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第100話:日輪の使者と、盤上の観測者

新フォーム『カオス・ドラグーン・ヴェルリア』。

漆黒と碧の装甲が複雑に絡み合うその姿は、禍々しくも神々しい、圧倒的な機能美を誇っていた。

もしこれが死闘の最中であれば、見る者すべてを平伏させるほどのカリスマ性を放っていたことだろう。


――だが、現実は非情である。


「……おい、技名リスト見たけどよ……『終焉を刻む双極の絶唱ラスト・デュアル・レクイエム』ってなんだよ……。効果見ねえと、何が起きるか一ミリもわかんねえわ」


深夜の森。

戦闘によるアドレナリンの高揚感など一切ない状況で、変身したアレインの体は、限界を迎えていた。

代償として強制徴収された1000ccもの血液失血による物理的な目眩と、あまりに高すぎる「中二病濃度」がもたらす精神的な目眩が、絶賛ダブルパンチでアレインを襲っているのだ。


フラフラと足元をおぼつかせるアレインの前に、瞳に銀河ロマンを宿したカイトがズイッと詰め寄った。


「ねえアレイン!! 僕、閃いちゃったよ! 登場した時にさ、往年のヒーローみたいに『俺は太陽の子!!』とか、バシッと口上を入れるべきだと思うんだ!! ほら、変身ポーズの締めが甘いっていうか、威圧感が足りないでしょ!?」


「ああん!? お前、これ以上俺の恥ずかしいセリフを増築工事しようっていうのかよ!! もう俺の精神的キャパは過積載でパンク寸前なんだよ!! 現場の空気を読めよ!!」


「違うって!!」


怒鳴り散らすアレインに対し、カイトは珍しく真剣な――それでいて特撮オタク特有の早口で力説し始めた。


「あの『クソがみ』が信仰させてる女神セレスティアって『月の象徴』なんでしょ? ならこっちは『太陽神の使い』っていう逆のイメージをガチガチに固めて、あいつらの信仰心を根本から削いでやろうっていう、超戦略的な提案なんだよ!!」


その言葉に、アレインの視界の端でポップアップウィンドウが弾けた。


『カイト様、ナ・イ・ス・アイディア!! 私のウィークポイントを完全にわかってらっしゃるぅ!! 採用!! 登場と同時に、敵の網膜が焼けるレベルの「日輪の後光」を背後からブチ込みますよ!!』


「……ノリノリだな、このポンコツ鑑定スキル……」


「でしょ!? 何がいいかな、『太陽の子』だとRXと丸被りだし……商標権的にグレーなのは避けたいし……」


『「日輪の子」!! とかどうですかね? 絶妙にパクりきってない、インスパイアされた感が出ててエモくないっすか!?』


「お前ら……絶対俺を使って遊んでるだろ……。俺をなんだと思ってるんだ、着せ替え人形か? それとも深夜の特撮枠か?」


呆れ果てて天を仰ぐアレインだったが――。


『……だが、カイトの野郎にしては悪くねえ考えだぞ。奴の「信仰心」のリソースを、こっちが派手に「日輪」を背負ってカリスマ性を奪えば、使えるコストも激減するはずだ。』


相棒の冷静な一言が、痛む頭の中でパズルのピースを繋ぎ合わせる。

羞恥心さえドブに捨てれば、あのクソ神を破産に追い込める。


「なるほど……。そう考えれば、悪くねえか……」


「アレイン!! 『……双極の魂を纏いし者。この身に宿る光と闇の境界が、すべての運命を塗り替える!! 日輪の使者!! カオス・ドラグーン・ヴェルリア、ここに降臨!!』……うん、これだ!! 最高に熱いよアレイン!!」


『最高!! 神回確定!! 私が日輪をイメージした黄金の粒子をドバドバかけますからね! 安心してください、画面が真っ白になるまで輝かせますよ!!』


キャッキャとはしゃぐオタクと鑑定スキル。

アレインは重い溜息をつき、ふと根本的な疑問を口にした。


「……っつーかよお前、一応あいつ……『管理者』の作ったスキルだろ? 創造主を敵に回すようなことしていいのかよ。お前のアイデンティティはどうなってんだ」


『はあ……。今テンションがライジングしてる時に、冷めること言うのやめてもらっていいですか?』


「……忠誠心とか微塵もねえのな、こいつ」


『そんな殊勝な考え、いい加減な創造主がプログラムした私にあるわけないじゃないですかー。ないわー』


「……うぜぇ。……ウザさだけは、確かにあいつにクリソツだわ……」


アレインが「管理者と似ている」と吐き捨てた、その瞬間だった。


『似てませんけど? 誹謗中傷やめてもらっていいですか?』


先ほどまでのハイテンションが嘘のように。

温度の一切ない、無機質で冷たい文字列だけがウィンドウに表示された。

あまりの落差と気味の悪さに、アレインは苛立ち交じりに兜を脱ぎ捨てる。

深夜の森で、カイトとシステムによる「いかにアレインを輝かせるか」という超絶かっこいい決めポーズ&口上談義は、空が白むまで延々と盛り上がり続けたのだった。


* * *


どこか遠く。物理法則も時間概念も及ばない、絶対的な異空間。

無数の銀河の星々を、まるでチェス盤の駒のように見下ろしながら、「管理者」は盛大な溜息をついていた。


「……はぁ。やっと一段落かな……」


不定形な、形の定まらない光の塊。

男のようでもあり、女のようでもあり、幼い子供のようでもある。聞く者の精神をかき乱すような不可思議な声が、虚空に溶けていく。


管理者の視線の先で、先ほどまで安定し、規則正しく鼓動していた「綺麗な円形」の宇宙群が、突如として歪み、不規則に膨張し始めた。


「僕はさっきの綺麗な円形のほうが好みだなぁ。……こんな歪んでたほうが宇宙は生き続けるんだから、不思議だよねー」


出来の悪い水槽を観察するような冷たさで、管理者はそれを眺める。

やがて、その不定形な塊のどこかに、ニヤリと吊り上がった「口角」のような悪意の歪みが生まれた。


「さあて。僕の地区の仕事は終わったし……。アレイン、また遊べるねえ?」


楽しげな、無邪気で残酷な声。


管理者の前に、無数のホログラムスクリーンが展開される。そこに並ぶのは「地球」のデータ――夥しい数のライトノベルやネット小説のリストだった。


「次はどんな『主人公』を送り込もうかなぁ?」


指先一つで世界を改変する存在が、暇潰しの玩具を探すようにスワイプを繰り返す。

ふと、ある一つの物語でその動きがピタリと止まった。


「おや。……この主人公、中々歪んでていいねえ。こいつを送り込もうかな?」


宇宙の深淵に、管理者の邪悪な微笑みが浮かび上がる。

悪趣味な娯楽は、まだ終わらない。

ただ必死に生き足掻く元主人公・アレインと、盤上の遊戯を楽しむ全能の管理者。

二人の勝負は、次なる圧倒的な「理不尽」の予感を孕みながら、再び幕を開けようとしていた――。

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