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第91話:束の間の休息と、無自覚系主人公の罪と罰

ザイン公爵領での混沌とした一夜が明け、アレイン一行はホームタウンであるメルキアへと帰還した。


眩しい朝日が降り注ぐ大通り。そこには、朝から限界突破したテンションのミナの姿があった。


「よっしゃぁぁぁ!! アレインのブラックな仕事も一段落したし、今日からガンガン遊ぶぞコラァァァ!!」


天高く拳を突き上げるミナ。

その横で、エリナが興味深そうに街並みを見渡している。


「メルキアは冒険者の聖地と言われるだけあって、王都セント・ガルドとはまた違った活気と匂いがありますね。……嫌いじゃないです」


「……お前ら、あのバカからどのくらい休みもらってきたんだよ」


昨日の疲労が完全に顔に出ているアレインが、げんなりとした声で尋ねた。


「一週間くらいですね」


「『たまには羽を伸ばして、ついでにアレインの弱みでも握ってきてよ』って言ってたよ!」


「最後の一言、確実に余計だろ。……で、遊ぶっつってもなぁ。何して遊ぶんだよ。」


「はぁ!? アレインはメルキア長いんだから、地元の人間しか知らない『隠れ家的絶品スイーツ』とか『絶景スポット』とか知ってるでしょ!!」


ミナの期待に満ちた眼差しを受け、アレインは腕を組んで深く考え込んだ。


「……そんなに考え込んで、アレインは普段、オフの日はどう過ごしているんですか?」


「鍛錬してクエスト受けて、クエストなければ鍛錬して、夜は安酒飲んで『あー、明日から本気出すわ』って言いながら寝る」


迷いなき、即答だった。


「うわぁ……。絶望的にワーカホリックの極みだ」


「そういえば、見た目の割にアレインって遊んでないよね。もっとこう、裏路地のカジノで全財産スッたりしてそうなイメージなのに」


カイトが偏見を口にする。


「どう見ても『やる気ゼロの低ランク冒険者』にしか見えないのにねー。中身だけはストイックとか、キャラに矛盾が生じてるよねー」


「ビッグなお世話だっつーの!! 誰がキャラ崩壊だ!! これがリアリティのある、血と汗に塗れた冒険者のリアルな姿なんだよ!!」


「フフフ。……まぁ、アレインが変な女遊びをしていないのには安心しました。……もしそんな事してたら、今すぐその大事な『聖剣』を根元から叩き折るところでしたから」


エリナが涼しい顔で、全男性が震え上がるような恐ろしいセリフを吐いた。

すると、アレインの頭の上で丸まっていたブルーナが、ふぁあっと欠伸をしながら口を開く。


「……アレインは女遊びより、街の子供らに絡まれてる時間の方が多いのじゃ。もはや保育園の園長じゃな」


『それに、精霊たちがいつもうろちょろしているわね。……モテるのは、人間以外の生物ばかりね。フフフ』


ヴェルナの念話が脳内に響く。


「アレインは昔から、子供や動物にすぐ懐かれますからね。……魂の波長が近いんでしょうか」


「おい。……それ、遠回しに俺の精神年齢がガキや動物レベルって言いてーのか? 喧嘩売ってんのか?」



セイラの、あまりに唐突な。アレインの日常が、再び騒がしく加速し始めるのであった――


「褒めてるんですよ」

「そうじゃよ」

『そうね』


「お前ら、今、絶対嘘ついただろ!! 瞳の奥に確かな憐れみの光が見えたぞ!!」


ワイワイと騒がしく大通りを歩いていると、冒険者ギルドの前で足が止まった。

入り口の扉の前で、入ろうか入るまいか、右へ左へウロウロと悶々悩んでいる一人の少女の背中があった。


「あっ、セイラ!! ……何やってるの、そんなところで?」


カイトが顔を輝かせて声をかけると、少女――セイラがビクッと肩を揺らして振り返った。


