第110話:骨の王の品定めと、ダンジョンに響く魂の叫び
アレインはヘラヘラと笑いながら、愛剣を肩に担ぎ直した。
「……おら、かかってこいよ骨野郎。……俺を全裸にしたそこのねーちゃんより、強ぇんだろうな?」
挑発的に笑みを浮かべるアレイン。
その不敵な態度に、バルトスの怒髪天が天を突いた。
「――無礼な!! 人間風情が、至高なるゼロス様に剣を向けるなど万死に値する!! その魂、千々に引き裂いてくれるわ!!」
影からセレンとゴルドも音もなく姿を現し、空間の魔圧が急激に跳ね上がる。
しかし、その一触即発の空気の中で、カイトが素早く動いた。
「さあ! 今のうちに逃げて!」
「恩に着る!」
「頑張ってください!! あんな骨、粉々にしちゃえー!!」
「死なないでよ!」
冒険者たちはアレインたちに背中を押されるようにして、出口へと走り出す。
「待ちなさいッ!!」
セレンが巨大な黒い翼を広げ、獲物を追う猛禽のように飛び立とうとした。
だが、その前に堅牢なる「壁」が立ちはだかる。
『……ここは通行止めよ? あまり主の邪魔をしないでくれるかしら』
人化したヴェルナが艶やかに微笑みながら空間を歪め、その横ではブルーナが鋭い牙を鳴らした。
「カカッ!! 通りたいなら、妾たちを倒してからにするのじゃな!」
分断された戦場。
アレインは悠然とゼロスを見据えた。
「さっきまでの威勢はどうしたんだ、魔王様よぉ?」
「…………」
沈黙する骸骨の王。
しかしその内心では、ゼロス(佐藤零次)は冷や汗を滝のように流していた。
(……クソッ、予定外だ。やるしかないのか……。でも大丈夫だ、僕には『強奪』がある。あいつの有用スキルを全部引っこ抜いてやれば、僕の勝ちだ!!)
ゼロスが玉座から立ち上がり、極大の魔力を練り上げようとしたその時。
「ゼロス様もアレインはんも落ち着きなはれ! みんな仲良ぉせな!」
お巳代が、能天気な声を上げて二人の間に割って入った。
「…………」
その瞬間、ゼロスの脳裏に、かつての現実世界(ゲーム時代)の記憶がフラッシュバックする。
『みんな、仲良ぉせなあかんよぉ』
お巳代のモデルとなった、優しかったギルドメンバーの顔。
ゼロスは小さく頭を振り、その感傷を強引に振り払う。
「アレインはん、ゼロス様は根は悪い子やないんです。ちょっと反抗期が骨まで染み渡ってるだけやから、な? 落ち着いてぇな」
「おい、ねーちゃん……ちけえよ」
急に距離を詰めて胸を押し付けてくる美女に、アレインがタジタジと後ずさる。
ゼロスの虚ろな眼窩が、怪しく輝いた。
(今だ! 隙だらけだ!!)
