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第101話:深夜の熱血指導と、悪趣味な召集令状

深夜のメルキア近郊、深い森の中。

本来なら草木も眠る静寂に包まれているはずの空間を切り裂くのは、すっかり演出家と化したカイトの怒声であった。


「カット! カットォォォ!! 違うよアレイン! 指先の角度が5度甘い!!」


鬼気迫る表情でダメ出しをするカイトの背後で、特大の欠伸が漏れた。


「……むにゃ……。小僧も……よくやるのじゃ……。妾はもう……付き合ってられんのじゃ……」


漆黒のユニコーン・ヴェルナの広い背中の上で、ブルーナが丸くなって寝息を立て始める。

ヴェルナもまた、やれやれと首を振って呆れ果てた念話を飛ばした。


『……はぁ。……私も眠いのだけれど? 睡眠時間を削ってまでやることなのかしら? 人間って不思議ね……』


そんな仲魔たちの呆れ顔をよそに、カイトとシステムによる「地獄の熱烈演技指導」は絶賛継続中であった。


「もっとこう、闇を切り裂き、光を掴み取るような……絶望と希望の狭間でマリッジブルーになって揺れ動く『葛藤』を、指先の細胞一つ一つに込めて!!」


『カイト監督の言う通りです!! 今のポーズ、シルエットの美しさは「いいね!」レベルですね!! でも口上がボソボソしてて、マイクのノリが最悪です!! もっと腹の底から、世界の理不尽と自分を転生させた神を呪うように叫んでください!!』


カイトの無茶苦茶な要求に同調するように、アレインの目の前にシステムのメッセージウィンドウが矢継ぎ早に展開される。


「…………」


新フォーム『ブレイクバースト』の起動には、1000ccもの供血が必要だ。そのため、ポーズと口上の反復練習は当然「生身の私服姿」で行われている。

最強の鎧も、顔を隠す兜もない状態で、いい年した大人が「双極の魂を纏いし者――」などと大真面目に叫ばされるのだ。アレインの精神はゴリゴリと削られていた。


「ダメだよアレイン! 本番で間違えたら、全国の子供たちや『大きいお友達』の心を掴めないよ!! ほら、もう一度! 『双極の魂を纏いし者――』からリテイク!!」


「……あー……。昔、こっちの世界に来る前のバイトで、ヒーローショーやらされた時の指導員の顔を思い出したわ……。あのオッサン、元気かな……」


死んだ魚のような目で前世の記憶に現実逃避しながら、アレインはこの世で最も「カッコいい」ポーズを渋々繰り返す。

やがて限界が訪れ、アレインは地面に両膝をついた。


「はい、休憩1分! 終わったら、次は『日輪の使者』のセリフの抑揚を確認するからね!!」


「……勘弁してくれよ。なんでファンタジー世界に来てまで、ヒーローの演技指導されなきゃならねーんだよ……」


疲労困憊でうなだれるアレインの脳内で、もう一人の自分がボソリと呟いた。


『……ヒーローは若手俳優の登竜門だからな。これで人気が出れば、お前も一流俳優の仲間入りだぜ……』


「……相棒も壊れてやがる……」


連日の理不尽な特訓で、ついに魂だけの存在である相棒すらも精神的に限界を迎えていた。

誰か、頼むから俺をこの地獄から連れ出してくれ。

アレインが本気でそう神に(いや、神とは絶賛喧嘩中だが)祈った、その時だった。


――ピロリロリロン。


管理者から押し付けられた「不吉なデザインのタブレット」が、深夜の森に不気味な着信音を鳴り響かせた。


「……来た!!」


アレインは跳ね起き、まるで女神の救済を受けたかのような顔でタブレットを掴み取った。


「まさか、あのムカつく管理者の野郎からの連絡が、こんなに嬉しく感じる日が来るとは思わなかったぜ!! 早く!! 早く俺をこの『特撮合宿』から連れ出してくれ!!」


カイトの「ああっ、休憩まだ30秒残ってるよ!」という制止を振り切り、アレインは必死な面持ちでタブレットの画面をスワイプする。

そこに表示されたのは、相変わらずの悪趣味なメッセージだった。


【メッセージ:愛しの管理者より】

『やあ、親愛なるアレイン。久しぶりだね。

寂しかったかい? 僕は君と遊べなくて、枕を涙で濡らす夜を過ごしていたよ。

やっと僕の仕事も一段落したんだ。……さぁ、また僕と遊ぼうじゃないか!

いつも通り、情報を送るよ。

今回は、今までとは少し「味付け」の違う主人公を送り込んだんだ。

君が彼とどう踊って僕を楽しませてくれるか……。

楽しみにしてるよ。

君の愛する管理者より』


「……相変わらず、吐き気のする文面だな。……で、場所は? ……シルヴァニア王国か。また面倒な場所を……」


文句を垂れながら、アレインは添付された詳細データをスワイプした。


文句を垂れながら、アレインは添付された詳細データをスワイプした。

そこに送り込まれた「次なる主人公」の姿が表示された瞬間――アレインの動きがピタリと止まった。


「……は? ……何だよこれ」


冷や汗が頬を伝う。

画面に映し出されていたのは、これまでの「勇者」や「聖女」といったキラキラした主人公像を根本から全否定するような、おぞましく禍々しい異形の姿だった。


「管理者の野郎、ついに素材の仕入れ先を間違えたのか……?」


深夜の森の冷たい風が吹き抜ける中。

アレインの呟きは、これまでのドタバタ劇を唐突に終わらせる、重く不吉な響きを帯びていた。

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