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09 外界誘引③

 無人島内陸部。日本国自衛隊クレステル侯爵軍迎撃部隊展開エリア。

 孤島を一言で表現すれば、それは天然の要塞だった。

 海底が隆起して形成された島は、周囲を小高い山に囲まれ、内部には緑豊かな盆地が広がっている。島の北部、東部、南部の海岸は岩礁地帯となっており、大型船舶の接岸は難しい。よって、大部隊の上陸に適した場所は西側の砂浜のみ。まさに防衛に適した島と言えるだろう。

 本作戦において自衛隊は内陸中央の盆地に陣地を構築、起伏の少ない平原に仮設滑走路を整備するなど侯爵軍を迎え撃つ準備を進めている。無人島内は開けた場所も多いため、今のところ部隊展開には苦労していない。


「こうくうぼかん? 何それ?」

「我々は“空母”と呼んでいます。簡単に説明するなら滑走路と航空機を積んだ船のことです。クレア氏を降ろした例の船がそれに当たります。ヘリの乗り換えの際に驚いた顔をしていたのでもしやと思いましたが、ご存じなかったのですね?」

「なんか癪に障るわね。知らないものは知らないわよ!」


 現時点での日本側の気掛かり。それは敵航空戦力の集結だった。

 敵の第1次攻撃は、艦砲射撃はおろか、装甲車両の揚陸もなく、人だけが闇雲に突っ込むお粗末なものだった。前回が失敗に終わった今、次は本腰を入れてくるのは間違いない。


 防衛上、敵航空戦力の規模は正確に把握しなければならない。迎撃態勢は整えているが、その危険度を考慮すれば戦闘機自体の接近を防ぐ必要がある。よって、侯爵軍の空母保有の有無は無視できない観点だった。


「帝国では研究や開発の兆しがあるようですが?」

「帝国? 確かにあの国の軍事技術は四大国の中でも進んでいるわ。もしかしたら公国も水面下で研究中なのかもしれないけど、軍に配備されたって話は聞いたことがないわ」

「……本当ですか?」

「ほっ、本当に知らないわよっ、こんな状況で嘘付くと思う!?」


 白州がキキアの目を見据える。

 オーバーリアクション気味な彼女の態度は一見すれば怪しいふうだが……


「……どうやら真実のようです。この通り、感情が表に出やすい子です。嘘を付いているようには思えません。まぁ、四大国の姫君という立場上は考えものですが――」


 あんたは一言多いのよ!

 と憤慨するキキアを余所に、中柳は胸を撫で下ろす。


「となると、空母を活用した侯爵軍の作戦行動までは考慮しなくてよさそうですな」

「空中給油の技術を確立していない以上、航空機を使用する場合は近隣の滑走路を利用するしかありません。自ずと離陸場所は絞れます」

「戦闘機の出撃場所が把握できれば対応もしやすい。脅威度は格段に下がるでしょう。我々迎撃部隊は地上戦に注力できる。後は敵軍をいなし、カルマ・クレステルの登場を待つだけです」


 本作戦の目的はカルマ・クレステルを無人島近海に誘き出すことにある。故にミサイルは使用せず、迎撃手法を砲撃に限定。第1水上戦群が近海に展開する中であっても、攻撃対象を島への上陸部隊に絞った。

 敵艦隊を沈めてしまう、つまりはこちらが相応の戦力を保有、或いは艦隊を容易に破壊可能な兵器を有していると知られれば、敵大将がこの地に足を向ける可能性を下げてしまう。

 手の内を見せず、相手を焦らし、外界まで誘き出す……

 それが日本側の構想だった。






 数日後。

 無人島近海。侯爵軍直下バーンズ艦隊旗艦“ジルネルク”艦橋。

 第1次攻撃から数日が経過し、第2次攻撃を数時間後に控える中、オーランドの焦燥感はなぜか強まる一方だった。

 第1次攻撃では敵の長距離火砲に成す術なく、多数の兵士を失う結果となった。小高い山の向こう側からの無数の砲撃。それだけの射程を持った火砲なら公国にも存在するが、海岸線をああも正確に狙い撃つことが可能かと問われれば言葉に詰まる。


 では、別の場所から砲撃を?

