↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】破滅フラグの悪役貴族、主人公ルートを先回りしたらヒロイン達が激しく執着してくるようになった  作者: むらくも航@6シリーズ商業化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/37

第30話 役職の名に誓って

 「アスラ、今日も来てないね」


 とある日の学園。

 昼休みの中庭で、リーゼルが口を開いた。

 

 その言葉には、向かいに座るセレスとヒマナが返す。


「最近、なんか忙しそうよね」

「レーニャさんも見ないし……」


 彼女達も気になっていたようだ。

 三人は昼食中にもかかわらず、最近休みがちなアスラの心配をする。

 彼が三役職の正体だと知ったからこそだろう。


 林間学校から、“一週間と少し”。

 表向きには平穏な日常が戻ってきていた。

 だが、三人にとっては違う。


「「「……」」」


 あの日以降、アスラの不在にも意味を考えるようになっていた。

 リーゼルは、腰に差した剣へ視線を落とす。


(完成した(・・・・)技、見てもらいたいのに)


 林間学校の初日、アスラはみんなに課題を出していた。

 “一段階上の必殺技を身に付けろ”、と。

 二日目は敵襲でそれどころではなくなったが、その後も各自で鍛錬を続けた。


 そして、つい先日。

 リーゼルはようやく、自分の中で答えを掴んだのだ。


 またそれは、セレスもヒマナも同じく。


(まったく、さっさと来なさいよ)

(渾身の技、見せてあげたいなぁ)


 全員、アスラの課題をクリアしていたのだ。

 三人は仲間であり、ライバル。

 その意識がお互いを高め合っている。


 そんな中、ヒマナはそういえばと話題を切り替えた。


「なんか最近、王都内(・)の催(もよお)し多いよね」


 その辺を歩いていった生徒が、話をしていたからだろう。

 リーゼルもうなずく。


「祭りとかイベントとか、積極的にしてるかも」

「なんか、王都外に出るのを止めてるみたいなんだよねー」


 すると、セレスがぴくりと反応した。

 エーデルン家でも似たような話が出ていたのだ。


「そういえば、王都と外部のやり取りが減ってるらしいわ。今は厳しい許可が必要だって」

「ん」


 それにはリーゼルは目を細めた。


「……それって、アスラが何か関わってる?」

「「!」」


 三人は顔を見合わせる。

 少し考えた後、セレスとヒマナが続けた。


「王都の外に出られると、不都合があるってこと?」

「刺客に人質にとられるから……とか?」


 行き過ぎた憶測ではある。

 だが彼女達は、役職を狙う刺客と実際に対面した。

 “まさか”と思っていたことも、裏では起きているかもしれないのだ。


 ──その時だった。


「なあ、あれ何だ?」


 中庭にいる生徒の一人が、上を指す。

 ふと聞いていたセレス達も、思わず空を見上げた。


「「「……ッ!!」」」


 その目はすぐに見開かれる。


 ──ゴオオオオオオ!!

 空の彼方から、無数の光が落ちてきていた。

 しかも、徐々にこちらへ向かってきている。


 リーゼル、セレス、ヒマナ。

 三人はそれぞれ声を上げる。


「なに、あれ……!」

「まさか魔法なの!?」

「それにしては強すぎるよ!」


 その光景は、“王都全土”に広がっていた。

 同じく空を見上げる王都の人々は、徐々に危機感を強める。


「おい、落ちるぞ!?」

「待て待て逃げろ!」

「どこに逃げるんだよ!」


 最初は綺麗な流れ星とでも思っていた。

 しかし、あまりにも数が多い。

 誰もが覚えた違和感に、宣告がされる。


『未知の魔法を確認! 王都民は直(ただ)ちに避難してください!』


 王都全体に広がる放送だ。

 それを機に、混乱は一気に広がった。


「「「うわああああああああっ!」」」


 学園を含め、王都全土を悲鳴が包む。

 ただし、逃げ場も無く、対抗手段もない。

 一部の勇敢な者は杖を掲げるが、届くはずもない。


 誰もが絶望で空を見上げる中──事は起きた。


 ドドドドドオオオオオッ!!


