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【書籍化】破滅フラグの悪役貴族、主人公ルートを先回りしたらヒロイン達が激しく執着してくるようになった  作者: むらくも航@6シリーズ商業化


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第29話 今まで以上に

 「【三役職の裁き《トゥリア・ジャッジメント》】」


 アスラが手を前方にかざす。

 その動きに呼応するように、刺客側へ輝く巨剣が迫る。

 剣聖の剣に、賢者の魔法・武神の闘気を纏(まと)わせた必殺技だ。


 対して、刺客側は避けることも出来ない。


「「「あ、あぁ……」」」


 成す術(すべ)が無いのだ。

 全てを諦めると、人は動くことをやめる。

 彼らは自分達に降りてくる巨剣を、ただ見上げることしかできなかった。


 ──ズシィィィィィン。


 それほど最後は静かに。

 ただ圧倒的に、アスラが勝利した。


「終わりだな」

 

 アスラは再び魔法陣を展開すると、三種の神器を収める。

 そのまま刺客側に背を向けて、口にした。


「脅(きょう)威(い)の排除(はいじょ)、完了」


 役職の任を遂行した時のように。


 もっとも、刺客側は死んだわけではない。

 戦闘不能に陥(おちい)っているだけである。

 アスラは技の直撃を避け、うまく衝撃だけを当てていた。


「「「…………」」」


 アスラは、口では葬(ほうむ)るだの物騒な事を言うが、実際に殺しはしない。

 信念にある通り、その力は“守る”ためにあるのだから。

 ただし、刺客の行き着く先は、一生出られない牢獄(ろうごく)だ。

 

 すると、離れていたリーゼル達もようやく顔を出す。

 その中で、ヒマナがぽつりとこぼした。


「倒した……」


 しかし、両手放しに喜ぶことはできない。

 全員、アスラの戦闘に圧倒されてしまっていたのだ。


 剣聖、賢者、武神と、それぞれの顔は知っていた。

 他の戦闘スタイルを教えられるのも、「役職なら出来るか」と思っていたに過ぎない。

 しかし、アスラは三役職全てだったのだ。


「「「……っ」」」

 

 それを知ると、驚きと同時に距離を感じてしまう。

 アスラの立つ場所が、急に遥か高みにあるような気がして。


 ──そんな中、重い空気をぶち破る音が鳴る。

 近くの草むらがガサガサっと動いたのだ。


「ご主人様ぁ」

「お、レーニャ──って、うわ!?」


 現れたのはレーニャ。

 しかし、アスラは彼女の“運び物”に目をぎょっとさせる。


「それ、別の刺客たちか?」

「はい。全員気絶させてます」

「扱い雑ぅ……」


 レーニャは刺客たちをムチで縛り上げ、ズルズルと引きずってきていた。

 刺客の汚れ具合から、おそらく100メートル以上。

 容赦がないにも程がある。


 すると、レーニャはちらりと視線を移した。


「それにしても──」


 固まっているセレス達の方向だ。


「明かしたのですね、正体」

「まあな。どうせ遅かれ早かれだろ」

「ふーん……ま、いいですけどぉ」


 レーニャは、つーんと拗(す)ねたような顔をする。

 自分だけが知っていたアスラの秘密を、周りも共有したからだろう。

 その腹いせか、レーニャは意地悪っぽく言い放つ。


「これでまた、のんびり出来なくなりますねぇ」

「ぐっ……だから来るか迷ったんだよなあ」

「役職なのに助けに来ないのはもっと最低ですが」

「いや、冗談ね!?」


 そこには、何ら変わらぬやり取りがあった。

 普段のアスラと同じ姿に、リーゼル達は肩の力が抜ける。


「「「……っ!」」」


 アスラはアスラだ。

 彼が変わったのではなく、自分が新しい面を知っただけ。

 そう思うと、彼女達もまた同じ距離感に戻れる気がした。


 ──否、同じではなく、今までより“もう一歩深く”。


「アスラ」

「アスラ!」

「アスラ君!」


 その気持ちが、三つの呼びかけを重ねさせた。



◆



 同時刻、とある隠れ家。


「ケイン様、三隊の魔石反応が消失しました」

「……そうか」


 薄暗い室内で、椅子に腰掛けた男が答えた。


 ──ケイン。

 刺客からは“あの方”と呼ばれる、組織のボスだ。


 ケインは、林間学校に用意した三つの隊を全て失った。

 そのことに激しく怒り──はしない(・・・)。

 

