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【書籍化】破滅フラグの悪役貴族、主人公ルートを先回りしたらヒロイン達が激しく執着してくるようになった  作者: むらくも航@6シリーズ商業化


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第12話 初の大型イベント

 「来週の初めに“校外学習”を行います」

 

 ある日の放課後。

 教師の一言に、教室がざわりとした。


「向かう先は、学園が所有するダンジョン。その上層を探索して、課題をこなしてもらいます」

「「「……っ」」」

「休日を挟みますので、各自準備をするように」


 生徒の多くはごくりと固唾(かたず)を飲んでいる。

 外を眺めていたアスラも、さすがに前を向いた。


(お、初の大型イベント!)


 入学してから一か月。

 学園にも慣れたことで、原作でも最初の転換点となるイベントが始まる。

 以前、アスラとコノメがペアになった授業は、この予行練習だったのだ。


 アスラの前世で言う、中間テストのようなものだ。

 だが、当然不安の声も上がる。


「ダンジョンって危険なのでは?」

「はい。ですので、皆さんにはアイテムを一つ支給します」


 教師が取り出したのは、手の平サイズの魔石だ。


「これは緊急時に結界を発動し、身を守ってくれる『結界の魔石』です。下層の魔物の攻撃すら防げるので、今回の上層の魔物では、結界に傷一つつけられません」


 教師は結界を見せながら、生徒を安堵(あんど)させる。

 だが、授業の名目として忠告はしておく。


「ただし、なるべく発動させないように。これまで学んだ知識、実践を活かして立ち回ること」

「「「はーい」」」


 概要を話し終えると、教師はうなずく。


「では、当日の班となる四人一組を作ってください。簡単な役割分担も決めておくように」


 その瞬間、教室の空気が一気に動いた。

 それぞれ席を立ち、生徒は友達や仲間に声をかけていく。

 アスラはその光景を見ながら、ゲーム知識を思い出していた。


(原作じゃ、ここが最初の大きな分岐点なんだよなあ)


 『エストレア・アカデミー』は三つのルートに分かれ、それぞれにヒロインが設定されている。

 その内、剣聖ルートはリーゼル、賢者ルートはセレスだ。

 原作のこの場面では、各ヒロインが別々に班を作っており、主人公は一つを選ぶ。

 

(んで、大まかなルートは決まる)


 このイベントで選んだヒロインとは距離が縮まり、主人公の戦闘スタイルも大別される。

 まさに序盤の山場。

 一つ目の大型イベントと言える。


(ま、この世界では向こうから寄ってきているけど)


 アスラは頬杖(ほおづえ)をついたまま視線を上げる。

 彼の席の前には二人が立っていた。

 リーゼルとコノメだ。


「……どうせ空いてるでしょ?」

「仕方ありませんが、同じ班になってあげます」

 

 リーゼルは横目でアスラを覗き、コノメは澄ました表情を浮かべている。

 どこか上から目線の言葉だが、内心ではしっかり意図がある。


(彼の剣を、もっと近くで見なきゃ)

(わたくしがアスラ様の全てをお支えします……!)


 対して、口を開いたのはアスラの隣のレーニャだ。

 

「この二人ですかぁ。採用に悩みますね」

「なんであなたはそちら側前提なのよ!」


 それにはリーゼルがツッコミを入れる。  

 すると、アスラが仲介して場を落ち着かせた。


「まあまあ、ちょうど四人だしいいじゃん」

「随分あっさりですね、ご主人様」

「いやいや、俺だってちゃんと考えてるよ。だって──」


 アスラは三人を改めて見渡すと、うむと頷(うなず)いた。 


「楽(らく)できそうじゃね? みんな強いし」

「そんなことだろうと思いました」


 レーニャに続き、リーゼルも呆れた表情を浮かべる。

 だが、班が成立したことに異論はない。

 そのまま、お初の者は挨拶(あいさつ)を交わす。


「リーゼル・レインフェルトよ。持ち武器は細剣。よろしく」

「コノメと申します。支援と補助はお任せください」


 二人は笑顔で握手を交わす。

 しかし、裏では疑問を浮かべていた。


(この子──)

(この方──)


 アスラの正体に関してだ。


(“剣聖”ってこと知ってるのかな)

(“賢者”のことを知っているのでしょうか)


