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07 外界誘引①

 日本側の情報リークにより、キキアの潜伏先を知ったカルマ・クレステルだが、その決断は早かった。

 即座に軍派遣の方針を決定すると、僅か数日後には無人島近海に侯爵軍が姿を現す。主力は侯爵軍直下のバーンズ艦隊。戦艦3隻を主力とする海戦艦隊であり、補給艦等を加味すれば10隻を超える戦艦群だった。

 後方には小型舟艇を積み込んだ揚陸艦が多数追随し、無人島への上陸を見据えている。


「オーランド提督、目標の島を視認致しました。港湾や建造物は今のところ確認できず、周辺海域には大公軍の艦艇も見当たりません」

「そうか。では、計画通り上陸用舟艇の準備を始めろ」

「はっ」

「しかし、クレステル様の命令で外界にやってきたが、本当にあのような孤島にキキア殿下が潜伏しているのか? おっと、今はただの小娘だったな」


 バーンズ艦隊提督“オーランド”は孤島を眺めながら思案に耽る。

 眼前の島は大公家の所有島だと聞いているが、こんな孤島を所有して何の意味があるのか。オーランドは疑問を抱く。

 しかし、クレステル公の命令には逆らえない。幸い無人島の西海岸は広い砂浜が広がっており、部隊の上陸には苦労しないだろう。周囲には、砲台、レーダー塔、港などは確認できず、自然豊かな景色が広がるだけ。人の気配もまるでない。


「やれやれ、まさに最後の楽園というわけか。これが栄華を極めたファスティール家の最期とは虚しいものだ。このまま放っておくのも情けかもしれんが……」

「提督?」

「戯言だ。カルマ様の命令には背けん。速やかに賊軍の生き残り、キキア・ミル・ファスティールを捕えよ。抵抗する場合は殺して構わん」

「敵勢力は風前の灯火。さほどの抵抗もないと考えます。クレステル様には直ぐに吉報をお届けできましょう」

「あの方は気が短いからな。抜かるなよ?」


 海岸の警戒は皆無、抵抗があるとすれば内地だろう。

 オーランドはそう見通しを立てる。


 海から陸に侵攻する場合、最も危険を伴うのは上陸時である。行動が制限される船から、遮蔽物のない岸辺に降り立つ。敵からすれば絶好の好機、銃弾の雨が降り注ぐことは容易に想像できる。

 だからこそ、通常は戦闘機の空爆や戦艦の艦砲射撃、空挺隊の内地制圧など、上陸前には入念な準備を行うものだが、今回はその必要はないと判断する。


「総員に下知せよ! 上陸を開始する!」

「はっ」


 オーランドは再び島を視認する。現状、小山が邪魔をして海上からは内地を確認できない。

 不気味な静けさが、島全体を包んでいる。







 無人島。海岸線を見渡せる高台にて。

 約100隻にも及ぶ上陸用舟艇が砂浜に迫る光景を、観測班の“笹森”は固唾を呑んで見守っていた。

 艦砲射撃への備えとして塹壕を掘っており、中に潜り込む状態で警戒任務に当たっているが、今のところ砲撃の気配はない。


「どうやら敵方は一気に上陸するつもりだ。艦砲射撃等の支援射撃はなし。こりゃ、完全に舐めてるな。上陸船数は100隻程度。船に統一感はないが、1隻に10人から20人が乗船すると考えれば、ざっと千から二千人が上陸を図る計算になる」

「多いですね」


 笹森の隣には部下“永川”が控えている。永川は千人という数字を多いと表現し、どこか緊張した面持ちを見せた。


「……そうでもないさ。前世界のノルマンディー上陸作戦の折りはドーバー海峡を5000隻もの船が渡ったらしい。それに比べればちんけなもんだ」

「そりゃ、世界最大の上陸作戦と比べたらそうでしょうが。きっと当時のドイツ兵は生きた心地がしなかったでしょうね。まさか当時のドイツ兵と似た気分を味わえるなんて……」

「同じなのは気分だけにしてもらいたいもんだ」


 同感です、と永川が首肯する。


「よし、本部に連絡だ。敵先遣隊がイロハ海岸に接近。第一警戒線を超えたと伝えてくれ」

「了解」






 無人島内陸部。日本国自衛隊クレステル侯爵軍迎撃部隊展開エリア。

 大きな天幕の下、キキアはキョロキョロと周囲を見渡していた。

 近くには椅子が用意され、離れた場所には休息用のテントもあるが、彼女は一日の長い時間を立ったまま過ごしている。


 クレステル侯爵軍を迎え撃つと知ったときは耳を疑った。

 外界国が公国の有力貴族に挑む。

 なんて滑稽な話だろう。

 勝てるはずがない。やるだけ無駄。死地に赴くようなもの……

 キキアの常識が、日本国の決断を無謀だと切り捨てた。


 けれど、無人島に展開する大部隊を目にしたとき、心が大きく揺らいだ。

 これが本当に外界国の部隊なのか、そう疑いたくなる程の近代化された軍隊が配備されていたからだ。

 多数の軍用車両が縦横に並び、上空では複数の回転翼機が絶えず往来、少し離れた場所には簡易的な滑走路も整備され、大型輸送機によって装甲車両や支援物資が次々に孤島に運び込まれる。

