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06 帝都会合②

 ルイファラリス帝国外務局本邸、中央大会議室。

 間宮と土井の両名は絢爛豪華を絵に描いた大部屋に通され、中央に置かれた大卓の前に腰を下ろしていた。

 装飾品の数々が魅せる煌びやかさとは真逆、室内は静寂に包まれている。


「……気に入りません」

「まぁまぁ、そんなにカッカせんで」

「呼び出したのは先方のはず。人を案内したはいいが誰一人姿を見せず、これほど長い時間待たせておくなど礼儀に欠けます」


 土井は腕を組み項垂れた。

 室内に通され2時間近く経つが、外務局の関係者は未だ誰一人姿を見せていない。


「礼儀は人や時代によって往々にして変わるものだ。まして“世界”が異なるのなら、なおさらと言える」


 間宮が帝国に赴任しておよそ1年。

 日本に対するこれまでの外務局の対応は極めて冷淡なものだった。

 大使館設置が容認されたにも関わらず、肝心の国交に関する具体的な取り決めはおざなり。

 日本からは再三に渡って協議の申し出を行ったが、外務局の回答はいつだって生返事ばかり。

 必要なら書面を出してくれの一言で片づけられ、その後は何も音沙汰がないのが常だった。


 帝国は日本を同じ国とは思っていない。

 きっと外界国はどこも同じ扱いを受けているのだろう。

 それがこの世界では常識としてまかり通っている。


 そして今この場においても日本の扱いは変わっていない。

 豪華な部屋に通され一見すれば好待遇に思えるが、それ自体が一種の脅しであり、帝国から突き付けられた厳然たる脅迫であることを間宮は理解していた。


「……これよりルイファラリス帝国外務局東大陸圏担当諸方が入室される。ニホン国大使は立って出迎えられるが良かろう」


 やがてどこからともなく現れた帝国人が間宮と土井にそう告げた。

 土井は眉間に皺を寄せるも、間宮は飄々と指示に従う。


 直後、数人が会議室に入室する。

 ほとんどは外務局の人間のようだったが、中でもひときわ目を引く女性が一人、異彩を放って最後に登場した。

 帝国の要人たちは女性が席に付くのを待つと一斉に腰を下ろす。

 彼女がこの会合の中心人物であることは誰の目にも明らかで、さもつまらなそうな表情を浮かべては手元に視線を落とし、飾り爪をいじる様子はまさに“心ここに非ず”を体現していた。


「ゴホンッ 外務局東大陸圏担当のヘルマンである。早速だがニホン国大使に問いたい。本日、我が帝国兵によって護送中だった囚人二名がニホン国大使館に逃げ込んだと報告を受けたが、事実で相違ないな?」

「間違いありません。本日正午前、我々は大使館内において女性二名を保護。ひどい怪我を負っていたため治療を施し、引き続き館内において身柄を預かっております」

「では話が早い。その女たちは帝国内において重い罪を犯した重罪人である。ニホン国は速やかに二名の身柄を返還されたし」


 ヘルマンは早速アリサたちの引き渡しを迫った。

 頭ごなしの言い方に土井が即座に反発する。


「帝国内における罪とは如何なるものか、まずは説明いただきたい」

「ニホン国が知る必要はない。貴国は我々の要求を受け入れるか否か、国の意志を表明されたし。我らが望むはその一点だ」

「ならばこちらも言わせていただく。日本と帝国の間には犯罪者の引き渡しに関する条約はおろか、実務者レベルでの共通ルールすらも確立されていない。それはあなた方外務局が最もよく知る事柄のはず。よって日本国が帝国の要求に応じる義務はないことをご理解いただきたい」


 瞬間、室内に緊張が走った。

 ヘルマンは表情を曇らせ、鋭い眼光で土井を睨む。


「……それはつまり、帝国の要求を再度断ると言っているのか?」

「忌憚のない意見を申し上げたまでだ。加えて渦中の二人を指してあなたは“重罪人”と言ったが、拘束から本日までに正式な手続きや裁判が行われた形跡はなく、彼女たちを犯罪者と称した帝国側の説明には不明な点も多い」

「それは異なことを言うではないか。彼女たちの拘束は法に従った適切な裁量のもとに行われたものだ。部外者にとやかく指摘される謂れはない。当人たちに何を吹き込まれたかは知らないが、ニホン国は余計な詮索をやめ速やかに身柄を引き渡すのだ」

「……断る」

「何?」


 土井の一言に室内がざわつく


「拘束は妥当と言うが、彼女たちがひどい怪我を負っていたのも事実だ。我々としては容疑者に対する貴国の対応に疑念を抱かざるを得ない。そのような国に渦中の人物を引き渡すこと自体に相当な抵抗がある」