 もちろん口には出さない。

 だが、もし相手も知っていたら、なんとなく心地良くない。

 二人の間に、バチッと視線の火花が散ったような気がした。


「「…………」」

「あの、お二人さん?」


 何かを感じ取ったアスラの視線は、二人を往復する。

 そして、そんな空気を横目に、内心マウントを取るレーニャ。

 

(本当は三役職全部なんですけどねぇ)


 この数日間で、レーニャは「コノメが正体に気づいた」ことを見抜いていた。

 当然、コノメが賢者の使者であることも知っているので、賢者に気づいたと断定している。

 もはや恐ろしいアスラへの執着だ。


「ふふふ……」

「レ、レーニャさん?」


 班員同士の関係に若干不安を持つアスラであった。

 

 何はともあれ、班は完成。

 教師からは役割も決めるよう言われているため、簡単な作戦会議へ移る。

 班員を見て、アスラがなんとなく提案した。


「とりあえず、リーゼルとレーニャが前衛。俺とコノメが後衛でいいかな」

「ん? あなた前衛じゃないの?」


 アスラが剣聖だと思っているリーゼルは首を傾げる。

 対して、アスラはそれっぽく誤魔化す。


「そ、それはまあ……レーニャの方が適任かなって」

「そうですね。ご主人様は後方でふんぞり返っていてください」

「さすがに俺でもそんなことしねえよ!」


 剣聖、賢者、武神。

 全てを兼ねるアスラに、明確な不得手はない。

 レーニャが機転を利かせて答えると、コノメも続いた。


「どこにいても変わらないの間違いでは?」

「ひでえ!」


 コノメは正体に気づかないフリをしている。

 賢者の使者として役目を果たしているのだ。

 同時に、自身も楽しんでいる。


「ふふっ」

「……!」


 クスっと笑うコノメを見て、アスラも柔らかい表情になる。


(コノメ、校外学習を楽しみにしてるのか)


 アスラは純粋にそれが嬉しかった。

 そんなこんなで班の役割は決定。

 あとは帰宅するだけ──と思った時。


 カッカッと強めの足音がアスラに向かってくる。

 

「アスラ・ヴァルティオ」

「!」


 金髪のボブがさらりと揺れる。

 腰に手を当て、アスラに声をかけてきたのは──セレスだ。

 最近はいつメンと化していた彼女だが、アスラと同じ班は申し出なかった。


 最初からこう切り出すために。

 

「この校外学習、わたしと勝負しなさい!」

「……!」

「今まで、どれだけ勝負をかわされてきたことか。ここで決着をつけるわよ!」


 だが、アスラもすぐには答えられない。


「おいおい、急だな」

「こんな絶好の機会まずないもの。それとも自信がないのかしら?」

「そういうわけじゃないけど……俺にメリットなくない?」

「じゃあ、こうしましょ」


 セレスは鋭い視線を浮かべた。


「あなたが勝てば、わたしはもう勝負を仕掛けない」

「よしやろう」

「ちょ、決断早くない!? そ、そんなに嫌だったの……?」


 少しだけ傷つくセレス。

 だが、今さら狼狽(うろた)えたりしない。

 すると、アスラはふと尋ねる。


「あれ、俺が負けたら?」

「フッ。あなたのことを吐いてもらうわよ。洗いざらい、全部ね」

「なに!?」


 アスラはようやく過ちに気づいた。


(しまった、即断しすぎた……)


 勝負を仕掛けられない、イコール昼寝を邪魔されない。

 そう高速に結び付いたアスラは、即決するあまり相手の条件を聞き忘れていた。


 しかも、班員が妙な動きを見せている。

 

「セレスちゃん、私も本気でいくよ」

「わたくしも張り切ってきました!」


 リーゼルとコノメが、さらに張り切り出したのだ。

 こうなってはまずい。


(ど、どうすればいいんだ……!)


 アスラ視点(・・)では、コノメに正体はバレていない。

 そのため、無闇に力は見せられない。

 だが、セレスに負ければそもそもバレる。


 つまり、有能使者のコノメからは悟られないよう立ち回りながら、強敵セレスには勝たなければいけない。

 

(難易度たかくね……?)


 口をあんぐりして焦るアスラ。

 その顔を見られたのが嬉しかったのか、セレスはフッと口角を浮かべる。


「当日楽しみにしてるわよ」

「……ぐぬぅ」


 セレスは背を向けて帰っていった。

 対して、アスラは頭を抱える。


「どうしていつも、こうなるんだよお!」


 初の大型イベント、“校外学習”。

 アスラは平穏を守ることができるのか──。

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