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【書籍化】破滅フラグの悪役貴族、主人公ルートを先回りしたらヒロイン達が激しく執着してくるようになった  作者: むらくも航@6シリーズ商業化


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第17話 成長しすぎ

 「「「うおおおおおおおおおお!」」」


 放課後、第一訓練場。

 学園最大級の施設は、生徒たちでごった返していた。


「すげえ対決だな!」

「こんな機会があるなんて!」

「どうして急にやることになったんだ!?」


 彼らの目当ては、主に二人。

 “剣(けん)鬼姫(きひ)”──リーゼル・レインフェルト。

 エーデルン家次女──セレス・エーデルン。


 名もあり華もある二人が、対決する。

 その噂だけで人が集まるには十分すぎた。


 ただし、アスラの本意ではない。


「なんでこんなことになってんの……」


 観客席の端で、アスラは困惑していた。

 対決は提案したが、これは想定外だったようだ。

 そんな彼に、隣のレーニャが涼しい顔で答える。


「面白いかなって」

「君の仕業(しわざ)かい!」


 張本人が隣にいた。

 対決が決まった後、レーニャがあちこちで触れ回ったらしい。

 しかも、それだけでは終わらない。


「現在の配当率《オッズ》は、リーゼル・ノアル組が1.3倍ですね」

「賭けまで始めてるし……」


 アスラは息を吐くも、今更止めはしない。

 むしろ周囲の熱気に押されたのか、口元を緩(ゆる)めた。


(たまにはこういうのも悪くないか。……俺は見てるだけだし)


 後者の理由が大きいのは間違いない。

 アスラは今一度、周囲を見渡す。


(この強度の結界は破れないな)


 訓練場と観客席の間には、結界が張られている。

 リーゼル達の実力はなんとなく把握しているが、まだ壊せる程ではないだろう。

 その中で、対決する四人が向かい合っている。


 リーゼルとノアルの、剣チーム。

 セレスとコノメの、魔法チーム。


 正式に許可を取ったため、各自武器の持ち込みも認められている。

 準備が整ったのか、いよいよ対決が開始するようだ。


 四人を代表してコノメが口を開いた。


「このコインが地面に着いたら、開始です」


 そう言うと、弾かれたコインが高く舞う。

 やがてカランと音が鳴った瞬間──四人は同時に動き出した。


 前に駆け出したのは、リーゼル。


「はあッ!」


 彼女は剣を抜くと同時に、高く跳び上がる。

 そのまま高速の剣技を繰り出した。


「──【紫(し)紺(こん)の村雨(むらさめ)】」


 宙から数多の斬撃(ざんげき)が降り注いだ。

 激しく降る雨のごとく。

 名前に自身の髪色が入った、原作でもリーゼルを代表する技だ。


 対するセレスも、真正面から迎え撃つ。


「【朱雀(すざく)焔(ほむら)】……!」


 セレスの前方に、ぶわっと灼(しゃく)熱(ねつ)の炎が広がる。

 炎を纏(まと)った鳥が羽を開くように。

 火魔法を得意とするセレスの、上級の魔法だ。


 ──ドゴオオオオオオオオオ!!


 リーゼルの剣技とセレスの魔法が正面からぶつかり、轟音(ごうおん)が鳴り響(ひび)く。


「「くぅっ……!」」


 衝撃は爆風と化し、二人とも腕で前方を塞(ふさ)いだ。

 その一瞬を逃さず、コノメが手を向けた。


「聖なる風よ」

「!」


 コノメが詠唱をすると、その場に小竜巻が発生した。


「こんなの……!」


 リーゼルはふわりと身体が持ち上がるが、さすがの身体能力だ。

 宙で態勢を立て直し、コノメの小竜巻を断ち切る。

 しかし、これ以上は前に踏み込めないと、一度元の位置に退避した。


 キッと視線を前に向けると、リーゼルは笑みを浮かべる。


「……さすがね」


 対して、セレス・コノメもうなずく。


「あんたこそ」

「今のはお見事でしたよ」


 お互いに称え合うような表情だ。

 それぞれ少なからずライバル意識は持っていたが、本気の対戦は初めて。

 相手の力量を肌で実感し、改めて認めたのだろう。


 そんな開幕の激突に、観客は大盛り上がりだ。

 

「「「おおおおおおおおおお!」」」


 噂以上の力に、興奮しているのだろう。

 そしてそれは、場内のノアルも同じく。


「すごい! みんな、アスラ師匠の舎弟なだけありますね!」

「「「誰が舎弟よ!」」」


 彼には一斉にツッコミが飛んだ。

 リーゼル、セレス、コノメの声が見事に重なっていた。

 ノアルは真っすぐ過ぎるあまり、少々天然が入っているようだ。


 そんな小休止もありつつ、戦闘は再開。

 両者が再び激しくぶつかる中、観客席のアスラは目を細めていた。


(リーゼルもセレスも、もうストーリー後半クラスだな)


 先ほどの技は、本来ならもっと先で身につける大技だ。

 これも当然、アスラの影響である。


 リーゼルには、放課後に剣を見ている。

 セレスには、勝負の流れでアドバイスを与えている。

 その上、二人ともすごく努力家だ。

 

 結果、本来のゲーム進行ではありえない速度で成長していた。

 また、コノメに関しては言うまでもない。


(コノメは元々優秀だし)


