。そちらを援護する』


 今の巨大な球は、王都を覆(おお)うアスラの奥義から放出したもの。

 【闘(とう)気(き)弾(だん)】だ。

 すると、アスラはヒマナに声をかけた。


『ヒマナ、今の球に合わせてほしい』

「わ、私が?」

『ああ。君ならもう、課題を完成させてるんじゃないか?』

「……!」


 アスラの推測は当たっている。

 ヒマナは必殺技を完成させ、アスラに見せる機会を待っていた。

 それが今やってきたのだ。

 

 だが、懸(け)念点(ねんてん)はある。


「でも、人と闘気を合わせるなんて……」

『大丈夫』


 闘気は、人によって微妙に性質が異なる。

 ゆえに、武術家は魔法のように技を合わせることは出来ない。

 しかし、アスラは言い切った。


『前に、闘気をあげたことがあっただろ』

「あっ!」

『君の闘気には俺のも混じっている。相性は良いはずだ』


 ヒマナがアスラに救われた時のことだ。

 普通はありえないが、同じ闘気が混じっていれば、技を合わせるのも不可能ではない。


 アスラは再度呼びかけた。


『ヒマナの特訓の成果、ここで見せてくれ』

「アスラ君……うん!」


 ヒマナは元気に応える。

 自分を信じるアスラを信じたのだ。

 この真っすぐさがヒマナの良い所である。


 すると、レーニャが一歩前に出た。


「隙は私が作ります。ご主人様」

『ああ、頼りにしている』

「ふふっ」


 アスラに頼られ、レーニャの顔がニヤける。

 今の言葉を脳内で繰り返しながら、危険も顧(かえり)みず地面を蹴(け)った。

 そのまま先程以上の、限界を超えた速さで攻撃を仕掛ける。


「ふふっ、今の私は無敵ですよ」

「ぐおおっ!」


 意外とチョロいレーニャは、心から頼りになる存在だ。

 彼女が隙を作ってくれる間、アスラはヒマナに語りかける。


『闘気を溜めるんだ。君の中にある、俺のも一緒に!』

「うん……!」

 

 ヒマナは集中力を高め、闘気を練り上げていく。

 強く意識すると、自分の中に眠るアスラの闘気を今一度実感できる。


(アスラ君の闘気だ。あったかい)


 その想いも込め、闘気を最大限引き出す。

 やがて、レーニャがなんとか隙を作り出した。


「今です」

 

 レーニャがゲンブの態勢を崩し、一瞬退(ひ)いたのだ。

 アスラはその好機を見逃さない。


『ああ、ヒマナ!』

「任せて!」


 アスラの奥義から降り注ぐ闘気。

 ヒマナが限界まで練り上げた闘気。

 二つの力が共鳴し、一つの巨大な球が形作られる。


 それを一気に放つ。


「「【共(きょう)鳴(めい)闘(とう)気(き)弾(だん)】……!!」」


 ドゴオオオオオオオオッ!!


 巨大な闘気の塊が、ゲンブを真正面から呑み込む。

 アスラの闘気が芯となり、ヒマナの想いを込めた闘気が威力をさらに押し上げた。

 その威力は、“無敵の防御力”を誇るゲンブさえも貫いた。


「ぬあああああああっ!」


 巨大な球が過ぎ去ると、ゲンブの幻影も消えていた。

 ヒマナはその場に膝をつき、大きく息を吐く。


「や、やった……」


 ヒマナがこっそり完成させた技は、【闘気弾】だったのだ。

 それをアスラに見せることができて、なお決定打となった。

 この上ない勝利だ。


 すると、レーニャも穏やかな表情で寄ってきた。


「見事でしたよ」

「ありがとうレーニャさん! でも、レーニャさんがいたからこそです」

「いえ、私だけで倒せなかったのは反省点ですねぇ」

「あ、そうなんだ……」


 レーニャはまだ上を目指していた。

 それでも、勝ちは勝ちだ。

 

 アスラはレーニャに伝える。


『その辺は敵の気配が無い。ヒマナと共に休んでくれ』

「わかり、ました」

『俺は引き続き他の地点にあたる』

「……お気をつけて」


 消えゆくアスラの声に、レーニャは悔しいながらも了承する。

 彼女も疲労を感じていたのだろう。

 相手も強かったというわけだ。

 

 そんな中、隣ではヒマナが胸を押さえる。

 自分の中に眠る、アスラの闘気に語りかけるように。


(無理しないで。……って言いたいけど、言えないよね)


 アスラは三役職だ。

 この国を守る役目がある。

 ならば気持ちはぐっと堪(こら)えて、空に向けて伝えた。

 

「頑張って、アスラ君」


 すると、ヒマナはふらふらっと態勢を崩す。


「うっ……ぐぅ」

「おっと。単純な行動ですねぇ」


 疲れ果てて眠ってしまったようだ。

 レーニャはヒマナを支え、壁にもたれかけさせる。

 自分も体を休めながら、ふとヒマナに目を向けた。


(ご主人様のあんな態度は、初めて見ました)


 基本アスラは、危険な事柄は一人で解決しようとする。

 役職の責務を感じているからだ。


 しかし、今回ばかりを周りを頼った。

 限界で戦っているからか、ヒマナを止めることもなく。

 そして、最後は共に倒してくれと提案するまでに。

 

「……少し、羨(うらや)ましいですね」


 そんなヒマナを、レーニャも心から認めた。

 その上で、もっとアスラに頼られるため、また強くなろうと決意するのであった。


 これにて、“別格の気配”一つ目の討伐は完了。



◆



 同時刻、北地点。


「これはまた、すごい敵ね……」


 リーゼルは剣を構えていた。

 目の前に立つ幻影を見据(みす)えて。


「“前代剣聖”ザンテツ……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作の書籍版が9/25発売です!
ぜひ下記の青文字からチェックしてください!
書籍紹介ページはこちら
i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。