 周辺の目ぼしい場所に火砲の存在は確認できない。

 では、新兵器が投入された?

 納得はできるが、なぜこんな外界の孤島に隠し持っていたのか理解に苦しむ。


「島の奥には何が潜んでいるのだ……」


 第1次攻撃以降、複数の索敵班を島に送り込んでいるが、いずれもが連絡を絶っている。

 島内部の全容は未だ把握できず、無為な時間が過ぎるだけ。そのような状況下で迫る第2次攻撃……

 オーランドは平静を維持するために深い呼吸を繰り返す。






 侯爵軍の第2次攻撃は日の出と共に始まった。

 まずはバーンズ艦隊による艦砲射撃が敢行され、約2時間に渡って主砲、副砲を問わず、孤島西側に砲弾の雨を注ぐ。

 直後、西海岸に再び侯爵軍の上陸部隊が押し寄せる。戦力は第1次攻撃の約5倍。実に5千人から1万人といったところ。

 上陸用舟艇が海岸に接近、足の付く浅瀬に到達すると、兵は軍服が濡れようと構わず、競うように舟艇を降りて砂浜を駆け抜ける。


『――敵上陸部隊前衛が第1次警戒線を越えました』


監視班の報告を受け、テント内に緊張が走る中、中柳は攻撃命令を下す。


「これより再び侯爵軍を迎え撃つ。初撃、発射よーい……――」


 直後、本土からの移送でさらに数を増やした155mm榴弾砲(FH70)48問のうち、まずは半数が砲身を上下させて狙いを定める。


「――……てぇええ!!」


 刹那、砲身から火炎と白煙が立ち昇る。155mm榴弾砲(FH70)による一斉射撃。砲弾は小山を越えて敵上陸部隊に迫った。


『だんちゃーく、今!』


 やがて榴弾が目標地点上空で炸裂。着弾直前に空中で爆散し、周囲に金属片を散らして一帯を制圧する曳火(えいか)射撃によって兵の多くを薙ぎ払う。


『――1次防衛線に接近する歩兵部隊に命中、同一諸元、効力射!』


 20キロ以上も離れた遠方からの統制射撃は、今回もその効力を如何なく発揮し、第1次攻撃同様、敵部隊を島の内部に寄せ付けない。

 前回の5倍以上の戦力を揃えようと、部隊単位の海岸線の突破を許さず、空から降る爆炎の壁が敵の行く先を阻んだ。


『――敵装甲車両を確認、砂浜を突き抜け渓間伝いに内地への侵入を図っています』


 一方、監視班は砂浜に上陸した装甲車両を注視する。

 大型舟艇により10両以上が陸揚げされ、日本側が海岸線に設定した1次防衛線の突破を早くも図っている。

 厄介なのは公国主力戦車“ライアンハドナーⅢ”だろう。丸みを帯びた形状に備わる機動性は高く、急ごしらえだが戦車上面に合板を取り付けるなど、FH70の榴弾対策を施している。

 本車両が数にして最も多く、戦闘支援車も含めれば30両程度の装甲車が陸揚げされていた。


「計画通り、周辺歩兵は榴弾砲で排除。車両のみを2次防衛線に引き付けてくれ」


 対して中柳は155mm榴弾砲(FH70)の射撃を継続する傍ら、装甲車両は可能な限り内地に引き付けるよう指示を下す。

 敵の監視役が海上のバーンズ艦隊であるのなら、彼らの目の届かない場所に装甲車両を誘い込んで無力化する。それが中柳の指示だった。


 ライアンハドナーⅢは、重コンベアで低林を薙ぎ倒し、島の奥地に向けて前進を試みる。本来であれば周囲に歩兵部隊も同行するところだが、雨の如く榴弾が降り注ぐ状況では同行は望めない。


『――装甲車群が艦隊の死角に入りました』

「敵先頭車両より順次攻撃開始。誘導弾の使用を許可する」

『了解(ラジャー)』


 直後、林の陰から怪しい筒先が覗く。外観は肩に乗せて発射するロケット砲だが、敵車から発する赤外線を捉えて誘導する01式軽対戦車誘導弾がライアンハドナーⅢを見据えていた。