「「「……!?」」」


 突如、どこからかいくつもの光が放たれた。

 それは降り注ぐ無数の魔法を、全て(・・)撃ち落としたのだ。

 王都へ落ちるはずだった災厄は、空中で消失する。


「「「……っ」」」


 あまりに一瞬の出来事に、誰も事態を把握できない。

 王都民は空を見上げたまま固まっていた。

 

 そんな中、希望の声が王都に響き渡る。


『私は賢者です』

「「「……ッ!!」」」


 その一声だけで、王都全体の空気が変わった。

 人々の目が一瞬で明るく塗(ぬ)り替(か)わった。

 “役職”の名はそれだけの意味を持つのだ。


 すると、放送は続く。


『もう安心してください』



◆



 同時刻、別地点。


 王都を囲う城壁の外で、一人の男は笑っていた。


「はっ、マジか! あれを全部撃ち落とすかよ!」


 男の名は──ケイン。

 役職の正体を狙う刺客のボスであり、先ほどの魔法を放った“張本人”だ。

 その顔には、憎しみが滲(にじ)んで見える。


「さすがは歴代最強の役職。俺じゃ話になりませんってか? あぁ?」


 やはり役職に特別な恨みがあるようだ。

 ただ、先程の砲撃はほんの“挨拶(あいさつ)”。

 幕開けの花火に過ぎない。


 ケインの後ろには、ずらりと戦力が並んでいるのだから。


「「「いつでもご指示を」」」


 彼に従う刺客たちだ。

 元高級官僚から、裏世界の有名人、この日のために雇った傭兵まで。

 さらには、どこからか従えた魔物までも。


「「「グルルルル……」」」

 

 それだけではない。

 王都の各所には、別動隊を潜ませている。

 最近厳しく取り締まっていた中を、くぐり抜けていたのだ。


 戦力を見渡すと、ケインはニヤリと口角を上げた。


「最終決戦といこうか、今代(・・)賢者さんよ」


 ケインは薄く笑うと、そのまま前方へ指を差した。

 突撃の合図だ。


「──いけ」

「「「うおおおおおっ!」」」

「「「グオオオオオッ!」」」


 刺客、傭兵、魔物。

 ケインの指示により、あらゆる戦力が一斉に動き出す。

 本格的な開戦だ。


 そんな中、側近の一人が慌ててケインへ魔石を差し出す。


「ケイン様。現在、王都では放送が流れているそうです。こちらを」

「放送?」


 ケインは魔石を受け取り、そこから流れる声に耳を傾ける。


「……!」


 その内容に、目を細めた。


『私は賢者です』



◆



 そして、賢者の間。


「繰り返します」


 アスラは一度、コホンと小さく息を整えた。

 その前には、王都全域へ声を届ける巨大な拡声(かくせい)魔石が並んでいる。

 後ろで見守る、レーニャとコノメが準備を整えてくれたのだ。


 その中で、アスラは放送を繰り返す。


『私は賢者です』

『俺は剣聖だ』

『我は武神』


 魔法で声を調整しながら、アスラは三役を演じ分ける。

 知らない者が聞けば、同一人物とは思わないだろう。

 これも王都の民のためだ。


 そのまま、王都の人々へ向けて力強く告げる。


『先程の攻撃を撃ち落としたのは、私──賢者の魔法です』

『もう安心してください』

『ここに三人の役職が集(つど)っている』


 それぞれ役を演じながら、最後は賢者の口調で言い切る。


『私たちが、必ず脅威を排除します』


 人々に希望をもたらすように。


『この──“役職”の名に誓って』


 そこまで言うと、アスラは拡声の魔石から手を離す。

 王都のあらゆる場所へ、今の言葉は届いたはずだ。


 それから、ふうと息を吐いた。

 王都が危険に晒されたことに怒るように。


「随分と手荒な真似だな」


 それには、目の前のコノメが口を開いた。


「相手がここまで尻尾を見せたのは、初めてですね」

「ああ、向こうも最終決戦のつもりで来ている。もう隠す気がないんだろうな」


 アスラが撃ち落としたとはいえ、今の魔法は“賢者クラス”。

 この二週間で、アスラ達は刺客側のボスを推測していた。

 それがたった今、確信に変わる。


「そうだろ? “前代賢者”──ケイン」


 ケイン。

 アスラの前に賢者に就いていた男だ。


 彼なら、セレスに仕掛けた魔法も、刺客に付与された魔法も可能だろう。

 レーニャが追い詰めた男が言った「ぜ」とは、「前代賢者」と言おうとしたのだ。


 ケインとも顔見知りであるコノメは、静かにこぼす。


「アスラ様に取って代わられたことで、彼の任期は短かった。それを恨んでいるのかもしれません」

「どうだかな。まあ理由はどうであれ、これは看過できない」

 

 アスラは賢者の間から、遠くを見つめる。

 どこかに潜んでいるであろうケインを思い浮かべて。


「お前の好きにはさせない」


 王都を巻き込む最終決戦が、今まさに始まる──。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作の書籍版が9/25発売です!
ぜひ下記の青文字からチェックしてください!
書籍紹介ページはこちら
i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。