「――ッ……さっきからのらりくらりと……お前たちは何が言いたい!?」

「……今回のアリサ皇女殿下の拘束は極めて政治的、かつ恣意的な力が作用した疑いがある、そう言っている――」


 アリサの名前が挙がったことで帝国側に再び緊張が走った。

 と同時に予想していなかった外界国の反発に動揺が走る。

 とりわけヘルマンはその余白の多い顔をより一層険しいものに変貌させた。


「――馬鹿なことを言うなッ! 外界国の分際で我らに何を言っているか自覚しているのか!? 帝国の要求を断ればどうなるか、それくらい大陸圏から離れたおまえたちでも理解できよう!? ニホン国は即刻我らの要求に従い、渦中の二名を引き渡すのだ――!」


 ヘルマンの一喝が室内に響く。

 対して日本は間宮が続けた。


「……本件は国際法に則り我々の()を通させていただく。日本国は“アリシア・ルイ・アリサ”とその付き人“エルマ”から事情を聴取。両名が日本国への亡命を望むことから、我が国は彼女たちの意志を尊重し両者の要望を認めるつもりでいる。よって帝国からの引き渡し要求には応じられない。これが日本国の意志である。改めてご理解いただきたい」

「なッ!?」


 ヘルマンは目を見開いた。

 長い外務局暮らしで東大陸圏局長の椅子にまで登り詰めたが、外界の一小国が帝国の要求をこうもはっきりと断った例は今までに記憶にない。

 外界国など帝国の威光にひれ伏すのが当然。我らに逆らった国がどんな命運を辿るかは既に歴史が証明している。それは目の前の異国人だって理解しているはず……

 故にヘルマンは不信感と焦燥感を募らせる。


 間宮の説明は続く。


「しかしながら、加えてご説明申し上げる。本件に関わる帝国の要求を呑むことはできないが、これは日本国が帝国と事を構える、という意志を表明したものではない」

「……我らの要求を断っておきながら何を勝手な言い分を――」

「日本国にルイファラリス帝国と争う意志はない。我が国は引き続き貴国と友好的な関係を築くことを望んでいる。その一点を申し添える」


 まるで日本と帝国が対等な国家であるかのような言い分。

 間宮の説明に外務局の大男は青筋を立てた。

 友好的な関係を築きたい。

 それは一外界国が四大国の一角に使って良い言葉ではない……


 ヘルマンは不意に身を乗り出す。が


「貴様たちは何が望みだ?」


 冷たい声音が室内に響いたかと思えば、場の空気が加速度的に張り詰める。

 外務局の要人は誰もが口をつぐみ、声の主である女性、中央席に陣取る“サーベラ”に神経を集中させた。

 場は瞬く間に彼女の独壇場に変化する。

 間宮と土井も不遜な態度を極める中央の女性に視線を注いだ。


「聞こえなかったか? 貴様たちの欲するものを聞いている。金か、資源か、食糧か、それとも公国討伐における何らかの譲歩か……望みは何だ? 申してみよ」


 サーベラはひどく高圧的な態度だった。

 これまで以上に周囲が沈黙する中、土井が口を開く。


「……我々が金銭目的で彼女たちを助けたと、そう思っているのか?」

「有体に言えばそうだ。そうでなければ、なぜアリサ()に手を貸す必要がある? 貴様たちの目的は何だ?」

「彼女たちを保護した理由に損得勘定など存在しない。あくまで人道的な配慮の結果だ」


 人道的配慮。

 その言葉をサーベラは一蹴する。


「ほう。ずいぶんと正義感の強い国があったものだ。見上げた精神だが、貴様たちが公国と通じていることはわかっている。何を画策していたかは知らぬが、外界国如きが帝国に意を唱えること自体が本来ならば有り得ないこと。己の立場を(わきま)えよ」


 すると、サーベラは白く華奢な手を上にかざした。

 瞬間、地鳴りのような足音と共に、多数の帝国兵が室内になだれ込み、間宮と土井を取り囲んだ。


次回「帝都会合③」


感想やコメントありがとうございます。

返事が遅くなり(できておらず?)心苦しいのですが、日々の投稿に力を入れますのでご理解ください。

ブックマークやリアクションも励みになります。

引き続き本作品にお付き合いいただけたら嬉しく思います。

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― 新着の感想 ―
流石になんか対策立ててる…よな?S一個中隊くらい紛れてるよな?脱出用のヘリくらいはあるんだよな?(焦)
こういう結果になることを、日本側が読めていなかったとは思えませんが。
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