第127話:静止した破滅の世界と、壊れたおもちゃの片付け方
赤黒い破滅の光も、宙に巻き上げられ砕け散る大地の破片も、すべてが映画のワンシーンのように静止した空間。
(キレようと思ったけどよぉ……これ、俺達結果的に助かってね? ……バッシュ、なんて言えばカッコつくんだ?)
そんなメタな相談をしていたアレインだったが、フッ、と鼻で笑い、ニヤリと不敵に口角を上げてみせた。
「……ヘッ、オメェがしゃしゃり出て来たってことはよぉ……。『今回も俺の勝ち』ってことでいいんだよなぁ、あァ!?」
「アレイン、今思いつきましたって感じが見え見えでカッコ悪いよ……」
即座に放たれたカイトの冷ややかなツッコミが、静止した空間に虚しく響く。
「ハハハ」
パチ、パチ、パチ、と。
三日月の笑みを浮かべた【管理者】は、わざとらしいほどゆっくりと拍手をしながら肩を揺らした。
「絶体絶命の最悪な状況で、結果的に僕に助けられたくせによく回る口だなぁ、アレイン。……まあいいさ。残念ながらその通りだよ? おめでとう、君の勝ちだ」
「……ぼ、僕を無視するな……!!」
その時、凍りついたように動けなかったゼロスが、歯をガタガタと鳴らしながら叫んだ。
「お前は、お前は一体誰だ!!!」
「ハハハ、元気がいいねぇ? 僕はね、この世界の……いや、この銀河の【管理者】さ。まあ、君たち人間に分かりやすく言うなら『神様』みたいなものだと考えてくれていいよ。……ああ、ちなみにね? 君の魂をこの世界に転移させたのも、僕さ」
「な……神様、だと……!?」
ゼロスが虚ろな眼窩を見開き、愕然とする。
「その神様が、僕の前に、今更何の用があって現れたのさ!!」
「何って、後始末しに決まってるだろう? 壊れたおもちゃは、ちゃんと片付けないとねぇ」
「片付け……? 一体、何を……」
「そう、壊れたおもちゃはゴミ箱へ。僕はこれでもエコロジーだからね、ポイ捨てはしない主義なのさ」
管理者の底知れない暗黒の視線が、自分を「ただの廃棄物」として処理しようとしていることに気づき、ゼロスの背骨に冷たい戦慄が走った。
「ぼ……僕を、どうする気だ……!!」
声を震わせるゼロスに、管理者は首を傾げる。
「どうするも何も、今この僕の『時間停止』を解除したら、魔核を失って自爆の臨界点に達している君は、そのまま塵も残さず死ぬだけだしね。正直、どうでもよくない?」
「ふざけるな!!!」
絶望が怒りへと変わり、ゼロスが吠えた。
「勝手に僕をこの世界へ転移させておいて……! 用が済んだら、ゴミのように殺されるなんて……そんなこと認められるわけないよ!! 神を自称するならば……ならば今すぐ、こいつらを塵に帰す力を僕によこせ!!!」
それを聞いた管理者は、一瞬の静寂の後。
お腹を抱えて盛大に笑い転げた。
「ハハハハハ!!! クククッ……アハハハハハ!!!」
「な、何がおかしい……!? 僕は至って真面目に――」
「いやぁ! まさか自爆特攻までしようとした男が、ここまで意地汚く『命乞い』と『力のおねだり』をしてくるとは思わなかったからねぇ! やはり、アレインたちと違って……君の魂は、芯まで薄汚れているようだね? ――『佐藤零次』君!!! ハハハハハ!!!」
「――何度も、何度も何度も!!! 僕をリアルネームで呼ぶな!!!」
激昂するゼロスの横で、アレイン、カイト、バッシュの三人は無言で武器を構え、臨戦態勢に入っていた。
かつて、敵側だったカイトやバッシュに対し、管理者は甘言を弄して「新たな力」を与え、自らの手駒(主人公)にしようと誘惑してきた過去があるからだ。
アレインたちのピリついた殺気を感じ取りながらも、管理者はひとしきり笑うと、ふぅ、と涙を拭う仕草をした。
「まあ、君のその見苦しい魂の歪みは、見ていて最高だけど……今回は力をあげるのはやめておくよ。君はね、高潔な『僕の主人公』には相応しくないからね」
「……あん? 高潔だぁ?」
「自己評価の高すぎ……」
「……神を自称する割には、言葉選びが極めて安っぽいな。反吐が出る」
アレインが顔を歪め、カイトが冷ややかな目を向け、バッシュが大盾の裏から心底不快そうな表情で吐き捨てる。
非難轟々の嵐を、管理者はひらひらと手を振って受け流した。
「おやおや、外野がうるさいねぇ。けどさて、名残惜しいけれど……さよならだよ、佐藤零次君」
管理者が指をパチンと鳴らした。
瞬間、ゼロスの足元の影が、ドロドロとした暗黒の沼へと変貌する。
そして、その泥の中からは人間の形をした無数の『黒い影の手』が這い出てきて、ゼロスの骨の体を掴み、強引に奈落の底へと引きずり込もうとし始めた。
「ク、クソッ……!! 離せ……離せぇぇぇ!!! 僕は、僕はまだ死にたくない……!!」
影の手に捕まり、必死に手を伸ばして暴れるゼロス。
管理者は近づくき、その様を上から見下ろした。
「さっきまで世界ごと自爆する気満々だったくせに、とことん我儘だねぇ君は。……まぁいいさ。そこまで生に執着するっていうなら、その『命』だけは助けてあげよう。……ね? 僕って優しいだろう?」
「ふざ、ふざけるな……ッ!」
ゼロスが言い終えるより早く、無数の黒い影の手が、その顎の骨を、口を、視界を、強引に塞ぐように覆い尽くした。
「まあ、命は助かっても……君にとっては、死ぬより辛い『地獄』かもしれないけどね? ――それじゃあ、バイバーイ」
「――やめろおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
暗黒の沼の底へ沈み込みながら、届かない手を天に伸ばし、絶望の叫びを轟かせるゼロス。
しかし、その必死の抵抗も虚しく。
彼の体は、エターナル・レジェンドのすべての思い出と未練と共に、黒い影の沼へと完全に飲み込まれ、世界から消え去った。
後に残されたのは、発動を止められた自爆魔法の禍々しい残滓と、不気味に笑う【管理者】。
そして、武器を構えたまま油断なく睨みつけるアレインたちの、静止した空間だけだった――。