「……〈真実の鑑定〉!!」
ゼロスの視界に、アレインの隠されたステータスと所持スキルが容赦なく暴き出されていく。
【鑑定結果:アレインの所持スキル】
◆ 鑑定スキル(人格あり)
非常に有用だが、性格に致命的な難あり。
【判定:A】(※主観が入りすぎるためマイナス)
◆ 眷属への供物
使用者の体液(唾液、血液、その他センシティブな液体)を使用した、人種以外への超強化バフ。
【判定:S】(※ただし倫理的にアウト)
◆ 絆の共鳴
仲魔の能力をステータスに加算。加算率は「好感度(エロ度含む)」に依存。
【判定:B】(※変動が激しすぎるため)
◆ 獣の親愛
魔物、魔族、亜人など「人種以外」のメスから一方的に好感を持たれる常時発動型スキル。完全支配不可。
【判定:B+】(※本人の意思無視、トラブルの種)
◆ 合体変身
種別:変身・強化スキル
コスト:血液1000cc + 指定された羞恥的口上とポーズの完遂。
制限:10分間。終了後、数時間の「賢者タイム(重度の虚脱状態)」が発生。
【判定:B】(※リスクと羞恥心の割に効果時間が短すぎる)
【総合判定:B+】(※全体的にピーキー過ぎて使い物にならない)
空中に浮かぶシステムウィンドウを前に、ゼロスの指が『強奪』ボタンの上でピタリと止まった。
リスクが高すぎ、かつ変態的すぎるスキル群の羅列に、骸骨の王は思わず「素」の声を漏らしてしまった。
「なにこれぇ……いらない……」
その瞬間。
アレインの視界に、空を覆い尽くすほどの巨大なメッセージウィンドウがポップアップした。
『ちょっとぉぉぉ!! アレインさん! アレインさん!! あいつに私のこと覗き見されたんですけどぉぉ!! しかも私をS級なのに判定Aとか、挙句の果てに「いらない」とか言いましたよ!! 泣きますよ!? ここで号泣して視界をウィンドウで埋め尽くしてやりますよぉぉ!!』
「うぜぇ!! うぜぇんだよ鑑定!! 今シリアスな魔王戦なんだよ! どけ! 文字が邪魔で相手の顔が見えねーんだよ!!」
突如として、アレインが何もない空中をバシバシと叩き始めた。
『酷い!! アレインさん酷すぎます!! 私はこんなに優秀なスキルなのに! あの骨に「強奪スキルを使う価値もないゴミ」扱いされたんですよ!? 一発言ってやってくださいよぉぉぉ!!』
「だから!! 目の前にデカデカと出すんじゃねぇ!! 消えろ! 再起動しろ!!」
虚空に向かって暴れるアレインを見て、お巳代はこてん、と首を傾げた。
「アレインはん、急に一人で踊りだして……なんの儀式どすか?」
「あれはですね……鑑定スキルがしつこく話しかけてくるので、必死に非表示にしようとしてるんですよ」
杖を持ったまま、カイトが苦笑いで解説する。
「おしゃべりなスキルさんなんやねぇ。賑やかでええやん」
呑気に談笑する二人によって、再び真面目な戦闘の空気が悲惨なまでに瓦解していく。
やがて、ようやくウィンドウを視界の隅に追いやったアレインが、肩で息をしながらゼロスをギロリと睨みつけた。
「わかったよ……。わかったから!! 俺がバシッと言ってやんよ!!」
『頼みましたよアレインさん!! アイツが泣いて土下座して「その素晴らしいスキルをください」って言うまで許しちゃダメですからね!!』
アレインがドンッと一歩前に踏み出し、ゼロスに指を突きつける。
「――おい、骨野郎!!」
「なんだ」
ゼロスは気を取り直し、王の威厳を取り戻して構えた。
(……来たか。来るなら来い。戦いなら受けて立つ。だが、あんな気持ち悪いスキルは絶対に奪わないからな!!)
魔力を高めるゼロス。
対するアレインは、深く、深く深呼吸をし。
そのまま――猛烈な勢いで地面に膝をつき、ズザァァァァッ!! と床を滑る完璧なスライディング土下座を決めた。
「――俺の、この呪われた変態スキルどもを、今すぐ全部強奪してください!! おなしゃぁぁぁっす!!!!!」
「…………はああああ!?」
予想の斜め上を光の速さで突き抜けていった行動に、ゼロスの顎の骨が外れんばかりに開く。
「もう限界なんだよ!! モンスター娘には四六時中付きまとわれるわ、変身するにはクソ恥ずかしい決めポーズが必要だわ、その度に血は大量に抜かれるわ!! こんなの持ってるだけで、俺の尊厳と血管が死滅するんだよ!! 奪ってくれ! むしろ今すぐ持ってけ泥棒ぉぉぉ!!」
『ちょっとぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
ダンジョン・イナゴの悲痛すぎる魂の叫びと、鑑定スキルの絶叫が、暗き地下迷宮に虚しく響き渡るのだった――。




