第48話 伯爵邸へ
宿を出発してしばらく。
納品場所であるミリオフェルン伯爵の邸宅に辿り着きました。
ここは領主の館、普段は一般人などは恐れ多くも立ち寄れない、そんな場所ではあるのですが、ね。
「ふむ……物々しい雰囲気ですね」
今はそんな荘厳な雰囲気とは別の様相を呈していました。
一目見て可笑しいと分かってしまう。
表面上は普通なのですけど、ね。
貴族らしい大きなお屋敷、華やかで優雅な権威を示す象徴的な建造物。
まぁ一般的な領主貴族の館と比べるとは少しばかり飾り気が少ない気はしますが……そこはそれ。
おそらくその辺り、ミリオフェルン伯爵の人柄が現れているのでしょう。
そこは良い。
問題は屋敷が纏う雰囲気です。
まるで戦時下のように見える緊張具合でした。
屋敷全体が殺気だっているように私の目には映っています。
しかし、それは可笑しいのです。
今は戦時下ではない。
戦争も、魔族との戦いも無くなって久しく……長らく平穏そのもの、備えるべき戦いなどは目下存在していない。
だというのに、この異様な雰囲気。
これは……当たり、でしょうね。
死の黒杖と関係があるとそう見た方がよいでしょう。
それに……
「骨董品が趣味、というにはいささか物騒ですね……」
庭の一角をチラリと見る。
そこにはガラクタのように大量の魔道具が積み重ねられていました。
それもただの魔道具ではありません。
全部が全部、戦いを想定したものです。
今では魔道具というと生活を豊かにするものを指す言葉になるのですが……あれらはそれよりも前の時代の物。
戦争時代の遺物。
あんなもの一体どこから集めてきたのでしょうか?
不思議な状況でした。
戦争はすでに過去、となると当然、攻撃用の魔道具など作らなくなって久しい。
需要が少なくなったせいで作れる職人が少なくなってしまったのですよね。
今では職人と言えば生活魔道具を作る者が殆どになるのです。
だというのに、あの数……良く集められたものですね。
「こんにちは。ミリオフェルン伯爵家へはどのようなご用件でしょうか?」
呆れると共に感心をしながら歩いていると門番の方に話しかけられました。
使用人服に身を包んだ、しっかりとした物腰の女性……ふむ、メイドさんですね。
門番はこの方……なのですが、うぅむ、彼女、中々の手練れですね。
ただ単に使用人が門に立たされているのとは違います。
体幹がしっかりとしている。
今も私がどのように動いても即座に対応できるように、身体の芯がブレていない。
見た目の上では彼女は……線の細い、美しい女性に見えるのですけどね。
おそらく、それで侮ってかかった者は手痛い教訓を刻まれることとなるでしょう。
まぁ、別に敵対をする気のない私にはまるで関係のない話ではありますが。
「こんにちは、私はレイフォルトと言います。ギルドの依頼を受けてやってきました。手に入れた黒曜石はこちらで受け取って下さると書いてありましたのでお伺いした次第です」
「あぁ、ギルドで依頼を受けられた方でしたか。でしたら問題ありません。すぐに担当の者が来るように手配しますので少々お待ちください」
私が取り出した依頼票を見て、メイドさんが即座に頷いてくれました。
それから、腰に着いた鈴を一鳴らし。
これも魔道具ですね。
鳴らすと対になっているもう一つが鳴り、離れていてもその対象者を呼び出すことが出来るというもの……俗に呼び鈴と呼ばれるもんですね。
確かに貴族では一般的に使用されているものではありますし、なんら可笑しいことではないのですが。
豪勢なものですね……
庭に積まれているガラクタの山を一瞥する。
これだけでもとんでもないのに、それに加えて彼女の立ち姿です。
普通の方では気付かないでしょうが、その身にカモフラージュをするように衣服に取りつけられている魔道具の姿を確認できる。
それも一つではありません。
まるで常用しているかのように幾つも、です。
ふむ……少し探ってみますか。
「……今のは?」
「魔道具です。二つ対になっておりまして、片方を鳴らすと担当の者が持っているもう片方の音が鳴る仕組みになっているわけです。呼び鈴、とよばれるものですね」
「ほう、そうですか……そういったものはこの屋敷には多数あるので?」
「申し訳ありませんがお答え致しかねます。それらは当家の事情となりますので、部外者にみだりにお話するわけにはいかないのです」
「おや、そうでしたか。それは失礼をしました」
「いえ、こちらこそ。失礼をいたしました、ご容赦のほどを」
ふむ……無知を装って世間話ふうに聞いてみましたが、話してはくれませんか。
この辺りは徹底されているのですね。情報管理がしっかりとしているというべきでしょうか?