「ほとんど確定だな」


 林間学校に送り込んだ隊は、最初から駒(こま)としか思っていないのだ。

 今回の襲撃失敗を経て、得られた見解を口にする。


「王立エストレア学園の一年生に、役職が二人以上。……いや、もう認めるべきか」


 戦力計算上、一つの役職に遭遇(そうぐう)した程度なら、一人は情報を持ち帰れたはず。

 それが誰一人帰らない。

 あれほどの戦力を粉砕(ふんさい)するのなら、もうほぼ確定と言って良いだろう。


「三役職を担う者が存在する」

「「「……っ!」」」


 セレスの件に加え、数々の検証、そして今回の襲撃。

 ケインは三役職が一人であり、それが一年生であると断定した。


 周囲の部下は思わず息を呑む。

 しかし、誰もケインを疑いはしない。

 この場にいる全員が、彼が最も“賢い”者だと信じているからだ。


 すると、ケインは手を前に差し出す。 


「残った戦力を結集させろ。二週間以内だ」

「ケイン様、ということは……」

「ああ」


 部下の確認に、ケインはゆっくりうなずく。


「狙いを学園に定め、王都全土に奇襲をかける。そこで決着だ」


 最終決戦に向けて、準備を整えるつもりなのだろう。

 ケインは口角を上げながらも、その目には憎悪を浮かべていた。


「首を洗って待っていろ。今代(・・)賢者」



◆



 再び、アスラの地点。


「あ、あのー、皆さん?」

「「「…………」」」


 アスラは女の子達に囲まれていた。

 リーゼル、セレス、ヒマナ。

 三人は飛び出してくると、アスラの前に立っている。


 呼びかけたものの、いざ前にすると言葉が出てこないようだ。

 結果、三人がアスラをじーっと見つめる光景となっていた。


 対して、そんな乙女心が分からないアスラは、ひたすら焦る。


「お、怒ってます?」


 事情があったとはいえ、正体を隠していたのは事実。

 それも各々に違う顔を見せていたのだ。


 さらには、それぞれに「二人だけの秘密」などと抜かしていた。

 後ろめたい事をしていたのは間違いない。


 ただ、三人もそこは事情を汲(く)んだ。

 リーゼル、セレス、ヒマナは順にうなずく。


「……まあ、仕方ないか」

「こればっかりは責められないわ」

「むしろよく隠してきたね」


 何よりも感心が真っ先に浮かんだらしい。

 今さら責める気にはなれなかった。


 アスラはほっと胸を撫でおろす。


「た、助かったあ……」


 しかし、こうなれば一つ忠告しておく必要がある。


「けどすまない。君たちには役職の名の元に命じる」

「「「……!」」」


 急にアスラの目がキリっと切り替わる。

 その言い方をされれば、従う他ない。

 三人も思わず背筋を伸ばすと、アスラはすっと両手を前で合わせた。


「周りには黙っておいてくんね?」

「「「……はぁ」」」


 あまりにもしょぼい職権(しょっけん)乱用(らんよう)だった。

 ただ、そんな変わらない所には親近感を覚えられる。

 三人は息をつくと、それぞれ同じ答えを出す。


「言うわけないよ」

「こんなの知られたら、大騒ぎどころじゃないわ」

「国防の問題にも直結するかも……」


「みんなぁ!」


 その答えに、アスラは両手を握り合わせた。

 これで今以上に正体が広まることはないだろう。

 

