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第76話:手紙の山と、背後の・・・

アレインは意を決し、数珠でも握りそうな勢いで合掌した。

その表情は、これから決死の特攻にでも向かう兵士のようである。


「……南無三ッ!! 仏滅だろうが知るか! 開封の儀、執り行わせていただきます!」


バリィッ! と勢いよくブレイブの封筒を引き裂き、中の便箋を広げる。


「えーと……『アレイン元気かい? 僕は毎日忙しく……』。……はいはい、リア充爆発しろ。えー、なになに……」


独り言を漏らしながら、アレインはブレイブからの手紙を読み進めた。


『アレイン、元気かい? 僕は忙しく冒険者活動をして、充実した毎日を送っているよ。でも、君と再会したあの日を思い出すと、僕の隣に君がいないことにやっぱり寂しさを感じてしまうんだ。というわけで、あの日約束した「エリナとミナを預かってもらう」件、実行させてもらうことにしたよ! リリアも行きたがっていたけど、さすがに全員君に預けるのは気が引けるから、今回は二人だけ行かせるね。予定の詳細はエリナに任せたから、二人で決めてほしい。――君の親友、ブレイブより』


そこにはさらに、別の便箋も同封されていた。


『アレイン、遊びに行くからよろしくね~!』――ミナ

『アレインにまた会えるのが、本当に楽しみです。』――エリナ


アレインの動きがピタリと止まる。


「…………。エリナたちが、メルキアに来る? ……ってことは、この山のように届いてる『呪物』の正体は……」


「……エリナさんからの、愛の督促状ってとこかな。それも、かなりの延滞金が発生してそうなやつ」


カイトが引き攣った笑みで補足する。

アレインの頭の上では、ブルーナが他人事のように大きな欠伸をした。


「なんじゃ、あの小娘どもが来るのか。また騒がしい日々が始まるのぅ」


一方、窓の外から同情の入り混じった冷ややかな視線を送るのはヴェルナだ。


『……エリナって、アレインに「首輪の魔法」をかけて一生飼い殺そうとしてたあの娘よね? 手紙を放置したせいで、中の闇が発酵してなきゃいいけれど……』


「おい、見るのクソ怖いんだが。これ開いた瞬間、エリナの手がニュッと伸びてきて異次元に引っ張り込まれるとか、そういう事故起きねーか?」


「貞子じゃないんだから、紙から人が出てくるわけないでしょ。物理法則を信じなよ」


カイトがなだめるが、ヴェルナは残酷な事実を突きつける。


『貞子が誰かは知らないけど、高位の転移魔法や空間干渉なら、不可能ではないんじゃないかしら??』


「そうじゃの。魔の深淵を覗き、愛という名の狂気に染まれば、手紙経由のストーキング術くらい編み出せるかもしれんの。カカカ!」


ブルーナの笑い声に、アレインは悲鳴に近い声を上げた。


「おい怖いこと言うのやめろ! 手紙を燃やしたくなるだろーが!!」


ガタガタと震えながらも、アレインは覚悟を決めてエリナの封筒――その一通目を手に取った。

カイトが「とりあえず見てみようよ」と背中を押す。


「……そ、そうだな。一通一通、毒味してやるよ」


【一通目】

『ブレイブが手紙を送ってから数日が経ちました。アレインもA級冒険者ですから、お忙しいのでしょうね。お返事、待っています。』――エリナ


「……なんだよ、普通じゃねーか。拍子抜けだわ、ビビって損したぜ」


「だね。やっぱりアレインの自意識過剰じゃない?」


アレインは安堵の溜息をつくと、一気に数通を飛ばして後半の便箋を手に取った。


【五通目】

『アレイン、お返事まだでしょうか? 旅立つ準備はもう出来ています。早くアレインの傍に行きたいです。』


【十通目】

『ねぇ、アレイン? まだ? こんなに待っているのに、なんでお返事くれないの? 寂しいよ……。返信、待っています。』


【十五通目】

『アレイン、読んでるんですよね? 私を焦らすなんて、悪い男ですね……。……返信、待ってます。』


「……。ねぇ、なんか文面から湿気しけった音が聞こえてくるんだけど……」


アレインの頬を冷や汗が伝う。

そして、二十通目を読み上げた瞬間、部屋の温度が氷点下まで下がった気がした。


【二十通目】

『アレインアレインアレインアレインアレイン……(中略)……あはは! 今、お腹でアレインの赤ちゃんが動いたよ? この子もあなたに会うのが、もう待ちきれないみたい。返信、待ってます。』


カイト、ブルーナ、ヴェルナ。


全員が沈黙した。


「……こっわ。つーか、ついに想像妊娠までしてやがんぞ、あのエルフ!! ねえ、みんな黙るのやめてくんない!? 恐怖の解像度が上がるからやめろ!!」


「……あはは。原作との乖離が激しすぎて、ちょっと僕の脳の処理能力が追いつかないっていうか……」


カイトが遠い目をし、ヴェルナが静かに呟く。


『彼女、思った以上にアレインへの執着が重いわね……。これ、もう「愛」っていうより「業」よ』


「……妾を震えさせるとは、あの娘、中々やるではないか。カカカ……」


ブルーナの笑いもどこか引き攣っている。

カイトが震える声で「も、もうさ、一番最近のを見ようよ。ただの悪戯かもしれないし!」と提案した。


「そ、そうだな……。そうだよな! ネットの釣り記事みたいなもんだよな!」


自分に言い聞かせながら、アレインは日付の近い手紙を次々と捲っていった。


【二週間前の手紙】

『アレイン、もう我慢できないからメルキアに行きますね。返信は待ちません。』


【一週間前の手紙】

『アレイン。セントガルドを出て、今リベルタス連邦の街道の村にいます。』


【六日前の手紙】

『アレイン。リベルタス連邦に入りました。』


【五日前の手紙】

『アレイン。メルキアの街が見えてきました。』


【四日前の手紙】

『アレイン。私、今メルキアの入り口にいるの。』


【三日前の手紙】

『アレイン。私、今「うまの尻尾亭」の前にいるの。とても美味しそうな匂いがするわ。』


【二日前の手紙】

『アレイン。私、今「メルキアの風」の前にいるの。』


【一日前の手紙】

『アレイン。私、今アレインの部屋の前にいるの。』


アレインの喉が、ゴクリと鳴った。


手の中にある、最後の一通。それは「今日」届いたばかりの手紙だった。


【今日の手紙】

『アレイン。……私、今、あなたの後ろにいるの。』


その瞬間だった。


「……アレイン。私、今……あなたの後ろにいるの♡」


聞こえるはずのないエリナの声が、手紙の文字と完全にシンクロして、アレインの耳元を優しく撫でた。


「………………ッ!!?」


アレインはガチガチと音を立てて首を回し、後ろを振り返った。

そこには――逆光の中、溶けるような、あるいは泥のような笑みを浮かべたエリナが、眼前に立っていた。


「……ぎゃ、ぎゃああああああああああああああああああッ!!!」


アレインの絶叫がメルキアの宿屋に響き渡る。

それと同時に、彼の意識は深い闇の中へと――気絶という名の逃避行へと落ちていった。

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