中々に出来たメイドさんのようです。
ここは大人しく待つことにしましょうか。
疑われればこの先動きづらくなりますからね。
静かなまま時間が流れる。
お互いに無言のまま、少しばかり居心地の悪くなってきたところで呼び出された方がやってきました。
屋敷の方から弾むような足取りで。
ふぅむ、若いですねぇ……十二、十三、といったところでしょうか?
侍女服を着ている、というより着られているという表現がぴったり合いそうな方が身体を小刻みに揺らしながらやってきました。
「お待たせしましたぁ~。私、侍女見習いで依頼を受けた方の案内を仰せつかってるティーミアといいまぁすっ! よろしくお願いしまぁす!」
「そうですか。ティーミアさん、ですね。私はレイフォルトと言います。案内よろしくお願いしますね」
「はぁいっ」
侍女見習いティーミアさん、ですね。
ふむ、元気な方ですね。
屋敷のことを聞いていくならこちらからにした方が良さげですね。
見習い、という身分が示す通り。仕事に慣れていない雰囲気が全身から滲み出ている。
そんなティーミアさんの様子にメイドさんが眉を顰めていました。
「ティーミア?お客様ですよ?しっかりとした口調、言葉遣いで応対しなさいと私が何度言ったと思ってるんですか?」
「えぇぇっ?私、普通にやってますよぉ?」
「やってません。その間延びした口調をどうにかしなさいと何度も言ったではありませんか。発音やちょっとした抑揚や言葉遣い、それが聞く人に不快な印象を与えることがあるのですよ?」
「もうっ、そんなこと知ってますよ~!リエラ先輩っ、おんなじこと何回聞いたと思ってるんですかっ? 私は大丈夫でぇすっ!」
「大丈夫ではないから言っているのでしょうに……」
ふむ、成程……メイドさん‐リエラさんが言うには何度も同じことを指導したとのこと。
大変ですね……まぁ感覚としては完全に他人事ではありますが、その大変さは教師である私には少しは分かるというもの。
物事を教える、というのは大変なことですからね。
それを何度も、となると苦労もひとしおでしょう。
ただまぁ、彼女……リエラさんの言ってることは間違いではないのですよね。これはティーミアさんを思っての発言。
すべては他の人に不快な思いをさせないように、という意味が読み取れますがその裏でそれによりティーミアさんが失敗をして傷つくことがないようにという気遣いが感じ取れるものなわけです。
ふふ、こういうのは私としては応援の一つもしたくなる光景ではありますね。
頑張ってくださいリエラさん。
このくらいで挫けてはなりませんよ?
