第122話:夏のボーナス全損の悲劇と、地球の管理者からのプレゼント
グラン平原の戦場。
カオス・ドラグーン・ヴェルリアが放った特大の必殺技〈日輪双極斬〉が、狂い咲く太陽のごとき光を放ち、超巨大骸骨騎士へと肉薄する。
迎え撃つ巨大骸骨騎士は怨嗟の咆哮を上げ、山のような大剣で光の奔流を受け止めた。
「……耐えろ!! 我が最強の下僕よ! 凡愚の光など押し返して見せよ!!」
玉座から身を乗り出し、ゼロスが叫ぶ。
(耐えてぇぇぇぇ!! 僕の夏のボーナス全額と、三千人の生贄で出した僕の最高最強の下僕なんだからぁぁ! ここで落とされたらマジで泣くよ!?)
一方、戦場に響く爆音の中、フリードリヒ王は泥に塗れながらただただ祈っていた。
「……おお、太陽神アマテ様……我ら無力な子らをお救いください……!」
「行けぇ!! 戦場に風穴を開けてみせろ! ぶち抜けぇぇぇ!!」
「「いっけえええええええ!! ぶち抜けえええええええ!!」」
ゴトー将軍の咆哮に続き、シルヴァニア兵たちの魂からの叫びが響き渡る。
全軍の祈りと叫びに応えるように、アレインの複合武装から放たれた光属性の魔力が、さらに一回り膨れ上がった。
パキパキパキンッ!!
凄まじい破砕音が響き、骸骨騎士が掲げていた大剣に無数の亀裂が走る。
次の瞬間、耐えきれなくなった剣は木端微塵に砕け散り、極太の光の刃がその巨大な胸骨を完全に貫き、天へと吹き抜けた。
「おっしゃああああああ!! 命中!!」
「「うおおおおおおおおおお!! やったあああああああ!!」」
兜を投げ捨てて喜ぶゴトー将軍と、歓喜に沸く兵士たち。
対照的に、ゼロスはあまりの光景に膝から崩れ落ちた。
「……な、な……なんだと……!? 我が、我が最強の尖兵が、一撃で……!?」
(ああああああああああああ!! 僕の夏のボーナス全額がぁぁぁ!! 一瞬で溶けたぁぁぁ!! アレインのバカヤローー! 金返せぇぇぇ!! やめてええええ!!)
「そ……そ・そんな! ゼロス様が直々に創り出された最強の兵が一撃で屠られるなど、信じられない……! 一体何者なのだ、あの金ピカの騎士は……!」
バルトスが顔面蒼白になり、ガタガタと震える。
やがて骸骨騎士の巨体が光の塵となって崩れ落ちると、戦場に不思議な現象が巻き起こった。
ドス黒い怨嗟の霧が晴れ、天から暖かな光の柱がいくつも降り注ぐ。
生贄にされ、怨霊と化していた兵士たちの魂が、美しい光の粒子となって次々と空へ舞い上がり始めたのだ。
それは正に、残酷な戦場を癒やす「浄化」の儀式であった。
「……なんという、なんという神秘的で静謐な光景なのだ。……やはり、あのお方は太陽神アマテ様の使者に間違いない。……アマテ様、我が哀れな兵たちの魂をお救いいただき、心より感謝いたします……」
「……たまげたな。オカルトや神頼みは現場の敵だと思ってたが……マジで本物の神様の使者だったわけね、あれ」
フリードリヒ王は涙を流して深く跪き、ゴトー将軍は呆然と空を見上げた。
阿鼻叫喚のゼロス達と、絶望のどん底から大逆転に沸くシルヴァニア軍。
しかし、その奇跡を起こした張本人の視界には、身も蓋もないメタなメッセージウィンドウが並んでいた。
【システムメッセージ】
『太陽神アマテの加護』が付与されました。
これより、太陽神アマテの信仰心(信者数)が高まるごとに、変身状態の基礎能力が底上げされます。
『アンデッド・死霊系モンスターへの絶対特効』が付与されました。
『救われぬ魂の自動浄化能力』が付与されました。
【追加制限能力】
以下は太陽が出ている日中と、信仰心に依存した制限付き能力です。使用には注意してください。
・状態異常完全無効:呪い、呪殺、その他諸々の状態異常をシャットアウトします。