 使者は時として、敵の排除も担う。

 学園では支援役に回っているが、攻撃手段もしっかり持っている。

 今のリーゼル・セレスに比べても、同格以上と言って良い。


 そうなると、どうしても見劣りしてしまう者が一人いる。

 アスラの視線は、肩で息をするノアルへ向いた。


「ハァ、ハァ……!」


 ノアルは新入生としてはよくやっている。

 だが、実力が追い付いていない。

 現にリーゼル・ノアル組は、少しずつ押し込まれ始めていた。


 アスラは、注意深くノアルを見つめる。


(持ち武器は剣。剣聖ルートの育成だな)


 剣聖ルートは、最も王道だ。

 成長に複雑な要素はさほど必要ない。

 師匠としての役目を果たすなら、単純に煽(あお)るのが一番だ。


 アスラは風魔法に声を乗せ、直接ノアルの耳元に届けた。


「もう終わりか?」

「!」

「その程度では舎弟とは呼べん。やはり他を当たれ」

「……!」


 ノアルの肩がびくりと震える。

 その声が誰のものかはすぐに分かった。

 すると、ノアルは奥歯を噛みしめる。


(せっかく、師匠に認めてもらえるかもしれないチャンスなんだ!)


 湧き上がる想いと共に、ノアルは全身に力を込めた。


「まだ、まだ……!」


 その瞬間、ノアルの身体が眩(まばゆ)い光を放つ。

 まるでエネルギーが内側から爆発したように。

 ノアルは体が軽快に感じる。


「なんだこれ、力が沸(わ)いてくる……!」


 窮(きゅう)地(ち)でパワーアップする。

 いわゆる主人公の“覚醒”だ。

 

 その光景を見ながら、アスラは笑みを浮かべた。


(ほう、この段階で至る(・・)か)


 何かは起こすと期待したものの、予想以上だったようだ。


 これは──【新星(しんせい)の極(きょく)地(ち)】。

 ノアルに宿る、主人公らしい特殊能力だ。

 体の内側に眠る“ある力”をエネルギーに変え、一時的に爆発的な力を得る。

 

 まさに、“主人公補正”。

 剣聖ルートのノアルならば、全数値(パラメータ)が上昇する。

 本来なら、ストーリー“中盤”で発現するはずの特殊能力である。


 すると、ノアルは剣を強く握り直した。


「これなら戦える! 僕だって、師匠に認めてもらいたい!」


 原作では100億%ありえない動機だ。

 それでも、この世界では引き金(トリガー)になったらしい。

 経緯はどうであれ、これで勝負は分からなくなった。


 ノアルはダンッと地面を蹴(け)る。


「うおおおおおッ!」

「「「……ッ!」」」


 その速度が、先程とまるで違った。

 セレスとコノメは、目を見開きながら対応した。


「なっ、速い……!」

「それより、重い……!」


 二人は同時に結界を張った。 

 だが、その圧に押され、二人の足は少し後ずさる。


(いける……!)


 ノアルの剣筋はまだ荒い。

 しかし、その踏み込みと勢いが一気に試合の流れを変える。

 

 リーゼルも続けて攻勢に入った。


「良い動きね。ここから逆転しよう!」

「うん!」


 押されていたはずのリーゼル・ノアル組が、逆に前へ出る。

 これには観客席も一気に沸き返った。


「なんだあいつ!?」

「急に強くなったぞ!」

「今年の一年、マジでやばくねえか!?」

「レベル高すぎだろ!」


 それから戦闘は、さらに激しさを増す。

 剣と魔法がぶつかり、衝撃と結界がひしめき合う。

 学園全体で考えても、トップ層と言えるほどのハイレベルさだ。


 そして──対決も終盤。

 リーゼルとノアルは息を整える。


「この剣で決める」

「僕の全力を込める!」


 対して、セレスとコノメも魔力を練っている。


「いくわよ」

「そろそろ決めます」


 四人全員が最大火力を溜めていた。

 意思は一致。

 全員が、これで決着を付けるつもりだ。


 その様子を見て、アスラの眉がぴくりと動く。


「ん?」


 訓練場を囲む結界が、ミシミシと軋(きし)んでいたのだ。

 アスラはぎょっと目を開く。


(マジか!?) 


 今の四人の実力を鑑(かんが)みても、結界は壊れないと踏んでいた。

 だから呑気にお菓子をつまみながら眺めていたのだ。


 だが、実はヒロインズが力を隠していた。

 リーゼルも、コノメも、セレスも。


(あなたに見せるために特訓したの)

(使者として新しい魔法を身に付けました) 

(あんたを驚かせる魔法を覚えたわ)


 みんな、|アスラに褒めてもらうため《・・・・・・・・・・・・》、裏で隠し玉を用意していたのだ。

 それをここでぶつける気である。 

 さらにノアルも、師匠への思い入れが強くて覚醒した。


 四人全員の本気は、アスラの想定を上回っていたのだ。


(おいおい! 結界が壊れるって!)


 同時にぶつかれば、おそらく結界が壊れる。

 そうなれば観客席に被害が及ぶ。

 しかも、アスラ以上に詳しい者がおらず、結界が危ない事に誰も気づいていない。


(これはまずい……!)


 【全属性結界】なら容易に防げるだろう。

 だが、それを使えば、この場に賢者級の者がいる証明になってしまう。

 アスラは急いでポップコーンをかきこんだ。


(みんな成長しすぎなんだけど!)

 

 そんなアスラの嫌な予感をよそに、四人は一斉に技を解き放つ。


「「「はあああああああああッ!!」」」


 一方で、アスラは観客席を蹴(け)る。


「まったくもー、しょうがない!」

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