教育者とは常に我慢強く、根気強くいなければならないものなのですから。
「はぁ、申し訳ありません。レイフォルト様、この者は最近入った侍女見習いでして至らないところもありますでしょうが、お許しください」
「いえいえ、教え、学ぶということは大変な事でもありますからね。あなたも苦労をしているのですね」
「……恐縮です」
頭を下げて謝るリエラさん。
うんうん、教え子のために頭を下げるというのも教育者として大切な事ですからね。
ただ当の本人はさっさと歩きだしてしまっているみたいですが。
教育者の気持ちが教え子に届かないというのもよくあることですからねぇ。
「えと、レイフォ、ルトさま? 早く来ないと置いていってしまいますよ~!」
「……あの子は……案内するお客様を置いてどうするというのですか、これはまた徹底的に教育をし直さないといけませんか」
「大変ですねぇ。まぁ、ほどほどにしてあげてくださいね?あまり怒り過ぎるとやる気をなくしてしまうものですから」
「それは、あの子……ティーミア次第ですね。申し訳ありません、お客様にこのようなことでご心配をおかけしてしまって」
「いえ、私も先生と呼ばれる立場ですからね。少し共感してしまっただけです」
「そうですか、それならばレイフォルト様はさぞ高名な教師であるとお見受けします」
「ふふっ、そう言っていただけるのはありがたいですけどね。私はそんな大したものでは」
「もしも~しっ!本当に置いてっちゃいますよ~?」
「ふふ、だそうですので私はこれくらいで行きます」
「そうですか。お引止めして申し訳ありませんでした」
「いえいえ」
生真面目な方、ですね。
常に背筋に柱でも入っているかのようにピンと身体を真っすぐにして、綺麗な姿を崩しません。
それに対して、ティーミアさんはピョンピョンと飛び跳ねて私を急かすように……ふむ、リエラさんが何かを言いたくなるのも分かってしまいますね。
まるで正反対、だからこそ色々と言いたくなってしまうといったところでしょうね。
「もうっ、遅いですよぉレイさんっ」
「?レイさん、ですか?」
「はいっ、何か長くて言いにくかったので縮めてみましたっ!どうですかぁっ?」
「うぅん、その様に呼ばれたのは初めてですねぇ」
「ふっふ~んっ、よかったですねっ!初体験ですよっ!」
「あっはっは、初体験ですか。それは面白いですね」
「はいっ、初体験はいつもドキドキするものですからっ」
ティーミアさんに先導をされて広い庭の中を屋敷へ向かって歩いていく。
ふむ、それにしてもレイさん、ですか……
これは慣れませんね。
先生と呼ばれるのが一番しっくりときますし、私を名前で呼ぶものは皆『レイフォルト』と普通に呼びますからね。
何とも不思議な感覚ですね。
「レイさんはぁ普段は何をしている方なのですかっ?」
「ん?私が普段は何をしているか、ですか?」
「はいっ」
さて、情報収集のためにどのような切り口で話しかけようかと思っていたのですが……向こうからきっかけを作ってくれましたね。
これは好都合。
なのですが、ふむ……これはもしかすると同じ目的でしょうか?
まぁ、普段は何をと問われれば今はレンくんとランちゃんを見守っているというのが当てはまるでしょうが……さて。
「ふむ……まぁ見ての通りのしがない教師ですよ。しかし、どうしてそのようなことをお聞きに?」
「はいっ、それは当主様に案内する人間の情報はなるべく聞き出すように、と言われているのでっ!」
「ほう、当主様にですか」
成程、当主様からの言いつけですか。
やはり同じ目的だったようですね。
向こうも情報収集のためにここで話しかけてきたわけです。
それを簡単に答えたということは……また別の目的が隠れているということも考えられなくもないのですが。
ここはあえて便乗させてもらいますかね。
歩きながら取り留めもない話をしていく。
状況としては山賊団のアジトで後ろから話しかけられてきた時に似てますね。
しかし、それとは違ってティーミアさんはどうもこういったことには不慣れな様子でした。
「ふむふむ、レイさんって先生をやってたんですかぁ~。意外ですねっ」
「意外ですか? 私はこれでも先生という仕事が大好きで誇りを持ってもいるのですが……うぅん、少しショックですねぇ。先生をやっているようには見えませんか?」
「ううんっ!聞いてみたら納得っ!って感じでっす!だって、何か物腰が柔らかで雰囲気も知的?って言うのですか?」
「ふむ、知的ですか」
「ですですっ!声だって穏やかで優しい感じですしっ!ふっふっふ~、レイさんってさては女性にモテモテなんでしょう~?そうでしょう~?」
「いえいえ、そのようなことはありませんよ」
「えぇ~、本当ですかぁ?」
「本当ですよ」
どちらかというと会話そのものを楽しんでいる感じがしますね。
情報収集、という目的を忘れているのでは?と疑いたくなるような態度でもありますね。
まぁ、好都合ではありますけど、ね。
ここまでで私がティーミアさんに会話の内で渡した情報は『教師である』ということくらいですね。
一方で私は当主様が情報収集を指示していることと場にそぐわないティーミアさんの態度という情報を手に入れることが出来ましたからこれは中々に大きいと言えるでしょう。
場にそぐわない、これは別に彼女の態度を非難しているわけではありません。
物々しく殺伐とした屋敷の雰囲気の中にあって、明るくて陽気な……まるで屋敷の情報をあまり知らないかのようであるということ。
さて、これが意味するところはどんなところでしょうかね?