 そんな中で、コノメはふと一つ気づく。


「ですが、あんな派手な事をすれば騒ぎになっているのでは……?」

「ああ、それは対策済みだよ」


 アスラはパチンっと指を鳴らす。

 その瞬間、宿舎方面に張った透明な結界が割れた。

 すぐさま、遠方からの生徒たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。

 

「みんなは呑気に夜遊び中だな」

「……! ……なるほど」


 すると、コノメはやけに深く(・・・・・)うなずいた。

 今の事だけではない。

 また一つ、アスラに秘密に気づいたのだ。


(そういうカラクリ、でしたか……)


 今代の役職が就任して以来、国内の犯罪件数は大幅に減った。

 コノメも分析していたが、役職が強いからだろうとしか思っていなかった。

 しかし、実態は違った。


 今のようにして、アスラが人知れず(・・・・)解決していたのだ。

 音を遮断(しゃだん)して、日常の裏側で、誰にも気づかれないように。

 平穏を望むアスラは、人々の平穏までも守ってきたのだ。


 コノメは改めて、心の中で誓う。


(この身が尽き果てるまで、ずっと付き従わせていただきます)


 そんな決意は知らず、アスラはビシっと宿舎を指す。

 周りに呼びかけながら。


「てことで、俺たちも遊ぼうぜ! もう目が冴えちゃったよ!」

「「「……!」」」


 あれだけの力を使ってなお、元気に。

 後方ではズズズっと刺客が魔方陣に吸い込まれている。

 今回の騒動は、これで終わりだと確信したのだろう。


 対して、リーゼル、セレス、ヒマナ。

 三人は食い気味に答えた。


「それなら私の技を見て。必殺技のコツを掴んだ」

「あ、ずるい! わたしだって仕上がってきたわ!」

「アスラ君なら、見てくれるよね?」


「!?」


 そのまま、ずいずいずいっとアスラに詰め寄る。

 いつも通り──否、それよりも明らかに強い圧で。

 

 その執着具合には、アスラも若干身を引いた。


「……やっぱ宿舎に帰ろうかな」


 すると、すぐさま行動に起こす。

 三役職はバレたため、もう好き勝手に業(わざ)を使って。


「剣聖ステップ、とうっ!」

「「「ああーっ!」」」


 そんな光景を、レーニャとコノメは後方から眺めていた。


「まったく、大人げないですねぇ」

「ふふ、あれがアスラ様ですから」


 近い立場として、二人もまた共感しているのだろう。

 セレス達とはまた違った執着の仕方だ。


 ちなみに、結局遊びすぎた結果、アスラは翌朝の集合に遅刻しかける。


「ギリギリですね、アスラ君」

「あ、あっぶねえ……!」


 この事から、他生徒からはまた蔑(さげす)まれることとなった。

 彼が裏で林間学校を救った英雄だとは知らず。

 

 こうして、二泊三日の林間学校は終了。

 ヒロイン達は、アスラの新たな一面を知る機会となった。

 結果、今まで以上にアスラに執着を向けることになる。


 リーゼルも。


(どこまでも憧(あこが)れさせてくれるんだね)


 セレスも。


(目指す場所は高い方が良いわ!)


 ヒマナも。


(どれだけ遠くても、アスラ君の居場所には私がいたい)


 ただし、アスラだけは少し違う。

 今回の振り返りをしていたのだ。


(──二週間だな)


 今回の戦力、敵の規模、役職の任で聞く不穏な噂。

 諸々の要素を考慮して、次の襲撃を予測したのだ。


(そこで全ての決着がつく)

 

 だが、役職を務める者として、周りを巻き込むつもりは一切ない。


(俺はやるべきことをやるだけだ)


 アスラはひとり、心の中で準備をする。

 守るべき存在を守るために。

 彼の日常には欠かせない存在を守るために。


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