「……カイト君!? ……あ、お兄様!!」


パァァッ、とセイラの顔に花が咲く。

だが、その瞬間。


「…………お兄様?」


ピキリ、と。エリナの笑顔から一気に温度が消失した。


「……女。……しかも、守ってあげたくなるタイプの美少女。……挙句の果てに『お兄様』呼び。…………アレイン? これ、どういう状況ですか?」


エリナの背後に、確実に六本腕の阿修羅の幻影が顕現していた。


「またかよ!! その冷え切った笑顔やめろ!! 俺は何もしてねえ!」


「嘘ですね! またその無自覚なお人好しを拗らせて、路地裏で泣いてる美少女を『よぉ。おめえさん泣かせた彼氏ぶん殴ってきてやろうか?』とか言って落としたに決まってます!! ギルティ!! 判決、即座に死刑!!」


「お人好しを『拗らせる』ってなんだよ!! 良い人なの!? バカなの!? どっちなんだよ!! 冤罪にも程があるだろ!!」


「おバカで良い人だからタチが悪いんですよ!! ブレイブも言ってましたよ、『孤児院時代、アレインの方がなぜか女の子たちに人気があった』って!!」


「はぁ!? ねーよ!! あの頃の女の子たちは、全員ブレイブの追っかけだったろーが!! 俺なんてただの背景、モブA扱いだったわ!!」


「アレイン、甘いですね。……女の子は周りに合わせる生き物なんです。表面上は『ブレイブ様ー!』って言いながら、実は『ブレイブに負けて怪我したアレインの手当てをする役目』を、裏で壮絶に奪い合ってたって言ってましたよ!!」


「初耳なんだが!!? あいつら、そんな素振り一ミリも無かったぞ!? むしろ俺が手当て頼んだら『えー、なんで私がやらなきゃいけないのよ』みたいなリアクションだったんだけど!!?」


「それが女子の照れ隠しであり、高度な情報戦なんですよ!! 『本命は隠す』……これがメルヘンな孤児院のドロドロとした裏側です!!」


「わかるわー。女子あるあるだねー」


ウンウンと頷くミナ。アレインは頭を抱えて叫んだ。


ウンウンと頷くミナ。アレインは頭を抱えて叫んだ。


「そんな『無自覚系ラノベ主人公』みたいな設定、俺には搭載されてねーから!! やめて!! 俺をそういう目で見るのやめて!! 俺のアイデンティティが崩壊する!!」


「……あの、お兄様?」

「……アレイン、そろそろこっち向いて?」


カイトの呆れた声に、アレイン、エリナ、ミナの三人が一斉に振り向いた。


「やっと気づいた。……コントはそこまでにしてよ」


「えっと……そちらの女性の方は、どなたでしょうか?」


セイラが少し不安げな瞳で、エリナとミナを交互に見つめる。


「あ、ああ。……コイツらは、俺の昔の仲間のエリナとミナだ。……まぁ、腐れ縁ってやつだな」


「ミナでーす! よろしくー! アレインの性癖については、あとでじっくり教えるね!」


「エリナです。……アレインが変な手出しをしていないか、二十四時間監視体制を敷いている者です。よろしく」


「セ、セイラです。……カイト君と、お兄様には、いつも本当にお世話になっています」


ペコリと深く頭を下げるセイラ。

なんとか自己紹介が終わり、アレインは改めてセイラに向き直った。


「んで? セイラはギルドの前で何やってんだ? 」


「アレイン、聞いてよ!! セイラ……冒険者登録をしようとしてたんだよ!!」


カイトの衝撃的な爆弾発言に、アレインは目を見開いた。


「……はぁぁぁ!? 冒険者!? セイラ、お前……正気か!?」


セイラの、あまりに唐突な「冒険者」への転身宣言。

アレインの日常が、再び騒がしく加速し始めるのであった――

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