しかし……女性にモテモテ、ですか。
まるで関係のない話題をつぎ込んできて、そこからどんな展開に繋げるのか……
会話、という面においてはティーミアさんは中々に適役であると言えるでしょうね。
先程から話題が尽きる様子がありません。
案内人としては十分な資質を持っていると言えるでしょう。
「こうして案内する人とお話をするのも仕事のうちというわけですか?」
「はいっ、そうなりますっ。でも、今日は特に当たりですねっ!レイさんって喋ってて楽しいし、気を遣わないし」
「?そうですか? そのようなことはないと思いますけどね」
「そうですよぅ、だっていつもだったら『あぁ!?黙って案内しろっ!乳も出てねぇようなちっさいガキがっ!』とかそんなことを言う、乱暴な冒険者とか色々ですしっ」
「あぁ、冒険者の方は気性の荒い方が多いですからね」
「そうですよぅ!幸い、私は人とお喋りするのが好きな方だから何とかなってますけどっ!私以外だったらきっと早々に根を上げてたと思うんですよっ!だから、私ってすごいっ!もっと大事にしてぇって先輩にも言ってるのに叱ってばかりだし」
「そうですか、ティーミアさんも大変なのですねぇ」
「大変ですよぅ!」
ふむ、言葉の割には楽し気に見えますけどね。
何だかんだと今の職場に充足を感じているといったところでしょうか?
見ていて微笑ましいですね。
しかし、私が話しやすくて楽しい、ですか。
少し不思議な感じですね。
まぁ、情報収集も兼ねているので繋げやすい形で会話をしていますが……こちらの意図には気付いていない様子。
少しばかり罪悪感がありますね。
純粋なティーミアさんを騙して情報を受け取っているかのような……
まぁ好都合なのでこのまま会話が弾むのは大歓迎なのですが、ね。
広い庭を歩き切り、屋敷が近くまで見えてくる。
非常に大きなお屋敷でした。
流石は伯爵家、といったところでしょうかね。
近づくにつれてその大きさが際立って見えてくるのと同時に、物々しい殺伐とした雰囲気を強く感じる。
ふむ、ただ殺気立っているだけではありませんね。
余裕がない、そう感じるのがこの物々しさの元凶でしょう。
「ふむ……ティーミアさん、この黒曜石の納品依頼はいつ頃から始まっているものなのですか?」
「?黒曜石、ですかぁ?さぁ?」
「おや?ご存じありませんか?」
「うぅん、だって私がここで働きだしたのと同時にこの仕事を任せられましたからっ。私が働きだしたのと同じ時期か、それより前ではないですかぁ?」
「ふむ、成程」
聞いてはみましたが、明確な答えは得られませんでしたか。
成程……ティーミアさんが働くのと同時かその前から、ですか。
となると、ティーミアさんを雇うのと同時に集め出したか、何かがあって途中からティーミアさんを雇いだしたか、簡単に考えられることはこのくらいでしょうか?
ただ、納品依頼を出していて、その上リエラさんも依頼のことをよく知っている様子でしたので結構集めていると見て間違いはないのではないでしょうかね?
となると、ティーミアさんがここで案内をやらされている理由は……
確実に何も知らない人材をここに付けたかった?
そのうえで長く働いている者でなければ切り捨てるのも容易にできる。
ふむ、考えられるところとしてはこれくらいですか。
さて、もうちょっと突っ込んで聞いていっても良いのですが……これ以上は不審に思われる可能性もありますかね。
あまり深く掘り下げるのは怪しまれる元ですからね。
「ふ~む、それにしてもレイさんは不思議なことばかり気にするのですねぇ~」
「ん、そうですか?」
「そうですよぅ、今まで来てたのは冒険者の方だったんですけどねっ!金さえ貰えば細かいことなんざどうでもいいって人ばかりでっ」
「……それはまぁ、冒険者ですからねぇ」
まず目的が違いますから。
今までの方と私が違うのは分かりやすいことでしょう。
加えて、冒険者というのは自由を標榜して日々の糧を稼ぐ者ですからね。
細かい裏事情などはあまり気にしない方が多いでしょう。
まぁ、私はその裏事情が目的でここに来てるわけですから、ティーミアさんに違和感を覚えられるのも仕方ないことでしょうか?
