↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

131/135

第124話:空っぽになった魔王と、ブラウン管テレビの直し方

泥に塗れたゼロスの周囲で、セレン、お巳代、ゴルドが必死の説得を続ける中。

あまりの現実を受け入れきれず、完全に精神のタガが外れたバルトスが、髪を振り乱して絶叫した。


「ありえない……! ありえるはずがないィィ!! 至高の存在であらせられるゼロス様が、あのような矮小なる、人間に敗れるなど……! 認めん、断じて認めんぞぉぉぉ!」


「バルトス、いい加減にしなさい! 現実を見なさい……ゼロス様は、負けたのよ」


セレンが毅然としつつも悲しげに告げる。


「バルトスはん! 今はそんな些細なプライドより、ゼロス様の心配をせえへんでどうすんのや! 一番の忠臣や言うてたんは、口先だけやったんか!?」


「左様。これ以上の無益な戦いはゼロス様の御身を危険に晒すだけだ。今はただ、主の御命を気にかけるべきだ!」


お巳代とゴルドがそれに続く。だが、バルトスは血走った目を見開き、ガタガタと震えながら口端を吊り上げた。


「……嘘だ。こんなの夢に決まっている……そうだ、これは高位の精神魔法による集団幻術だ……ハハ……ハハハハハハハハハハハハ!!!」


完全に精神を病み、狂ったように笑い出すバルトス。


そのあまりに不気味な様子を、少し離れた場所からカイトたちがドン引きしながら見ていた。


「……ねえ、どうしようアレイン。あのバルトスって人、完全に目がイっちゃっててちょっと怖いんだけど……」


「……よし、一発ぶん殴って直すか」


貧血でフラフラと揺れながら、アレインが親指をポキリと鳴らした。


「だいたいこういうのはな、『斜め45度の角度から強めのチョップをガツンと入れれば一発で直るけぇ。力道山ばりのじいちゃんの空手チョップ、よぉ見とけって』って、転生前に広島のじいちゃんに教えてもらったんだよ」


「壊れた昭和のブラウン管テレビじゃないんだから無理でしょーがァァ!!」


カイトの鼓膜を破らんばかりの激しいツッコミが炸裂する。


「何その一世紀くらい前の知恵袋!? あんた本当は何年生まれだよ! 令和の時代にチョップで脳ミソ修理しようとするんじゃねえよ!!」


アレインたちがギャーギャーと騒いでいる間。

倒れたままのゼロスの耳には、セレンたちの必死な説得など一切入っていなかった。


「……クソが……!」


泥を握り締め、ゼロスは憎悪に身を焦がす。


(これで終わってたまるか……! このままあいつを、ただで帰してなるもんか! 僕にはまだ、最強の切り札が残っている。……正直、あいつの持ってるクソ下ネタまみれの変態鑑定スキルなんて、僕の至高のコレクションには絶対に必要ないけど……背に腹は代えられない! 奪って、全部めちゃくちゃにしてやる!)


ゼロスはセレンたちの制止を力任せに振り払い、アレインたちから死角になる位置で、手元のシステム画面を血眼になって高速操作した。


「――喰らえ!! 『強奪(スナッチ)』ッッ!!!」


立ち上がりざまに放たれた、怨嗟の声を伴うドス黒い光条。

他者のスキルを強制的に奪い取るその魔の光が、大蛇のようにのたうち回りながらアレインへと迫る。

その時、アレインは変身による貧血の反動で完全に油断し、フラフラ状態だった。


「うおっ!?」


回避は間に合わない。強奪の光がアレインの胸に直撃する――その刹那。

上空から、凛とした声が戦場に響き渡った。


「――〈カバーシールド(Cover Shield)〉ッッ!!!」


――ズガァァァンッ!!!