 射手の肩に17.5キロの重量が重くのしかかる。普通科隊員数名が3キロ程度離れた場所で敵戦車の動きを注視し、やがて戦車が指定ポイントに接近すると間髪入れずに誘導弾を発射。瞬間的にミサイルは上昇し、車両上面を攻撃するダイブモードにより車体を破壊に誘った。

 直後、隊員数名が即座に発射ポイントから離脱し姿を隠す。

 高い機動性を持つライアンハドナーだが、神出鬼没に襲い掛かる誘導弾には手も足も出ず、時間の経過と共に車体数を減らす。


『――敵部隊が撤退を始めます』


 そうして気が付けば、中柳の下に敵部隊撤退の報告が舞い込んでいた。


 大部隊で挑んだ侯爵軍の第2次攻撃だが、歩兵は海岸線を突破できず、装甲車両は全てが破壊される結果に。一方、日本側の死傷者は未だにゼロ。戦闘開始から数時間で早くも趨勢が決した。

 何よりも大きな成果は、手の内を見せずに侯爵軍の撃退に成功した点だろう。


「敵残存兵にはくれぐれも注意を。兵の中には仲間の死体に紛れる者もいるだろう。戦闘が終わっても警戒は厳とせよ」


 中柳の指示に、幕僚が敬礼し離散する。

 そして別の幕僚が姿を見せる。


「本島北側に小型の揚陸舟艇を確認しました。別動隊が上陸を図っている模様です」

「大部隊を囮に少数精鋭を別ルートから送り込んで来たか。北は波も荒く船の接岸が最も難しい場所だ。我々の裏をかくにはもってこいというわけだ」

「既に北側周辺域には特殊作戦群のイタチ班とアシカ班が忍んでいます。いくら精鋭を揃えようと突破は困難かと――」

「了解だ。これで敵は一度ならず二度までも島の制圧に失敗した。そろそろ焦ってもいい頃合いだ」


 本作戦は孤島防衛に成功しても、カルマ・クレステルを誘き出すことができなければ戦略的には失敗となる。欲しいのは敵大将の首一つ……


「この結果を受け、大物が躍り出てくれれば良いのですが……」

「来るさ。いや、来てもらわなければ困る。侯爵家にとって長期戦は避けたいところだろう。まして頭の切れる将ならば己が置かれた状況を理解していないはずはない。嫌でも動くさ……」


 そう言って、中柳は西の空を見つめた。






 アルミナ大公国、公都“アルマニ”クレステル侯爵家公邸。


「あれから何日経ったと思っている!? 小娘一人、まだ捕えることができんのか!?」


 カルマ・クレステルは勢いよく拳を執務机に叩き付けた。

 瞬間、側近の肩が上下に跳ねる。


 ここ数日、彼はあからさまに苛立っていた。理由はファスティール家の最後の生き残り“キキア・ミル・ファスティール”が外界の孤島に潜伏中との報告を受けたはいいが、孤島の制圧が遅々として進まないからだ。

 第1次攻撃同様、第2次攻撃も失敗。特に第2次攻撃では相応の戦力を送り込んだが、未だ島内部の状況すら把握できずに島からの撤退を強いられた。屈辱以外の何物でもない。


「わかっておるのか!? 長期戦ともなれば大公家の残党勢力に立て直しの時間を与えるばかりか、外国勢力にも付け入る隙を与えるのだ――」

「も、申し訳ありません。今現在、再度の上陸準備に取り掛かっており――」

「もうよい! 私が現地で指揮を取る! 支度をせよ!」


 怒気が籠った言葉に誰も意見できず、その瞬間、カルマ・クレステルの外界遠征が決まった。


次回「外界誘引④」

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― 新着の感想 ―
ノコノコと死地におびき寄せられて刈り取られる未来しか見えない。 終わりましたな、反乱軍。
ついにカルマ・クレステルはおびき出される。 さて、捕まるか、死亡するか、何とか逃げれるか(難しいでしょうが)、待つ運命は?
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