第24話 一石二鳥の策
レース終盤。
各チームは、最後の魔物と対峙していた。
リーゼル、セレス、ヒマナ。
三人はそれぞれ仲間を奮い立たせる。
「これを倒せば!」
「ゴールはすぐそこよ!」
「絶対に勝とう!」
全員すっかりチームのリーダーだ。
成長の甲斐もあり、形は違えどチームを引っ張っている。
いちパーティーメンバーに留まる原作の姿よりも、さらにたくましく見えた。
しかし、最後の一体は凶悪。
「ガルルゥッ!」
「ヴオオオッ!」
「ギャオオッ!」
学園側が最後の難関として設置したのだ。
例年の林間学校では、存在しない強さの魔物である。
今年の一年生のレベルを考慮してだろう。
その思惑通り、三チームとも苦戦していた。
リーゼル、セレス、ヒマナのリーダー達でさえも。
「剣が通りにくい……!」
「この、ちょこまかと~!」
「なんて硬さ!」
ゴールが直前に迫り、焦りも生じているのだろう。
彼女達もまだ発展途上ということだ。
それでも、一刻も早く突破したい。
──と考えていた時。
「ガルァッ!?」
「ヴアアッ!?」
「ギャウッ!?」
「「「……!?」」」
各ルートの場所で、最後の魔物が同時に倒れる。
一体は斬られ、一体は消滅、一体は体を貫通された。
攻撃はどこから飛んできたかも分からない。
「「「……っ」」」
あまりに突然の事態に、各チームは沈黙。
しかし、ハッとした生徒は一斉に地面を蹴った。
「「「うおおおー!」」」
何はともあれ、最後の魔物は撃退されたからだ。
近くに別チームの気配を感じながらも、一心に足を動かす。
その結果──。
「ど、同着! 全ルート同着ー!」
「「「……!」」」
宿舎にいた教師が、驚いたように大きな声を張った。
森から出てきた生徒たちも、他チームに目を向ける。
各々、困惑しているようにも見えたが、生徒たちはすぐに称え合った。
「マジかよ、同着!?」
「俺達が一番だと思ったけどなあ!」
「武術もすげえんだな!」
「たまにすごい攻撃が飛んで来たんだよね」
「あれ、私達の方も」
全力で競い合った結果だろう。
少し疑問は残るが、全体的に良い雰囲気になっていた。
教師もこれは驚きだと、笑みを浮かべる。
「まさか、ここまでとは思いませんでした。報酬は全員にあげましょう」
「「「うおおー!」」」
これで不公平は生まれない。
誰もが幸せになる形で、初日の移動レースは終えた。
──と、その裏で。
立役者のアスラは、中間地点辺りで様子を確認していた。
「ハァ、ハァ……」
これがアスラの言っていた、“最終調整”だ。
特にルートヒロイン三人に怪しまれないようにするには、同着させる必要があった。
もちろん、最後の攻撃はアスラである。
もはや演出家気分のアスラは、ガッツポーズをかます。
「よっしゃオラぁ!」
近年稀に見る喜び様だ。
これで、ヒロイン三人は「アスラは他のチームにいた」と思わないはず。
正体を隠し通したことに、よっぽど達成感があったようだ。
そんなアスラを見ながら、後方のレーニャは細い目を浮かべている。
(その情熱、もっと他の所に向けたらいいのに……)
こうして、急に訪れたピンチに、神業の無駄使いで対処するアスラであった。
◆
夕食時。
「あったけぇ~」
アスラは焚火の前に手を伸ばす。
夕食は班ごとに分かれ、カレーを作ることになっている。
レースの後、しれっと合流したアスラは、火の当番を受け持っていた。
そんなアスラの周りには、複数人の影。
リーゼル、セレス、ヒマナ。
原作ヒロインズ三人に加えて、コノメもだ。
「「「…………」」」
それぞれ違う班の彼女達だが、やけにアスラに近寄ってきては、そわそわ歩き回っている。
コノメは“監視中”だろうが、他三人は何かを聞きたそうに。
当然、アスラもその気配には気づいていた。
(なんか見られてるぅ……)
先程のレースが“出来過ぎ”だったからだろう。
ただ、あまりしつこく聞き過ぎるのも、嫌われてしまうかもしれない。
そう考えた結果、彼女達は誰も一歩を踏み出せずにいた。
そんなところに、一人の少年がアスラに近づく。
「師匠!」
「お、ノアルか」
原作主人公ノアルだ。
アスラも穏やかな表情で迎える。
「お前も火守り?」
「そうです! あとは、師匠にお聞きしたいことが……」
「フッ、なんでも言ってみなさい」
アスラもすっかり師匠面だ。
純真無垢なノアルは、話していて気持ちが良い。
しかし、天然は時として、唐突に“牙”をむく。
「師匠って、どうして三つのスタイルを教えられるんですか?」
「……!」
(こいつ──!)
