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【書籍化】破滅フラグの悪役貴族、主人公ルートを先回りしたらヒロイン達が激しく執着してくるようになった  作者: むらくも航@6シリーズ商業化


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第16話 爽やかな少年

 「まさか、ここを開放する日が来るとは」


 アスラが深刻そうな声を漏(も)らした。

 ぼかぼかした木陰(こかげ)で、横になりながら。


「俺の昼寝スポットが潰されていくぜ」

 

 そして、そのままゴロンと寝転がる。


 校外学習から数日。

 セレスに賢者だとバレたことで、アスラの周囲は騒がしさが増していた。


 リーゼル、コノメ、セレス。

 平穏な学園生活を送るはずが、気づけば三人から執着されている。

 結果、温存していた昼寝スポットを、また一つ開放せざるを得なくなっていた。


 ──と、くだらない事に頭を悩ませる隣で、レーニャは真面目な顔つきをしていた。

 そのままアスラへ切り出す。


「ところでご主人様。例の件なのですが」

「!」


 その一言には、アスラも少し気を引き締める。


「やはり何者かが意図して起こしたと考えるのが自然です」

「……そうか」


 例の件とは、校外学習でセレスが巻き込まれた事故のこと。

 あの時、アスラはレーニャへ現場確認を命じていた。


 アスラは木漏(こも)れ日を見上げながら、思考を巡らせる。


(あれは原作になかったイベントだ)


 原作の校外学習では、ルートヒロインの内一人を選択し、同じ班になる。

 どのルートを選んでも、主人公は普通に成長し、ヒロインと距離が縮まるだけのはず。

 何がどう変わっても、事故が起きるような展開は存在しない。


 考え込むアスラに、レーニャは言葉を付け加える。


「その際に使用された魔法は、特定できませんでした」

「セレスに聞いても分からないって言ってたしな……」


 謎の残る事故だ。

 ただし、これらの事柄から導かれることはある。


 ダンジョンの壁を破壊できるほどの威力。

 セレスでも分からない複雑さ。

 魔法を仕掛けた人物は、かなり上級の魔法使いだろう。


 レーニャは話を続けようとする。


「では次に──」

「しー」


 だが、アスラは人差し指を立てた。

 少し離れた場所から近づいてくる気配がしたのだ。

 いつものヒロインズ──ではない。


 やがて一人の少年が、アスラの前で立ち止まった。


「やっと見つけました!」

「……!」


 爽やかな声の少年だ。

 しかし、彼の姿を見たアスラの目は、わずかに見開かれる。


(こいつ──!)


 すると、少年は自己紹介を始めた。


「はじめまして、同じクラスのノアルです!」


 平均的な身長に、邪気の無い表情。

 黒髪はいじっていないのか、少々ボサついてる。

 良く言えば純真、悪く言えば見た目に特別感がない。


 だが、アスラにとっては別だった。


(原作主人公(・・・・・)……!)


 ノアルは、『エストレア・アカデミー』の主人公だ。

 本来なら剣聖、賢者、武神のいずれかの役職を手にする。

 つまり、アスラの敵であり、破滅の最も大きな原因になり得る存在だ。


(何しに来やがった……)


 アスラは警戒心を引き上げる。

 いざという時は100%勝てるが、何をきっかけにイベントが転がるか分からない。

 だからといって、警戒を悟られるわけにもいかない。


 そう考えた結果──。


「あん? てめえ、どこ中だコラ」


 田舎のヤンキーみたいになった。

 立ち上がり、ノアルにガンを飛ばしている。

 隣のレーニャも「アホだ……」と呆れていた。


 対して、ノアルは変に引かず、むしろ真っ直ぐ頭を下げた。


「す、すみません! でも、一つお願いがあって!」

「……言ってみろ」

「剣を習いたいんです!」

「…………」

 

 しかし、アスラは目を細めたまま返事しない。


(なるほど、こいつは向上心の塊(かたまり)だからな。色んな奴に声をかけて回ってるのか)


 主人公は様々な人物と関わり、学び、成長していく。

 基本、“陽キャ”になるわけだ。

 積極的で物怖じせず、すぐに頭を下げる真っ直ぐさもある。


 主人公としては素晴らしい性格と言えた。

 だが、アスラにとっては──。


(合わねえな。あと普通に面倒)


 おそらく、単純に声をかけられる番が回ってきただけだろう。

 そんな邪推(じゃすい)をしたアスラは、ノアルに背を向けて吐き捨てる。


「やだね。他を当たりな」

「そんな、待ってください! アスラ師匠(・・)!」

「!」


 だが、その呼びかけにはぴたっと足を止める。


「今なんと?」

「師匠です! 僕はアスラ師匠に習いたいんです!」

「……それで?」


 アスラはじろっと振り返ると、ノアルは嬉しそうに続けた。


「正直、良くない噂はいっぱい聞きました。でも、そんなの関係ありません!」

「ほう」

「授業を見てて思いました! きっと、すごい力を隠し持ってますよね!」

「ふむ」

「それで、どうして隠してるのか僕なりに考えたんです!」


 ノアルは目を輝かせて伝えた。


「多分、優しさだと思いました!」

「!!」

「本気を出せば皆さんの成績が落ちると考えて、わざと目立たないようにしてるんですよね! すごくカッコイイ(・・・・・)です!」

「……フッ」


 すると、アスラはノアルへ歩み寄り、肩にぽんと手を乗せた。


「なんだ。話を聞けば良い奴じゃないか」

「師匠……!」


 アスラに“舎弟(しゃてい)”ができた。


 とはいえ、ノアルも中々の観察眼だ。

 深く関われば、正体バレの危険性はある。

 だが、それすら一瞬で吹き飛ぶほど、アスラには“師匠”呼びがぶっ刺さった。


 後方のレーニャは息を吐いている。

 

(ちょっろ……)


 しかし、アスラは意気揚々と伝える。

 すでに師匠面(づら)で。


「だが悲しいかな。俺はとある事情で力を見せられない」

「そ、そうなんですか!?」

「うむ。これも大いなる者の宿命なのだ」

「シビれます……!」

「フッ。よしたまえ、我が舎弟よ」


 完全に調子に乗っているが、線引きはしっかりしている。

 これ以上の正体バレは防ぐべく、無暗やたらに力は見せない。

 ただ、師匠としての役目は果たすようだ。


「しかし、指導してやることはできる」

「本当ですか!?」

「任せたまえ。あとはちょうどいい相手がいればよいのだが……」


 アスラが周囲をきょろきょろと見渡す。

 その時、所々から気配を察知した。

 彼女達(・・・)は、すぐにその姿を現す。


 上からセレス。


「あー、こんなところにいたわね!」


 右からリーゼル。


「また昼寝スポット変えてる」


 そして、背後からコノメ。


「ふふっ、探しましたよ」


 ものすごい執着具合だ。

 今日初めて開放したスポットも、もう見つかってしまった。


「君達怖いよ……」


 恐怖を覚えるアスラだが、今だけは都合が良い。

 アスラは、ノアルを含めて順に見渡した。


「ふむふむ」


 リーゼルとノアルは、剣。

 セレスとコノメは、魔法。

 それぞれ持つ武器が、ちょうどよく分かれていた。


 アスラはぴんと思いつくと、両手でかき分けるように示す。


「そこの二チームで、対決しよう」


 突如、メインキャラ達の二対二の対決が決まった──。


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