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【書籍化】破滅フラグの悪役貴族、主人公ルートを先回りしたらヒロイン達が激しく執着してくるようになった  作者: むらくも航@6シリーズ商業化


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第13話 対決開始

 「到着です」


 洞窟に入った所で、教師が告げる。

 生徒も足を止めると、奥には巨大な空間が広がっていた。


「ここが『エストレア学園ダンジョン』です」

「「「おおー!」」」


 入口には学園章が刻まれている。

 王立エストレア学園の関係者しか立ち入れない、“学園専用”のダンジョンだ。

 その規模だけでも、学園の格が分かる。


 生徒がざわつく中、教師は説明を始めた。


「改めてですが、今回探索するのは“上層”。6層以上は許可していません」


 ダンジョンは細かく階層が分かれている。

 その内、1~5層を上層と呼ぶのだ。

 上層は一年生用に学園側が難易度を調整している。


「目標素材は配った紙に記してあります。時間内になるべく多く回収をしてください」


 授業の名目は、素材回収。

 薬草1点、鉱石2点など、素材ごとに点数が決められている。

 魔物は種族ごとに配点が異なり、ドロップアイテムで換算だ。


 素材にしろ魔物にしろ、得点は入手難易度で決められている。


「班が回収した総得点によって、成績をつけます」


 セレス班とはこの総得点を競うわけだ。

 最初から合格ラインなど気にしていない。

 ……アスラはその限りでもなかったが。


(最低限だけクリアしてサボるつもりだったのに……)


 そんな表情は、隣の列に並ぶセレスに見られていた。


「あら。今さら勝負を後悔しているのかしら?」

「……まあ」

「フッ、相変わらずね」


 セレスは小さく人指し指をアスラに向けた。


「何から話すか。あんたはそれだけ考えていればいいわ」

「ぐぬぅ」


 勝つだけなら訳ない。

 だが、正体がバレないようにも立ち回らなければいけない。

 アスラはその点に頭を悩ませていた。


 すると、教師の説明も終盤。


「では禁止事項をもう一度。“他班への干渉はしない”。これは順守してください」


 勝負はしても、引きずり下ろすのはダメということだ。

 そして、最後の案内をする。


「序盤は構造こそ広いですが、実質“一本道”です」

「「「……!」」」

「また座学で教えましたが、ダンジョンの壁や地面はまず壊れません(・・・・・・・)。中盤の分岐点までは、先に進んだ班が有利になるでしょう」


 その一言で、生徒たちの空気が引き締まる。

 教師は手を上げ、高らかに告げた。


「では、武装を許可。探索を開始してください!」

「「「うおおおー!」」」


 号令と同時に、生徒たちが一斉に駆け出す。

 ただし、中でも真っ先に飛び出した班がある。


「行くわよ!」

「「「はい!」」」


 セレス班だ。

 セレスを筆頭に風が巻き起こり、四人全員が加速していく。

 そのスピードは他を寄せ付けない。


 アスラは細い目で見送っていた。


「……あれ、風魔法使いを集めたのか」


 風魔法は移動補助に優れる。

 序盤の一本道を駆け抜け、素材を根こそぎ回収する作戦らしい。

 しかも、気合いの入り具合が異常だ。


「「「セレス様ー!」」」


 名門エーデルン家の次女、セレス。

 その肩書きと本人のカリスマ性には、多くの者が惹かれている。

 彼女から声をかければ、有能な魔法使いはすぐに集まるだろう。


(もはやセレス親衛隊(しんえいたい)じゃねえか……)


 セレスを崇(あが)める連中は、あっという間に先へ行った。

 呆気(あっけ)に取られていると、隣のリーゼルが口を開く。


「ねえ、私たちも急がないと」

「ああ。でも、あの調子じゃ中盤までの素材は全部取られるな……」

「じゃあ、どうするの?」

「ふむ」


 アスラは口元に手を当て、その辺を歩き出した。

 セレス班以外にも、周りにはとっくに誰もいない。

 リーゼル達からも少し距離を取ると、一瞬目を盗んで行動を起こす。


(──【破壊】)