これでも気は遣っているのですけどね。
まぁ、私は元々が教師を生業としているので冒険者らしくないのは仕方ないと言えば仕方ないのですが……
そこで、私の方を不思議そうに見ていたティーミアさんがハッとしたように口を開いた。
「もしかして、レイさんって本当は貴族だったりしませんかぁ?」
「はい?私が、貴族、ですか?それはどうしてまた」
「むっ?その反応……貴族じゃないってことですかっ!」
「まぁ、そうですね。私は爵位など持ったことはありませんよ」
「そうですかっ!あ~、よかったぁ~……実は、来た人が貴族だったら内情を探りに来てるかもしれないからそれとなく追い返せって言われてましてっ! もし、貴族だったらどうしようかなっと思ってたところなんですよぅ」
「ほう、それはまた……大変なことを指示されていたんですねぇ」
「はいぃ、もう大変で大変で」
これはまた、よい情報が手に入りましたね。
貴族だったら追い返すように、ですか。
まぁ知られたくないことがある、と考えるのが妥当でしょうね。
万が一にも知られるわけにはいかない、それもとりわけ貴族は嫌がる、と。
情報の徹底的な秘匿具合……それから考えるに秘匿されているものの重要度も推し量れるというものです。
私としては、死の黒杖なんてものが関与してないのが一番良い展開なのですけどね……まぁ、その場合は骨折り損になりますが。
誰も関わっていないに越したことはない。
個人的な希望を述べるとしたら、山賊さんたちが使ったのが最後の一本で死の黒杖に関わっていた組織はもうとっくに壊滅していて、私の心配はただの杞憂で取り越し苦労だった……くらいのしょうもない結末が一番好ましいのですけど、ね。
「ふむ……しかし、貴族は追い返すように、ですか……それは私に言っても良いことだったのですかね?」
「……あっ!」
「おや?」
「あの、レイさん?えっと……今のは、聞かなかったことに」
「今の、というとどこからどこまで?」
「えっと、あっ……情報収集をしろと当主様に言われてたことと貴族様だったら追い返せと言われてたとこと……私が指示されてた内容の全部ですっ!」
「ふむ、それは構いませんが」
「ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!」
「いえいえ」
とても必死な様子で感謝される。
ふむ、慣れない見習いを装って情報を流してこちらを探っている知恵者の線も少し疑ってはいましたが、そうではないようですね。
聞かなかったことに、ですか。
ええ、構いません。
もう情報は入手できましたのでね。
ティーミアさんの望み通り『聞かなかったこと』にしますとも。
ただまぁそれで私の記憶がなくなるわけではないので、それは流石に別な話ですが。
しかしまぁ……
「ティーミアさん。どうして、そのような大事なことを喋ってしまったんですか?」
「えと、それは……ついうっかり、喋ってたら止まらなくなっちゃって」
てへっ、と悪気なさそうに笑う。
本当に不慣れなだけなようですね。
そのことに少しばかり安堵しながら、ティーミアさんの先導に従って屋敷の中へ。
ティーミアさんは中に入るなり、楽し気な様子で屋敷内の説明をしてくれましたが……
「あっ、そこにある変な棒、魔道具らしいんですよぉっ。危ないので触らないでくださいねぇ」
「おや、そうでしたか。ほう、こういったものはこのお屋敷には幾つもあるので?」
「はいっ、数えきれないほどありますっ。なので許可なく触れたりしたらどんな危ないことになるかわかりませんっ。後ろをしっかり付いて来て不用意に触らないでくださいねぇ~」
「ふふっ、はいはい。ではそのように。ご忠告ありがとうございます」
「いえいえっ、これもっ!仕事ですからっ」
門番をしていたリエラさんとは違って聞いたら色々と喋ってくれそうでした。
これはお喋りのし甲斐がありますねぇ。