ノアルは真っ直ぐ疑問をぶつけた。
すると、後方のヒロインズは目を見開く。
(((よく聞いた!)))
チャンスだと思ったのだろう。
彼女達はすすすっとさりげなく距離を詰め、聞き耳を立てた。
思わぬ伏兵に、アスラも顔を引きつる。
(これが主人公のコミュ力! 素直の権化め……!)
ノアルには全く悪気が無い。
ただ気になった事を、原作同様に尋ねただけだ。
ゲームでは誰彼構わず話しかけていたが、逆の立場になると恐ろしい。
そんなアスラの表情を見て、ノアルはハッとした。
「あ、すみません! 師匠が話したくなければいいんです!」
「!」
「ただ、僕はもっと強くなりたくて……」
「ノアル……」
ノアルは自身の拳を見つめる。
そのどこまでも上を求める姿勢に、チョロいアスラは心を打たれた。
ふうと一息つくと、ノアルに返す。
「質問には答えられないが、明確に強くなるアドバイスは出来る」
「師匠!」
すると、アスラは少し振り返って続けた。
「どうせ聞いてるんだろ」
「「「……!」」」
ヒロインズに声をかけたのだ。
正体をもう一歩探ろうとしてくる彼女達だが、目的はそれだけじゃない。
みんな強くなりたい気持ちは同じなのだ。
それに応えるよう、アスラは口にする。
「全員、もう一段階上の必殺技を身に付けろ」
「「「!」」」
「今日の最後の敵も、簡単に倒せるぐらいのな」
メインキャラは皆、すでにストーリー後半クラスの強さを身に付けている。
しかし、原作の“奥義”と呼べる技はまだ覚えていない。
当然、全員の奥義を把握しているアスラは、それを覚えるのが一番だと伝える。
ただし、自分で見つけてもらう形で。
「ヒントは今までの指導の中にある。何かを掴むまでは、俺はもうアドバイスしない」
「「「……!」」」
「この林間学校では、それに集中するように」
アスラは真剣な眼差しのまま、内心では息をついた。
(これで一旦は凌げる……!)
関わりを避けることで、正体バレを防ぐ。
とりあえずはこれで安全になると思われた。
林間学校の後は、またその時の自分に任せるつもりだろう。
いつものアスラではあるが、これは別に責任放棄ではない。
(原作でも、奥義には自分で辿り着く必要がある。その機会を早めただけだ)
この流れは原作に沿っている。
アスラが伝えるという事以外は、何もおかしな点は無い。
相変わらずこんな時だけ賢い、一石二鳥の策だった。
火の見守りを終えたアスラは、すくっと立ち上がる。
「皆の衆、精進せよ」
そのまま格好つけて去って行った。
誰にも見られないように、ニヤリと口角を上げながら。
(これで、のんびりと林間学校を楽しめる……!)
こうして、林間学校一日目は終了。
もう心配することは無いと、アスラは油断していた。
次の日に、思わぬ相手が現れるとは知らず──。
◆
次の日、朝。
(んなっ……!?)
昨日の言葉で、余裕をぶっこいていたアスラ。
だが、朝礼で衝撃を受ける。
生徒たちの前に、予想外の人物が立っていたからだ。
「はじめまして。グラム・レインフェルトです」
“レインフェルト”。
その名字には聞き覚えがある。
アスラは、ゆっくりと近くのリーゼルに目を向けた。
(リーゼルのお父さんだとーーー!?)