 その場にしゃがんだアスラは、ちょんと指を地面に付ける。

 すると、音すらなく地面に細長い穴が穿(うが)たれた。

 アスラは二秒ほど待ってから、わざとらしく叫ぶ。


「う、うわぁ!? 床が抜けた! 落ちるぅ!」

「アスラ!?」


 アスラの足元に広がったのは、アリ地獄のような穴だった。

 魔法で脆(もろ)くした部分に足を踏み入れたのだ。

 心配したリーゼルが駆け寄ってくるが、アスラは下に目を向けた。


「いや、2層に繋がってるかも!」

「ええ!? ダンジョンの地面って壊れないんじゃ!?」

「お、俺もワカンネー!」


 若干棒読みのアスラだが、もう勢いで押し切った。


「とにかく、セレス班を上回るにはここしかない! 行こう!」

「ちょっとー!」


 アスラに半ば巻き込まれる形で、リーゼルも穴に飛び込む。

 そこに空気を読んだレーニャとコノメも続いた。

 二人は真顔を浮かべながら。


((猿芝居……))


 アスラ班は、独自のルートを進み始めた。


◆


「ストップ。もう一度休憩を取るわ」


 第三層。

 残り時間は半分を過ぎたところで、セレスは振り返って指示を出した。

 後方の班員たちが遅れているからだ。


「大丈夫かしら?」

「ハァ、ハァ……問題、ありません……」


 明らかに無理をしている返事だ。

 しかし、これも彼らの意思である。


「私はエーデルン家の傘下ですから!」

「セレス様を勝たせたいのです!」

「推しのセレス様のために頑張ります!」


 まだ入学して一か月であれば、第一層を抜けるだけでも優秀だ。

 ここまで着いてきたのなら相当頑張っている。

 休憩を取りながら、セレスは現状を確認した。


「今、何点あるかしら」

「372点です。去年のトップ班が201点。まだ時間を残してこれなら、さすがに勝ちかと」

「……ええ」


 曖昧(あいまい)な返事をしながら、セレスは思考を巡らせる。


(ペースは落ちてるとはいえ、これは覆(くつがえ)せないはず。そもそも、ここまでの素材はほとんど取ってきた。逆転するだけの点数が無いわ)


 考えるほど、そう結論付けられる。

 だが、どこか胸騒ぎは消えない。

 アスラと関わりを持った時の授業が、脳裏にこびりついているのだ。


(……いいや、不可能よ)


 そんな不安を消すように、セレスは首を振った。

 すると、班員が純粋な声で話しかけてくる。


「それにしてもセレス様、やはり魔法がお好きなんですね」

「え?」

「あれだけ多種類の魔法を使えるなんて、普段からよほど研究していないと出来ませんよ!」

「…………」


 しかし、セレスはすぐに答えられない。

 一瞬蘇(よみがえる)るのは、周囲からの期待と重圧。

 嫌なことを振り払うように、セレスは背を向けて吐き捨てた。


「魔法なんて、大嫌い(・・・)よ」


 その時だった。

 セレスは遠方から、かすかな金属音を聞き取る。


「……! 戦闘をしてる?」


 そんなわけない。

 自分達がトップスピードで走り続けたのだから。

 だが、セレスの経験上、戦闘以外に考えられない。


 目を見開いたセレスは、タっと駆け出す。


「あなた達はそのまま待機!」

「は、はい!」


 それからセレスは音のなる方へ進む。

 やがて岩陰に身を潜め、先を覗き込んだ。


「……!」

 

 そこで戦っていたのは──アスラ班だ。


「うおー!」


 アスラは微(び)妙(みょう)に気が抜ける声で、魔物と対(たい)峙(じ)している。

 その手に持つのは──“こん棒”。

 付近にいるリーゼルはツッコんだ。


「ちょっと、それ真面目なんだよね!?」

「あ、当たり前じゃん!」


 アスラは剣聖・賢者、どちらも隠す必要がある。

 そこで剣と杖の間として、こん棒を選んだらしい。

 おかげで今のアスラは、剣士でも魔法使いでもなく、こん棒で殴る“荒くれ者”スタイルだ。


 一応、リーゼルとコノメも理解はしているが。


(剣聖を隠すためね……)

