第22話 もう一歩探る機会
「今日は、セレスとヒマナかな」
ある日の放課後。
訓練場の中央で、アスラは口にした。
視線の先には、言葉通りにセレスとヒマナが並んでいる。
「お互いに違う分野だからこそ、対人戦で学べることがある」
二人に対人戦を指示をしたのだ。
セレスとヒマナは素直にうなずく。
「わかったわ」
「うん!」
そのまま互いに距離を取ると、二人はすぐに対人戦を始めた。
「はあああッ!」
「いくよっ!」
ヒマナが武神の正体を知り、しばらく。
彼女の体調も完全に回復し、無理をすることをやめた。
今ではリーゼルやセレス同様、アスラの元に通っている。
そんな二人の対人戦を見届けながら、アスラは日陰へと移動していた。
「今日も一日が終わりそうだなあ」
これが最近のアスラの日常だ。
三役職の任がある時は別だが、それ以外は大体メインキャラと関わっている。
多少慌ただしいが、慣れれば平穏に過ごせているとも言えた。
すると、すでにその日陰にいたレーニャが声をかけてくる。
「最近は対人戦をさせることが多いですね」
「まあな」
アスラの周りに集まるのは、『エストレア・アカデミー』のメインキャラ。
当然、ポテンシャルは高い。
平穏を望む一方で、愛したゲームのキャラが目の前でぐんぐん成長していくのは、嫌いではなかった。
また、他にも対人戦を選ぶ理由もある。
アスラはキメ顔で言い放つ。
「二人分まとめて面倒を見られるからな。効率が良い」
「そんなことだろうと思いました……」
レーニャは半目になった。
そんな彼女の手元には、数枚の紙が束ねられている。
アスラはふとたずねた。
「あ、それって来週の“林間学校”の資料?」
「はい」
「お泊まりって、ちょっとワクワクするよな!」
林間学校とは、学園所有の山に宿泊する節目のイベントだ。
名目は──“特訓”。
原作でも、メインキャラは特別なトレーニングをこなし、ぐーんと力を伸ばすことになる。
アスラも楽しみではある一方で、不安も持っていた。
(みんなとの接触は増えるよなあ……)
宿泊ともなれば、距離は自然と近くなり、顔を合わせる時間は増える。
それだけ正体バレの危険も増すのだ。
アスラも対策を考えてはいたが、いつしか思考を放棄していた。
(フッ、当日の俺が全てを解決するはずだ)
能天気さは相変わらずのようだ。
もっとも、進行や起きる出来事は原作知識で知っている。
それも加味しての自信だろう。
アスラはレーニャに視線を移す。
「レーニャも随分と楽しみそうにしてるな」
「それはもちろん。初めての宿泊ですから」
「ははっ、そっか」
年相応の反応に、アスラも少し嬉しくなる。
だが、レーニャの“楽しみ”は別のところにあった。
(仕掛けてくるなら、ここでしょう?)
レーニャは、例の敵をおびき寄せる“罠”を準備していた。
リーゼル達の対決時に出会った男以来、敵側の目立った動きはない。
レーニャがその後、学園でスパイを六人も確保したからだ。
敵側も、学園に厄介な存在がいると理解したのだろう。
だからこそ、次は慎重に、確実に動いてくるはず。
照準を合わせるなら、林間学校だろうとレーニャは推測していた。
(その尻尾を掴むとしましょうか)
「ふふふ……」
「なんか怖いですよ、メイドさん」
そんなやり取りをしながらも、アスラは対人戦をしっかり見ている。
セレスとヒマナは、ほぼ互角だった。
「やるわね!」
「セレスちゃんも!」
さすがはメインキャラ同士だ。
大きな実力差はない。
それもそのはず、二人は力と共に思いをぶつけ合っていた。
(なんであいつから武術を……)
(どうしてアスラ君から魔法を……)
どちらも正体をバラす真似はしない。
しかし、胸に引っかかってるものがあった。
それを力に変えて戦っていたのだ。
そんな中、アスラは頃合いを見てパンと手を叩いた。
「そこまで」
「「……!」」
二人が同時に動きを止める。
林間学校も近い。
今は追い込み過ぎるのも良くないと思ったのだろう。
アスラはそのまま、二人にフィードバックをしていく。
「セレスは~……」
それはしっかり聞きながらも、セレスとヒマナには別の思いがあった。
(彼を本格的に探るなら──)
(林間学校!)
アスラの正体を、もう一歩探る機会がある。
二人は林間学校で行動を起こすつもりのようだ。
また、どこかで使者として働くコノメ。
彼女も静かに思考を巡らせている。
(何かもう一つ、確信できるものがあれば……)
コノメも、この機会に何かが見えるのではと感じていた。
ちなみに、リーゼルとノアル。
この剣一筋コンビは、それぞれ別の場所で剣を振っていた。
「はッ!」
「えいっ!」
こうして、それぞれの思惑が入り混じる、林間学校が始まる──。
◆
林間学校、当日。
「では、ここで降りてください」
教師の指示に従い、生徒たちが次々と馬車を降りていく。
「「「おおおーっ!」」」
到着したのは、高い崖の上。
見下ろせば森が広がり、遠くに宿舎らしき建物が小さく見える。
しかし、そこまでは山を一つ越えるほどの距離があった。
困惑する生徒たちを前に、教師は当然のように言い放つ。
「ここからは各自、徒歩で進んでもらいます」
「「「……!」」」
一気にざわめきが広がった。
しかも、脅威は距離だけではないらしい。
「山道には魔物も生息しているので、しっかり対処するように」
「「「……っ!」」」
学園が放し飼いする魔物までいるという。
例のごとく『結界の魔石』は配られているが、大変なことには変わりない。
やはり最高峰の学園は、タダで楽しいイベントとはいかないようだ。
そんな中、余裕を持った者がただ一人。
相槌をしながら、周りの反応を楽しんでいるアスラだ。
(うんうん。ここは全員で協力して進む導入なんだよね。初見だとびっくりするよね、わかるわかる)
原作知識で展開を知っていたのだ。
ゲームでは、ここはクラス全体で助け合い、みんなで宿舎にたどり着く。
だが、それならアスラの活躍も最低限で済む。
程よく補助して、みんなが傷つきすぎないようにしていればいい。
──と思っていた。
安心するアスラの前で、教師は続けた。
「ですが、今年の一年生はレベルが高く、競争心も強いですね」
「ん?」
「よって今回は、剣・魔法・武術、最も得意なスタイルに分かれて進んでもらいます」
「なにぃ!?」
原作には無かった展開だ。
本来よりメインキャラの成長が早い弊害かもしれない。
教師はさらに畳み掛けてくる。
「一番早かったチームには、報酬も与えましょう」
「……っ!」
予想外の話に、余裕を持っていたアスラの顔が一気に引きつる。
(ちょっと待てぇい! それだと──!)
アスラは、後方の三人の気配に気づいていたのだ。
リーゼル、セレス、ヒマナ。
それぞれのルートヒロインだ。
「剣ルート、行くんでしょ?」
「あんたは魔法よね?」
「アスラ君は武術だよね!」
剣聖、賢者、武神と。
三人は、“自分と関わりのある正体”だけを知っている。
当然、自分の分野のルートにアスラが来ると思っているのだ。
「うぐっ……」
それぞれに対して、他の役職を隠し通すのは困難を極める。
(なにやってんだよ、教師ぃー!)
原作から外れた展開に、アスラにいきなりのピンチが迫る──。




