34 東大陸戦⑤
東大陸アルミナ大公国領。サンモレア山地。
公都近郊で熾烈な空の戦いが繰り広げられる中、屯田の指示を受けて侵攻路から遠く離れた場所でも動きが起こっていた。
ガラガラガラと重装輸送トラックが地面を移動し平原の一角で動きを止める。荷台には大きな角型コンテナが積まれており、時を置かずにコンテナ片側が持ち上がると空を見上げる。
陸上自衛隊が保有する12式地対艦誘導弾。陸上から敵艦船を撃退するために配備された装備だが、それを地対地用にシステム変更したミサイルが、極東より離れた東大陸の山地に配備されていた。
荷台に設置された6連装コンテナ型発射機が空を見据え、後は発射を待つのみ。
まさに緊張の一瞬だが、片やそれを呆けた顔で眺める者がいる。
「これで帝国軍を攻撃するのですか?」
「正確にはまずは通信施設を破壊するそうだ。まずは敵の連絡手段を絶つらしい」
離れた場所で発射機の様子を窺うのは、二人のアルミナ正規兵だった。
一人は情報分析官を務める壮年の男、もう一人は二十歳前後の若者である。
「信じられません。ここは帝国軍の侵攻路から150キロ以上も離れたサンモレア山地ですよ? こんな遠方から敵を攻撃する手段を持ってるなんて……」
「サンモレア山地だけじゃねぇ。他の場所でも同じ車両を展開中らしい。まぁ、おれもミサイルとやらの説明を聞いたときは驚いたもんだ。情報分析官が聞いて呆れるよ」
壮年の男は苦笑し、巻き煙草を咥える。
その間にも彼らの観察対象――日本国陸上自衛隊西部方面隊第2特科団が滞りなく発射準備を進め、やがて二人にも注意喚起が行われる。
いよいよそのとき――
青年の分析官がゴクリと唾を呑み込む。
緊迫の時間は数十秒と続き、やがてコンテナ後部より火炎が噴出し円筒物が空に舞い上がる。
が、それは一転して高度を下げると、地上スレスレで弾体を安定させ山陰を縫うように飛翔する。
まるで明確な意志を持つ飛翔体の動きに、分析官二人は感嘆の声を上げた。
「「こりゃすげぇ……」」
誘導ミサイルは、中間誘導に慣性誘導とGPS誘導を使用し、複雑な地形でも障害物を避けながら目標地点に向かう。
やがて起伏の少ない平野部が見え始めれば、そこが帝国軍の活動領域である。
瞬間、誘導方式を終末誘導に切り替え、目標にレーダー波を発射。反射波から標的の位置を捉えると、赤外線シーカーと組み合わせることで狙いを絞る。
獲物は目の前。高速の陸鳥が一気に標的との距離を詰め、やがて目標手前で急上昇に転じる。直後、ミサイルは先端を地上に向けると帝国軍の通信施設に突っ込んだ。
大爆発の発生はまさに突然だった。敵戦闘機の接近情報なんて知らされていない中で発生した出来事。
多数の物資が行き交う拠点にて、通信アンテナが設置された鉄塔が破壊され、中継所内は瞬く間に混乱に陥った。
「……何だ!? 何が起こった!?」
帝国兵は突然の出来事に棒立ちとなるが、一人の通信兵が怒声を上げる。
「お前ら何を悠長に突っ立ってる!? 敵だ! 敵の攻撃だぞ!!」
そう叫ぶ間にも、近郊に立ち並ぶ鉄塔、或いは通信ケーブル集約施設など、あらゆるものが爆破されていく。
敵の姿が見えないにも関わらず、各地で赤い炎が出現する様子は恐怖そのもの。
あまりに信じ難い光景に、通信兵の男は叫びながら走り出す。
「ボサッとするな! どけ! 邪魔だ! 死にてぇのか!?」
とにかく上に報告しなければ……
男はその一心だった。
100メートルは全力疾走しただろうか。やがて男は中継所の一角で足を止める。
目の前には輸送トラックと見せかけた通信用トラックが置いてある。コンテナには予備の通信機材を積んでおり、荷台開放後にアンテナを張ることで非常時に使用できるようにしていた。
男は荷台を乱暴に開けると中に飛び込む。無造作に制御盤を操作し、上陸地点に駐屯する司令部に回線を繋ごうと試みる。
「――こちら陸軍第7中継所、敵の奇襲あり、我が部隊は敵の奇襲を受けて――……あぁ?」
けれど、回線を繋いでも雑音が酷く相手の声が聞こえない。瞬間、男の額には大量の汗が浮かぶ。
これは所謂電波妨害に他ならない。通信施設の物理的な破壊に留まらず、敵はこちらの連絡手段の一切を絶った。その手際の良さと今後起こるであろう不測の事態に、男の汗は止まらなかった。
東大陸北西部、帝国軍大本営野営地“エルゲス丘陵”。
朝の早い時間帯にも関わらず、司令部は既に混乱の渦中にあった。
なにせ数十分前より、各基地、各部隊との通信が途絶えたのである。
前線を含めた全37地点の同時的通信不調。これだけ大規模な通信不良ともなれば、敵の仕業と考えるのが妥当だろう。
だが、今のアルミナ正規軍にそんな芸当が可能とも思えない。
「ええいっ、なにをモタモタしておる。急ぎ復旧させるのだ――!」
最高司令官ポールドマンが大声で叫ぶ。
「バルバレッドよ、これはいったいどういうことだ!? 此度の大規模な通信不調、まさかアルミナによるものではあるまいな!?」
仮にそうなら敵の大規模反攻の可能性もある。ポールドマンは疑いの目をバルバレッドに向けるが、
「こ、このタイミングでの大規模反攻は考えられません。第一アルミナ正規軍にそのような余力が残っているとは到底考えられず……」
バルバレッドはその可能性を早くも否定した。
それでも通信障害の理由までは推測できず、各部隊同様、司令部も一瞬にして孤立状態となる。
「まずは情報収集を急がせますれば――」
「当たり前のことを申すでないっ、早急に原因を突き止めよ!」
「ははっ」
バルバレッドがすぐに天幕を出る一方、ポールドマンが想定外の事態に唸る。
そのすぐ近くの床には、中身が滴るブランデー瓶が転がっていた。
次回「東大陸戦⑥」