・超再生(血液精製):変身で失われた血液の精製が可能になりました(※1日1回限定)。
(例:太陽神アマテの信者が1,000,000人いたと仮定すると100cc精製可能。つまり、信者が増えれば増えるほど貧血にならなくなります! 頑張って信者を増やしましょう!! ※現在生成可能な血液は1ccです。)
『こんなことしか出来ないダメな母を許してね? ……地球の管理者より』
アレインがでっち上げた『太陽神アマテ』。
そこへシルヴァニア軍が必死に祈った結果、その祈りのエネルギーがアレインの魂を経由し、なぜか遠く離れた地球の銀河の管理者へと到達。
力を失い眠りについていた管理者が、わずかに回復した力をアレインの加護へ変換したのだった。
「……へっ、ただの嫌がらせ口上だと思ってたが、まさかの超絶チートじゃねえか。ありがてえぜ!!」
鎧の中で、アレインは不敵にニヤリと笑った。
一方、その様子を異空間から覗き見ていたこの世界の管理者は、頭を抱えてブチギレていた。
『ああーーーっ!? ずるいぞ!! 何やってんだあのババア!!』
『……あら? あなたとあの子が交わした「決闘の契約条項」に、母親が我が子を助けてはいけないなんて文言、一言も書いてないはずよ?』
通信先から聞こえてくるのは、上品だがどこか眠そうな地球の管理者の声だ。
『そうだけど!! そうだけどさぁ!! 血液精製って何だよ、ちょっとチートすぎるでしょ! 設定のバランス崩壊するじゃないか!!』
『……ふわぁ。あら、また力を使い果たしちゃったわね。私はもう寝るわ。おやすみなさい……』
『ババア!! 誤魔化すなよぉぉぉ!! ……チクショウ! 力を取り戻したと思ったら、全部アレインに注ぎ込みやがって! 人間ごときに過保護すぎなんだよォォォ!!』
グラン平原。
骸骨騎士が完全に消滅した戦場へ、アジトの結界から助け出されたセレンたち一行が到着した。
「アレイン!! あの化け物を一撃で倒すなんて、やっぱり凄いよ!!」
「ひゃあぁぁ! あの金ピカの騎士がアレインはんなん!? めっっちゃくちゃカッコええやないのぉぉ!!」
目を輝かせるカイトとお巳代。
だが、セレンは息を切らせながら焦燥した様子で周囲を見渡した。
「……そんなことより、ゼロス様はどこ!? 早くこの馬鹿げた戦争を止めさせなければ……!」
「あそこだ、セレン!!」
ゴルドが前方を指さす。
シルヴァニア軍とは反対側の本陣。
ズンッ!! と重い砂煙を上げて、カオス・ドラグーン・ヴェルリアが、ゼロスとバルトスの前に着地した。大地が揺れる。
「……よぉ、魔王様。……ご機嫌麗しいか? この野郎」
神々しい鎧から放たれたのは、アレインのドスの利いた素のトーンだった。
「――麗しいわけないだろォォォォ!! 僕の、僕の夏のボーナスがさっきの一撃で全て吹き飛んだんだぞ!! 最悪だよチクショウ!!」
魔王としての重厚な威厳など完全に忘れ、素でキレ散らかすゼロス。
「お、己、不届き者め!! ゼロス様にそれ以上近づくな!!」
バルトスが慌ててゼロスの前に立ちはだかり、アレインを睨みつける。
アレインは兜の中で不敵に笑うと、巨大な複合武装を肩に担ぎ直した。
「……おいおい、魔王ごっこもやりすぎると痛い目を見るって、教わらなかったか? ……さぁ、お仕置きタイムの始まりだぜ、骨野郎!!」
夏のボーナスが溶けたことに怒りを覚え、アレインを親の仇のように睨みつけるゼロス。
「自作したお気に入りNPCたちに嫌われたくない、置いていかれたくない」という、あまりにも小さく、どうしようもない理由で世界征服を始めた転生魔王。
そして、「高級レストランのタダ券を無駄にされた」という、これまたみみっちい理由で殺意を燃やす日輪の使者。
二つの歪んだ怒りが、ついにグラン平原で正面衝突する――!!