 加えて天幕内には見たこともない電子機器が並び、各地の映像を交えつつ、絶えず様々な情報を集約している。


――これが外界国の軍隊? そんなわけない。だって、こんなのまるで……


「この島に来てからずっとそうしていますね。よく飽きないものだ」

「だっておかしいでしょ!? これが日本国の軍隊!? 納得できるわけないわよ! いい加減白状したらどう!? どこの国から借り受けたの!?」


 キキアは白洲に反発する。


「借り受ける? ああ、なるほど。そういう反応になりますか。ですが、これは正真正銘日本(我が国)の軍隊ですよ。前に説明した通り、自衛隊と言います」

「ジエイタイ……。これが日本国の自前の軍隊だって言うの? まさか……」


 キキアは首を左右に振る。百聞は一見に如かずと言うが、その一見したものを受け入れられる程、キキアの常識は育っていない。


「考えてもみてほしい。このような軍隊は四大国でも持ちえないはず。それはアルミナ大公国の公女であるあなたが一番よくわかっているはずだ」

「それはそうだけど……」


 キキアは意気消沈するも、白洲に質問をぶつける。

 ここ最近、何度となく口にした質問だった。


「……あなたたちはいったい何者なの?」

「その件は本国で説明するつもりです」


 つまり今は教える気がないと?

 白洲から同じ回答を返され、キキアはムッとする。彼女の膨れっ面を見て、白州は肩を竦めた。


「怒りっぽいのは疲れが溜まっている証拠です。少し休息を挟んでは? 弁当や菓子も用意させましょう」

「こっ、子供扱いしないでよ! お腹なんて減ってない!」


 と威勢よく言ったはいいが、矢先にぐぅと腹が鳴る。キキアはあわあわと赤面した。


「テント内に電子レンジを設置してもらいました。自由に使うといいでしょう」

「レンジ?」

「あぁ、その手の説明も必要でしたね。食料品を簡単に加温、解凍できる機械ですよ。詳しい仕組みは……まぁ、機会があれば本国で……」


 瞬間、キキアは直感する。

 この男は説明が面倒だから避けているだけだなと――

 助けてもらった身ではあるが、そう思うと何だか無性に腹が立ってきて、彼女はさらに頬を膨らませた。


「両者、仲がよろしいようで――」


 そんな中、キキアの前にある人物が現れる。

 彼女は意表を突かれて一瞬たじろぐも、直ぐに姿勢を正した。


「おやおやそう硬くならず、楽にしていてください――」


 あくまでもフランクに接する男性だが、キキアからすれば気が気でない。

 なにせ目の前に立つ人物こそ、この近代化された軍隊のトップ、クレステル侯爵軍迎撃部隊を指揮する司令官“中柳”なのだ。

 中柳は陸上自衛隊の特科出身で、本作戦では現地作戦司令官に抜擢された人物だった。今回、特科が本作戦では重要な役割を担うこともあり、部隊を良く知る人物を最高指揮官に当てた格好だ。


「中柳さんがこちらに来たということは――」

「推察の通りです。既に侯爵軍が動き出しています。いよいよ攻勢を掛けてくるようです」


 中柳の言葉に、キキアは顔を青ざめる。


「遂に始まりますか。殿下はどうされます?」


 不意に投げられる白州からの問い掛け。

 キキアは握った手に力を込める。


「……もう逃げるのは嫌よっ。元々は身内同士の争いです。ファスティール家の血を引く者として、私は最後までこの戦いを見守ります」


 凛とした意志と共に紡がれた言葉に、白洲と中柳はゆっくりと頷いた。


次回「外界誘引②」

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― 新着の感想 ―
ファスティール家の最後の生き残りを仕留めようとしたら、未来兵器の群れに襲われたでござる。と言ったところでしょか。(笑) まぁ考えてみれば日本は厳密に言えば外界国と言う区分には該当しないと言うか、事実上…
キキアが第1章でのアリサみたいですね。(時系列的にはこちらが3年位早いのですが) 付き人のクレアはどうしていますか? クレステルの軍は風前の灯。1日と持つまい。
カルマ・クレステルの派遣した軍隊が壊滅するのにどれくらいかかるか。 まあ、長くても数時間でしょうね。速ければ一時間かかるかどうか。
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