アレインの目の前に、空間を割って巨大な光の盾が顕現した。

分厚い防壁が、ゼロスの放ったドス黒い強奪の光を完全に弾き返す。


「クソッ!! 誰だァァァ! 最後の最後で僕の邪魔をした奴はァァァ!!」


ゼロスが目を見開き、天を仰いで絶叫した。

声のした丘の上を見上げると、そこにはアレイン達にとって懐かしい面々が勢揃いしていた。

『鉄の絆』のバッシュ、ロルフ、ガザル、エルザ。

そして『銀の翼』のフェリス、カトリーヌ、シェリー達だ。


一行の先頭に立つフェリスが、亜麻色の長い髪をファサッとなびかせ、これ以上ないほどのドヤ顔で勝気な笑みを浮かべた。


「……ふふん、どうやら絶好のタイミングで間に合ったようね?」


「おいおい、盾張ったのはバッシュだろ。なんでお前が自分が救ったみたいな勝ち誇り方してんだ?」


すかさずガザルが的確なツッコミを入れる。


「ガザルうっさい!! 邪魔しないで!!」


「このアマ……!?」


「まあまあガザル、フェリスさんらしくていいじゃない? ねっ、バッシュ?」


エルザが苦笑しながら宥めると、大盾を構えた大男、バッシュも静かに頷いた。


「ああ、構わん」


「お前らがそうやって甘やかすから、このアマはいつまで経っても性根が曲がったままなんだよォォ!!」


頭を抱えて絶叫するガザル。


「まあまあ、2人とも戦場で内輪もめを始めるのはやめようか……」


リーダーのロルフが苦労人オーラを出しながら場を収める中、シェリーとカトリーヌが眼下のアレインたちに向かって大きく手を振った。


「やっほーアレイン、カイトー! 久しぶりー!!」


「おーい、生きてるかー?」


「バッシュさんたちだ!! ねえアレイン、バッシュさんたちが助けに来てくれたよ!!」


目を輝かせて喜ぶカイトの横で、アレインはうるさそうに耳を塞いだ。


「耳元で騒ぐなよ聞こえてるわ!!」

(クソ、貧血で頭がガンガンするってのに……!)


「調子に乗るな人間どもがぁ!! もう一度だ!!」


往生際悪く、ゼロスが再度システム画面を叩き、強奪のスキルを放とうとする。


「おっと、させないぞ」


バッシュがさらに盾の魔力を解放した。

すると、先ほど〈カバーシールド〉で防がれ、行き場を失って空中に滞留していた『強奪の魔力』が、反転。そのまま発動者であるゼロス目掛けて「逆流(リフレクト)」したのだ。


「うわあああああああ――ッッ!?」


「「「ゼロス様――ッ!!」」」


セレンたちの悲鳴が響く。

自らの放った強奪の光に包まれたゼロスの視界に、これ以上ないほど残酷で、精神を完全に破壊するメッセージログが冷酷に流れ始めた。


【システムメッセージ】

『強奪(スナッチ)スキル』が完全に反射されました。

これまで奪ったすべてのスキルが、元の持ち主へと強制返還されます。

(※元の持ち主が既に死亡、または存在しない場合はそのまま『消滅』します)


なお、スキルの過負荷反射に伴い、ゼロス様が保有する**『強奪スキル自体』も永久に消滅します。**


『今までお世話になりました。さよなら(笑)』


「あ……あ、ああ……。僕の、僕の苦労して集めたコレクションが……僕の力が……!!」


ゼロスの体から、これまで殺した野盗、手にかかった盗賊、罠に嵌めた冒険者たちから奪い、せっせと溜め込んできた色とりどりの魔力の粒子が、シュウウウ……と音を立てて無数に抜け出していく。


「馬鹿な……。空っぽだ。僕の中が……空っぽになっていく……!!」


自らの骨の手を見つめ、絶望に声を震わせるゼロス。

他者のものを奪い続けた死霊の覇王は、平原の泥の中へ、ついに力なく両膝を突いた。


そのちっぽけで哀れな姿には、もはや魔王としての威厳など、微塵も残されていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。