(賢者を隠すためですね……)


 そうして、立っている魔物は残り一体。

 巨体のイノシシは、アスラへ突っ込んできた。


「グオオオ!」

「……!」


 アスラの三倍以上のデカさだ。

 普通にこん棒で殴っただけでは、まず倒れない。

 だが、リーゼル達の前で派手なこともできない。


 アスラは班員をチラ見しつつ(・・・・・・・・・)──魔物と交差した。


「グギャッ!」

「「「……!」」」


 交差したイノシシはその場で崩れ落ちる。

 アスラは班員と魔物の位置関係を把握し、隠れるように攻撃したのだ。

 

 しかし、リーゼルとコノメも手練れ。

 アスラをガン見していた二人は、わずかに見えた動きから攻撃を推測した。


(一瞬で三発殴った?)

(風魔法を纏(まと)っていた?)


 一般人が見れば、一度しか殴っていない。

 だが、二人の目はそう捉(とら)えていた。

 ちなみに、レーニャもしっかり見ている。


(風魔法を用いて四発。さすがです、ご主人様)


 リーゼルとコノメより、多くを見抜いていた。

 すると、アスラは額(ひたい)の汗を拭(ぬぐ)う。


「ふー」


(風と土魔法の応用で、六発。ギリごまかせたかなー)


 風魔法で動きを速め、土魔法でこん棒を強化。

 六発は全て急所に叩き込んだ。

 班員三人が追えた動きよりも、遥(はる)かに高度なことをしていた。


 剣聖の精密さ、賢者の高位魔法、武神の集中力。

 全てが揃ってようやく成立する業(わざ)である。


 そうして、アスラ班は手早く魔石を回収すると、次の場所へ向かう。


「よし、次に──―うわぁ! 穴に引っかかった!」

「また!?」


 穴に落ちたフリをして、さらに下へ。


 ──と、そんな一部始終を見ていたセレス。

 今の戦闘場所を見て恐れを感じる。


(オーク15点に、ゴーレム20点、ツノイノシシ40点……!)


 残骸(ざんがい)の点数だけでも相当なものだった。

 どうやって先に行かれたのかは分からない。

 だが、アスラ班は“高得点狙い”の作戦を遂行していた。


(こんなの、すぐ追いつかれる!)


 しかも、彼らが落ちていった穴はもう閉じていた。

 セレスは訳が分からないながらも、急いで戻る。

 すぐに班員たちに声をかけた。


「あなたたち、行くわよ! モタモタしていられない!」

「は、はい……」

「!」


 だが、班員の顔色は良くなかった。

 十分な休憩でも疲労が取れていない。

 もう限界が近かったのだ。


「すみません、今、立ちますから」

「──いえ」


 すると、セレスは首を横に振った。


「引き返しましょう」

「え?」

「あなたたちはね」


 ここから先は、今まで以上に危険になる。

 心優しいセレスは、班員を巻き込みたくなかった。


「ここまでの道の魔物は狩りつくした。帰りは安全のはずよ」

「ですが、セレス様は──!」

「ええ。わたしは行く」


 セレスは班員たちに背を向ける。


「わたしは、絶対に負けられないの。エーデルン家の次女として……!」


 鬼気迫る想いだ。

 良い事ではあるが、授業へ向けるにはあまりに重い。

 それもそのはず、セレスの胸中にはある人物が浮かんでいた。


(授業ですら一番になれないで、“お姉様”の代わりなんて……!)


 セレスは地面を蹴(け)った。

 そのまま背中越しに班員たちへ告げる。


「みんな、こんなわたしに付き合ってくれてありがとう」

「「「……!」」」

「ここからは、わたしの戦いよ」


 だが、そのまま思い通りにはならない。

 セレスが班から距離を取った瞬間(・・・・・・・・)。


「セレス様、足元!」


 セレスの足元に、ぶぅんと魔方陣が浮かんだ。


(え?)


 見たこともない魔法の幾何(きか)学(がく)模様だ。

 すると次の瞬間──ボガアアアッ!


 セレスの足場が、音を立てて崩れた。

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