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第108話:不法侵入と、空気の読めない闖入者

かつて「高難易度ダンジョン」として恐れられたダンジョンは、アレイン一行による理不尽な走破以降、訪れる冒険者の数が激減していた。

しかし、強者の取りこぼした「お宝」に群がる羽虫は、いつの時代も絶えない。

骸骨騎士ゼロスは、アジトの防衛テストと称してわざとらしい「隠し通路」を設置。

そこに誘い込んだ冒険者たちを食い物にすることで、『強奪スナッチ』によるスキル集めと人体実験をひっそりと続けていた。


薄暗いアジトの最奥。

甘い希望を抱いて「隠し通路」を抜けた先には、絶望を形にしたような骸骨の王が、冷たい玉座に鎮座していた。


「……我が居城に土足で踏み入れるとは。身の程を知らぬ羽虫共め、万死に値する」


冷気を孕んだ死者の声。

目の前では、運悪く誘い込まれた中堅の冒険者パーティーが、蛇に睨まれた蛙のように震え上がっていた。


「……悪かった! 頼む、俺たちはどうなってもいい、この子だけは見逃してやってくれ……ッ!」


リーダーの男が、絶望の中で必死に背後の少女を庇う。


「この子はまだ若いの。未来があるわ。私たちの命で足りるなら、好きにしていいから!」


「二人共、何言ってるの!? 一緒に逃げるって約束したじゃない!!」


「黙ってろ! お前は生き残ることだけを考えろ!」


「そうよ! あんたはまだ子供なんだから、大人の言う事聞いてればいいの!」


「でも……ッ!」


死を目前にした、美しくも悲痛な自己犠牲の言い争い。

その光景を見て、傍らに控えるバルトスが口の端を吊り上げた。


「クククッ……涙ぐましいですねぇ。自らの無力も悟らず、無価値な命を乞う姿。滑稽すぎて、反吐が出ますよ、ゼロス様」


「……下らぬ。……無粋な騒ぎを、我が領地で起こすな」


威厳に満ちた声を響かせながら、ゼロスは内心で必死に自己暗示をかけていた。


(ふん、僕の城を荒らそうとしたコイツらが自業自得なんだ。僕は悪くない。……わざと隠し通路を作って誘い込んだのは僕だけど、入ってきたのはコイツらだ。つまり不法侵入だ。正当防衛だ。うん、僕は一ミリも悪くないぞ!)


完全に倫理観が崩壊した言い訳を心の中で反芻し、ゼロスが極大の魔法で彼らを消し炭にしようとした、その時。


「ゼロス様……許してあげたらええやないですかぁ?」


不意に、横から艶やかな声が割って入った。

アレインの広背筋に魅了され、すっかり人間賛美に傾倒したヴァンパイア、お巳代である。


「……何だと?」


「『過つは人の性、許すは神の心』。……そんな諺があるんやて、アレインはんから教えてもろたんですぅ。ゼロス様は神のようなお方。ここは寛大な処置をお願いしますぅ」


ピキッ……。

ゼロスの額(骨だが)に、見えない青筋が浮かび上がった。


「……また、あいつか……」


(ことあるごとに、アレイン、アレイン、アレイン……!! お巳代は僕が作ったNPCのくせに、なんで僕よりあいつの言葉を優先するんだよ!?)


得体の知れない苛立ちと嫉妬が、ゼロスの声を荒らげさせる。


「ならん!! この愚か者共は、我が手によって塵に帰す。それがこの世界の理だ」


「そんな……殺生なぁ〜」


張り詰める緊迫感。

圧倒的な死の魔力がゼロスの掌に収束し、今まさに放たれようとした、その瞬間――。


『こんな露骨な隠し通路、この前来たときはなかったじゃねぇか』


隠し通路の奥から、なんとも気の抜けた、この場に絶望的なまでにそぐわない「日常の音」が響いてきた。


『ギルドで聞いたんだよ!! ダンジョン荒らしの取りこぼしがあるかもって噂になってるんだから!』


『マジかよ……』


『行方不明者続出で今騒ぎになってるし、絶対ここだって間違いないよ!』


『お前の「間違いない!」で当たったためしがねえんだよな〜』


カツカツと、軽快な足音が近づいてくる。

やがて姿を現したのは――アレイン、少年のカイト、頭に乗ったチビドラゴンのブルーナ、そして人化したヴェルナの一行だった。


「……おーおー、なんだ。先客がいたか」


首の後ろで手を組みながら、アレインが気怠げに呟く。


「あれ? アレイン、見てよ! 行方不明になってた人たちじゃない? ……っていうか、あのデカい骸骨、なに?」


「……カカッ!! 小僧、どうやら今回は『アタリ』のようじゃな。妾の鼻に、濃厚な『死霊の臭い』がこびりついて離れんわい」


ブルーナがアレインの頭上で鼻をヒクつかせる。


「……やれやれ、わざわざ隠し通路なんて作って、趣味が悪いわね」


ヴェルナが豊満な胸を揺らしながら、ため息をついた。

重厚なダークファンタジーの空間を、一瞬にしてギャグ時空へと塗り替える圧倒的なマイペースっぷり。

呆然とするゼロスたちをよそに、アレインは場違いなほど爽やかな笑顔で、軽く手を振った。


「あらら? 取り込み中だった?」

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